第三十五話 決断
真琴の決断です。
最近翔たちが出てこない・・・・
どうやって、あの部屋に帰ってきたのかは分からない。傍にはコクとビャクがいるのだから、ここは間違いなくあの客室らしい部屋だ。
真琴はたまらず、二匹を抱きしめた。震える真琴を、二匹は心配げに見つめ、コクはただ大人しくし、ビャクは真琴の頬を舐めた。
知ってしまった事実。それは真琴が想像していた以上のことだった。
「僕はね、普通じゃないんだ。ホントの両親なんか最初からいなかったんだ。子どもって親の愛の結晶って言われるけど、僕はだれも愛し合って生まれたわけじゃない。あの・・・翔さんのおじいさんのたくらみから、僕は生まれたんだって・・・。今だに信じられないけど、そうならそうなんだなって思えるんだ。不思議だよね。こんなのって・・・。僕はね、家族ってよくわからないから、親からの愛とか、兄弟からの愛とか、そんなのわからない。でも・・・大切な人って言うのは、僕にもいる気がするから・・・。もちろん、コクもビャクも大切な僕の式だから。傍にいてくれてありがとう。やっぱり・・・僕一人じゃ駄目だね。」
「犬相手によく話せるな。」
「!香月・・・・・?」
「なんで疑問形なんだよ。俺は本物の東條香月だっての。」
「冗談だよ。偽物だったら最後にちびってつけるだろうから。」
「ったく、帰ってんならそう言えっての。」
「まさか、ずっと待ってたの?」
「俺はおまえのお目付け役なんだよ。世話係の身にもなってみろ。」
「あはは、ごめんよ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・香月、僕『白姫』だった。」
「・・・・・・・。」
「しかも、普通じゃなかった。人間でもないかもしれない。」
「・・・・・・・。」
「でも、僕今生きてるから・・・ちゃんと自分の考え持って行動出来てるから・・・。僕は人形なんかじゃないって思っていいよね。」
「・・・・・・・そこで俺がお前を否定したら、それは俺自身も否定したことにいなるしな。」
「え・・・・・。」
「俺も・・・母体から直接生まれたわけじゃない。俺の遺伝子提供者は、翔の父親だった。だから、まぁ・・・翔とは異母兄弟ってことにしてる。半分しか血がつながってないって言うのはほんとだしな。お前が作られた四年前に、同じような実験が行われていたらしい。そのときも、十体以上の実験体があった。だが、結局正常に生まれなおかつ生き残っているのは、俺だけだな。」
「翔さんのお父さんが、言ってたまた一人だけか・・・・って言うのはそういうことだったんだ。」
「別にお前だけが異端の存在じゃねーし。翔達も俺の事は知ってるけど、さげすんだりしないやつらだぜ?それ踏まえてこれからどうしたいのか考えろよ?」
「うん。・・・・ねぇ、香月は『抑制』の能力持ってるって本当?」
「誰から聞いたんだ?」
「ん・・・前に・・・あ・・・馬鹿月の方がね翔さんの家に来たんだ。そこで護さんが言いふらしてたからおんなじなのかなって。」
「ああ、清忠は『複写』っていう能力者で他人そっくりに自分の容姿を変えることができるからな。能力は『複写』と『服従』と・・・『治癒』、も少しあったっけ?他人になりすましても、そいつの能力は使えないけどな。」
「ふーん・・・で、香月は『抑制』使えるの?」
「ちょっとだけどな。複数持ってると特異な能力とそうでない能力の差があるからな。『抑制』はただでさえ希少なんだ。俺は百%も引き出せないさ。お前の方が強いんじゃねーの?」
「わからないよ。つかったことないし・・・一回繁春さんにつかったみたいだけど、無意識だったから・・・。」
「まぁ、能力に接触しない限り、『抑制』は発動しないからな・・・。てか、なんでそんなこと聞いたんだ?」
「んっとね・・・・僕能力者だとわかった以上、この力使いたいんだ。どう役に立てるかは分からないけど、でも出来ることならやりたいし、『白姫』ってことなら絶対何か出来るはずかなって思って。香月なら力の使い方とかわかるかなって・・・。」
「つまり、力の扱い方を教えろと?」
「うんまぁ、そんなかんじ。だめかな・・・。」
「はぁ・・・俺はだれかに教えたりとかしたことねーけどそれでもいいなら教えてやる。」
「ありがとう。」
たとえ自然の理に反して作られた存在だとしても、僕は僕だから。きっと何か出来ることはあるし、産まれた理由もあると思っていいと思う。だから、この身に宿る力を僕は利用したい。
誰かのために、役に立てるのなら。
香月も実は出生は真琴と同じで、違うのは遺伝の提供者が稔(翔の父)であること。生まれ出てきた子供が持つ能力は親とはあまり関係なく、香月のように『抑制』の力を持って生まれてくることもあります。