第三十二話 人に造られし者
意味深なタイトル。
読んでいくと解ります。
中はさらに薄暗く、下には柔らかな絨毯が一直線に奥へと向かって伸びていた。部屋の中には畳のい草のにおいと何かの香のにおいがした。上につるされた証明からは淡い光が弱弱しく降り注ぎ、部屋を怪しく照らし出していた。真琴はさらに奥へと足を運んだ。しばらく歩いているうちにこの薄暗さにもなれた。そして、奥の方に、横に長い椅子に足を組んで座る人影を見た。真琴はその人影から少し離れたところで立ち止まった。
「お前が・・・・例の子どもか・・・・。」
聞こえてきた声は低く、だが、若々しい声だ。しかも目の前に座っている男は初老どころかまだ30代くらいだ。どういうことなんだろうか・・・。この人が本当に翔の祖父なんだろうか。
「貴方が・・・翔さんのおじいさん?」
「いかにも、私は翔の祖父、大谷譲だ。さて、何故ここに呼ばれたか、お前にはわかっているのか?」
「・・・いいえ・・・・。」
「お前は確か、過去の記憶がないと?」
「まぁ・・・・。」
「私は知っているぞ。お前の過去を、そしてお前がなんなのかを。」
「なんで・・・あなたが・・・・?」
「私だからこそだ。」
「え・・・・・・・・・・?」
「いい機会だ。君が知りたがっている事なんでもこたえてやろう。さぁ、なんでも聞くが良い。」
突然そんなことを言われて、真琴はひそかに困ってしまった。確かに聞きたいことがたくさんある。けど、自分の記憶は出来れば自分で思い出したいのだ。今までも、誰かに頼って生きながらえてきた自分が、何故か許せないからだ。でも、目の前の人は、そんな自分の全てを知っているという。聞きたい。聞いてしまえば、このもやもやも全て消え失せる。知りたい。自分が何なのかを・・・知りたい。
「貴方は、僕の親を知ってるんですか。」
「・・・・是と言っておこう。」
「はい、いいえで答えるつもりですか?」
「今の問いには是と言う答え方がふさわしい。詳しく知りたければ、誰とでも聞けばいい。」
なんだろう、この回りくどいやり方は、少し頭を働かせなければだめという事だろうか。
「誰・・・とまでは聞きません。いるならいるで良いんです。それで、僕はどこで生まれたんですか?」
「ふむ・・・この町とでもいっておこう。」
「ここ?この町が僕の生まれた町?」
きりっと、頭に嫌な痛みが走った。何かが思い出せそうな、思い出させなさそうな感じがする。
「僕の名前はだれがつけたんですか。」
「私の息子だ。」
「息子?・・・・・って・・・それって・・・・翔さんのお父さん?」
「いかにも。我が息子、大谷稔だ。わが息子が、自らの伴侶の名を取り、お前に名づけた。真琴とな。」
「伴侶って・・・翔さんのお母さん?え・・・・なんでそうなるんですか?僕は昔、その二人にあってるんですか?」
「会っている。しかも、その二人はお前に一番近い存在。」
「近い・・・・存在?」
「お前の元となった存在だ。」
「え・・・・・・?なんですか・・・それって・・・・。」
さらに頭痛がまし、思い出してはいけないとでも言うように警鐘を鳴らしている。真琴は思わず、頭を抱えてしゃがみ込んだ。痛すぎる。頭が割れそうなくらい。
「その言葉の通りだ。お前の細胞、内臓、脳、体躯。そのすべてを作り、存在を作る元となったのは、翔の母親、美琴。彼女の細胞と遺伝子をとある能力者の力で、急速分裂させ、お前の肉体を生み出したのだ。」
「っ・・・・え・・・・それって・・・どういう・・・・。」
「お前は、作られた紛い物の人間・・・だ。お前は人間であって人間ではない。作られた、クローン体だからな。」
その事実は、真琴にとって信じられないほどの衝撃を与え、真琴はそこで意識を手放した。遠のく意識の中、誰かの声を聞いた気がした。
意外な真琴の出生。
次回は真琴の過去に触れていきます。