聖剣を携える者(4)
「わが一族は古来より、ヴァンパイアと戦うことを宿命としてきました。祖先に至るまで、わが家系には歴戦の戦士たちが名を連ね、それにまつわる武器や戦術書も多く残されておりました。けれどそのほとんどは門外不出とされ、世界どころか他家の目にも曝されることは無かった。当時、人々の最高位に立っていたのは、王ではなく神聖魔法使いたちです。彼らはヴァンパイアに対抗する武具を授ける代わりに、永劫に渡って他言無用を固く誓わせた……」
「どういうこと?」
話の先が見えなくて、混乱しそうになる頭を小さく振るエルフェリス。隣に座っていたデューンヴァイスはそんなエルフェリスを一瞥すると、サフィに話を続けるように促した。
「つまり、魔法を使える者が限られているのなら、その力を武具に込めることはできないかと人々は考えたのです」
「神聖魔法を宿した武具……。でもそれならどうして隠さなければならなかったの? 隠す必要なんてないのに」
サフィの言葉を復唱するように呟くエルフェリスを見やりながら、サフィはその答えを明らかにしていった。
当時の聖職者たちは何代かの年月を経て、彼らの持つ神聖魔法を武具に込めることに成功する。剣であったり、弓であったり、メイスであったり、様々であった。
けれど、これでヴァンパイアと対等に渡り合えると歓喜したのも束の間、聖職者たちはまた新たな壁にぶち当たった。
神の力を込めた武具を扱う者にもまた、それに見合うだけの資質を求められたのである。
力無き者が一度でもかの武具を握れば、その者は一瞬にして滅び、武具自身もまた長年潮風に曝された金属のようにぼろぼろと朽ち果ててしまったのだ。
だがたとえその課題をクリアできた者がいたとしても、その先にまた聖職者たちの頭を悩ます問題が控えていた。
見事神の武具を手に入れ、無敵の武勇を誇った勇者でも避けられない運命がそこにはあった。
死である。
彼らの死は魔法の武具の使い手を減らすこともさることながら、武具自身からも聖なる力を奪い去り、元の平凡なそれへと姿を変えた。
一度力を吹き込んだ武具に再度同じ力を込めることは叶わず、結局は神聖魔法使いと同じように、新たな人材を常に探し回らねばならなくなった。
だが、神聖魔法使いと違って、聖なる武具の使い手探しには当然死の試練が付きまとう。
だから聖職者たちは箝口令を敷いた。
それだけに留まらず、神の武具について書物に記述することを禁じ、一度聖なる力を得た武具が再び世に出回ることを防ぐために、かつて聖武具と呼ばれていたそれらは破壊されたり、あるいは誰の目も触れぬような地下深くでひっそりと管理されることとなった。
気の遠くなるような年月を経るごとに存在は忘れ去られ、それは知る人ぞ知る伝説となっていった。
サフィの一族は長きに渡って聖なる武具の勇者を輩出した家系ゆえに、この伝説が語り継がれてはいたが、なにぶんサフィ自身も人間世界を離れて久しい。だから忘れていたのだ。
「神の武具とはいえ、神聖魔法のすべてが宿るわけではありません。けれどもしその男の持つ剣が祝福を受けた物であるならば、ロイズ様のお怪我もまた、どのように推移するか予測することは困難です。……それにしても、まさか今でもその方法が受け継がれている可能性があるとは」
そう言って、彼女は一息付いたのであった。
「聖なる力を……デストロイが?」
エルフェリスにはその話がにわかに信じられなかった。
神聖魔法と同じようにヴァンパイアと対抗するために力を与えられた、聖なる剣。
けれどその力を得るためには、神聖魔法を操る聖職者たちの力が必要となる。
神聖魔法を操る、聖職者……。
「デストロイが……教会本部と繋がっている?」