第三十九話 あなただからこそ
翔の力が、真琴の身体の行く先を阻む。だが、真琴は負けずに走った。ただ一人の姿を目指して。翔の力は強大で、能力封印装置も効かなかった。だから、あの翔を止められる事が出来るのは、もう真琴しかいない。自分しかいないのだと、真琴は思っていた。真琴は、なおも破壊活動をしている翔の前に立ちふさがった。
「翔さん・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「もういいんですよ。全部終わったんです。翔さんのおじいさんは逃げてしまって、もうここにはいません。だからいくらここを壊しても、なにも変わらないですよ?あの人はまた、同じように立てるでしょうから・・・。だから・・・もうやめて・・・・帰りましょう?」
だが、翔にはその言葉は届いていないようだった。怪しく輝く青い瞳で、じっと真琴を見下ろしていた。真琴も負けじとしっかりと視線をそらさずに翔を見る。
しばしの沈黙が、二人の間を漂った。
だが、次に聞こえてきたのは、翔の声でもなく、真琴の声でもなく、床の砕け散る音だった。真琴が先ほどまでたっていた床が、翔によって砕かれたのだった。
「っはぁ・・・はぁ・・・・。」
『くぅーん・・・・。』
真琴は間一髪、コクとビャクに助けられて、その少し後ろに逃げていた。
「あ・・・ありがとうコク、ビャク。」
真琴は再び翔に向き直った。真琴が分からないほど、翔の力は暴走していた。真琴は、再び、翔に近付いて行った。二匹がそれについて行こうと動いた。だが真琴はそれを手で制した。真琴は、砕かれて沈んだ床を踏み、さらに翔に近付いて行く。翔はそれに反応し再び拳を振りおろそうとする。真琴はその降りてくるこぶしの力を抑制した。力を失ったこぶしはそのまま下にだらんと降りた。真琴はもう翔の目の前に来ていた。
「翔さん。ここ壊したいなら、僕を壊して終わりですよ?僕がいれば、あの人の夢はまだかなえられてしましますから・・・・。あの人の望みさえ打ち砕ければ、翔さんも、護さんも充さんも自由になれます。だから、僕を壊してください。僕はもともと・・・生まれてくるべきじゃなかったから・・・・。だから、壊してください。貴方に壊されるなら・・・僕も・・・うれしいですから・・・・。」
また一歩、真琴は翔に近付いた。ピクリと、翔が動いた。真琴はゆっくりと目を閉じた。
これでいい。これですべてが終わるなら、僕は喜んで死を受け入れる。もともとそれこそ、産まれてくるはずのなかった自分。それが、この人を・・・この人たちを苦しめるのなら、生きていっても意味はないから。18年。生きられただけでもそれだけでも幸せなんだ。この世に生を受けて生まれてこれとた事、それは僕にとって奇跡であること。この世に生まれてくることはとても幸運なんだと思うからこそ。自分が大切だと思えた人たちには、幸せでいてほしいから・・・・。
あなたには、幸せでいてほしいから・・・
だって、僕の大事な人だから
翔の手が、真琴を貫くのにそう時間はかからなかった。
いつの間に真琴は翔のことを大事な人だと自覚したんでしょうか・・・
本家にいる間にでも・・・とお考えください。