雨の夜の再会(1)
感動の再会に涙する。そんな光景を今まで何度も何度も見てきた。
教会という場所柄、訪れる人々は十人十色。様々な想いを抱いてやって来る。
自らの幸福を願う者、他人の未来を願う者、日々に失望した者、そして、日々を失った者。
聖職者は主にそういった人々を善き方向へと導くことが使命であるが為に、人の流す涙というものを常日頃からよく見てきた。
だからなのか、エルフェリスはあまり泣くことがなかった。何があっても、涙も出てこなければ感情を動かされることもない。
エリーゼが姿を消したあの頃に、涙は枯れ果てた。
たとえエリーゼと再会できようとも、絶対に泣いたりはしない。
あっという間に太陽は西の空へと追いやられ、世界は再び夜の帳を纏い始めた。けれどそこにはいつものように柔和に輝く月の姿は無い。
ここへ来てから珍しく、雨の夜を迎えることとなっていた。ざあざあと地上に降り注ぐ雨の音が、部屋の中にいても響いてくる。
わずかに窓を開けてみれば、エリーゼがいなくなったあの日と同じ、湿気た空気の匂いがした。
結局エルフェリスはあの後一睡もすることなく、また再びの夜を迎えていた。
目を閉じると蘇るあの光景が、エルフェリスを眠りの世界から引きずり出してしまったのだ。
血に塗れたルイの姿。そして、彼の手によって灰と化したであろうドールたちの残骸。
明け方の城内を切り裂いたあの悲鳴が、いまだ脳内を駆け巡って止まらない。雑念を振り払おうと乱暴に頭を振り回しても、瞼の裏に焼き付いてしまった場面は消えてはくれなかった。
突然のことに声が出せなかったのも確かだが、あの時ロイズハルトやデューンヴァイスは普段通りに接しながらも手短に話を切り上げると、惨状と化した部屋の扉をエルフェリスの目から隠すようにすぐさま閉ざしてしまった。
ルイは……笑っていた。
何でもないような顔をして。
「……」
言葉を失ったまま、エルフェリスは着ていた黒のショートドレスを脱ぎ捨てて、新たな衣装に袖を通した。
この城を初めて訪れた際にも着てきた神官用の白いローブであった。
とはいっても、エルフェリスのものは例に違わず機動性を重視していたため、この城で与えられたドレスと同じく少し手を加えてある。
王都での式典や教会本部への出頭など厳粛な場にはあまり着用できない代物ではあったが、ヴァンパイアの世界では人間のしきたりなどあってないようなものであった。
それでもこのローブに袖を通すと、少しばかり心が落ち着く気がするのだからまこと不思議なものだとエルフェリスは苦笑する。
――やはり自分も聖職者の端くれということか。
ローブを通して感じる“神”の存在にひどく安堵するなんて、人間の世界にいた時分では認識できなかっただろう。
エリーゼが消えてからというもの、エルフェリスは神に一番近い場所で育ち、神に一番近い存在になったものの、神を一番信用しない人間でもあった。
それがたった一枚のローブを纏うだけでこう感じるようになるのだから、人間の思考回路など案外適当でいい加減なものだと我ながらおかしくなる。
そんなことを考えながら、自分の姿を鏡でしばし見つめた。寝不足による目の下の隈が少し気になったが、思ったより顔色も表情も悪くない。
ふと思い立って指先を軽く閉じた目に沿って走らせると、触れたところが次第にじんわりと温かくなっていった。
「ん。これで平気」
もう一度鏡を覗き込んで自分の顔を確認すると、自然と言葉が零れた。
今エルフェリスが自身に施したのは、神聖魔法を応用した思いつきの回復魔法だった。あまり期待はしていなかったものの、思いのほか満足できる効果が得られたようだ。これならば寝不足のひどい顔を晒さなくてもすむ。
「よし……!」
それから一つ気合を入れて、そしておもむろに胸元に手を伸ばすと、あのクリスタルの十字架を改めて下げ直した。
白いローブの上に違和感なく収まったクリスタルの十字架は、いつも以上にきらきらとして、まるで自発的に輝きを放つかのようであった。エリーゼとの再会を、この十字架でさえも待ち望んでいるのか。
これはエリーゼへの唯一の手掛り。
この十字架がいつかきっと、エルフェリスをエリーゼの元へと導いてくれると信じていた。だから胸元に隠しておくことはもう終わりだ。
このクリスタルの輝きが、エリーゼの瞳に映るように、エリーゼの心を捉えるように。そんな願いを胸に抱きながら、エルフェリスはまた皆が集っているであろうあのホールへと下りて行った。
朝は不本意ながらヘヴンリーと出くわしてしまったが、これからの時間はたくさんのヴァンパイアやドールたちで賑わうはず。
ならば今夜は下りてみよう。エリーゼというドールを探して。