第三話 平凡な生活はいずこ?
第三話ですね。
見にくくないか心配ですわ・・・・・。
目が覚めると、最初に見えるものって何?
天井?窓から差し込む光?白いシーツ?
でも、今の僕が見ているものは・・・整った顔だち。
翔の顔だった。
まぁ、ここは翔の部屋なのだから、翔がここで寝てるのは当たり前なのだが、朝から美形の顔見るって、心臓に悪い。ほのかに伝わってくる相手の体温。がっちりと腰にまわされた手。眼鏡がなくてよく見えないが、これは所謂抱き枕ではないだろうか?
「ふにょう・・・・ふぬぬぬ・・・・だめだ・・・。」
どうあがいても、抜け出せない。そんな真琴の小さな抵抗に気がついたのか、翔が目を覚ました。
「おはよ。」
「おはよう・・・ございます・・・・。あの・・・なんで?」
「何が?」
「なにがって・・・この状況はなんですか?」
しばらく間があった後、くすっと翔が笑った。
「ああ、つい。ちょうど抱きつくのにたまらないサイズだったんだなこれが。抱き心地最高だし、それでつい。・・・・・・いやだったか?」
「いやというか・・・・びっくりしたというか・・・。恥ずかしいというか・・・新鮮な感じと言うか・・・・?」
「そっか。」
「で・・・・いつまでこのままなんですか?」
「あはは、悪い悪い。」
そういって翔は真琴から離れて、ベットに腰かけるように起き上がった。二人で一階のリビングに行くと、そこにあるダイニングテーブルには美味しそうな朝ご飯がもうもうと湯気を立てていた。メニューは出し巻き卵に塩じゃけ、キュウリの浅漬けだ。
「これ・・・もしかして、護さんが?」
「そ、ご飯とか家事はあいつの担当。ま、あいつしかできないんだけどな。」
「ただやらないの間違いなんじゃないの?」
四つのご飯茶わんとお味噌汁、お茶が乗ったお盆を持って、キッチンから護が現れた。
「おはようございます、護さん!」
「おはよー琴ちゃん。翔に変なことされなかった?」
「へ?」
「おはよう、護。」
朝ぶろから帰ってきた充も混ざり、四人は朝食を食べ時始めた。
「そういえば、今日翔と琴ちゃん出掛けるんでしょ?」
「ああ、真琴の眼鏡頼みにな。あといろいろ必要なもん買ってくるけど、なんかほしいもんある?」
「ティッシュ買って来て、あと今日の夕飯だけど・・・。」
「ハンバーグが良い。」
充が急に言葉をはさんできた。
「充ねぇ・・・・。俺はハンバーグ作れないよ?」
「真琴は出来るよ。ね、真琴?」
「え・・・あ・・・まぁ、家庭料理くらいなら。」
「ほらみろ、僕の調査に死角はない。ってことで、今晩はハンバーグだよ。」
有無を言わさず晩御飯のメニューが決まった。
「あ、それとさ、琴ちゃん家どこ?」
「え・・・家ですか?アパートはここから駅二つ目の神門駅の近くのアパートです。神門コーポ。」
「鍵は?」
「鍵なら・・・ここに・・・。」
そういって真琴は家のカギと自転車の鍵がいっしょになってついているキーホルダーを、ポケットからだした。
「でも・・・・なんでですか?」
「今日、俺と充暇だし、だから荷物運んじゃおうと思って。そのほうが楽でしょ?」
「それは・・・でも、悪いですよそんな・・・。」
「あれれー?何か見られてまずいものでもあるのぉ?ま、琴ちゃんもお年頃だしねぇ。」
「な・・・なにを言ってるんですか!?そんなことないですけど!ただ、そんなことしてもらうのは・・・悪いかなって・・・。だって・・・。」
すると、横に座っていた翔に頭をなでられた。
「いいんだよ、護はそういうの好きだから、やらせとけ。暇だと、新しい女に手を出すしな。」
「それはどういう意味だい?」
「ごちそうさまでした。」
着替えた二人は、鍵を護に預け、駅前の商店街にいた。最初に眼鏡屋に行って真琴の眼鏡を新調し、次に薬局に行ってティッシュやそのたもろもろを買いそろえた。
「あとは、夕飯の材料買うだけですね。」
「だな。ったく、パシリみたいに、次々に頼みやがって。」
「でも・・・・僕、今すごく楽しいです。」
「真琴・・・・・。そっか、それはよかった。」
「翔さん?」
「お前が、無理してんじゃないかって思ってた。結構、無理やり話進めてたしな。真琴、言いたい事言えなかったんじゃないかなーって。」
「そんなことないですよ。僕、うれしかったです。あの家で住もうって言ってもらえて、こんなことほんとにあるんだな・・・って。ありがとうございます、翔さん。」
「いいってことさ。そういや、護に家事全部変わってくれって頼んだんだって?」
「はい。まぁ、お世話になるんですから。これくらいはしないと、と思って。せめて家事の方でお手伝いできればいいなって。あ、ご飯は護さんと、交代でやることにしたんですよ。」
「へぇ、ま、護が和食しか作んないし、充は洋食派だからちょうどいいんじゃないか?」
「だといいんですけど。・・・・あの・・・・。」
「ん?」
「・・・・いえ・・・・やっぱりなんでもないです。」
「なんだよ、気になるだろ?」
「いえ・・・あの・・・翔さん達のご両親って・・・一緒に住んでないんですよね?」
「ああ、その事。俺の両親は、両方あの世に行ったな。」
「え・・・・・。そうですか・・・すみません、なんか・・・。」
「気にしてねーし。それに、あの親どもは、俺には構いもしなかったからな。親と思ってないから。あとの二人もおんなじだな。護なんか父親と、そりゃすごい大喧嘩してそれっきり会ってないんだ。っははははは、笑えるだろ。」
「わ・・・笑えるんですか・・・・・。」
「それに、俺は親の顔なんか知らないしな。あ、俺父親にそっくりらしいけどな。」
「僕はたぶんお母さん似かなって思いますけど。」
「だろうな、そんな可愛い父親いたら見てみたいな。」
「また、可愛いっていいましたね!!もう、昨日からそればっかりじゃないですか・・・っえ・・・・・?」
地面に向かって、倒れていく翔が見えた。何が起きたのか、真琴がそれを理解する前に、口元に布が押し付けられた。つんとした薬品のにおいが、真琴の意識を奪っていった。
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