第二十六話 さよなら
翔たちが出かけた後、真琴はベットに腰かけていた。二匹が心配して彼の足にすり寄るが、何の反応も示さない。そして、ゆっくりと立ち上がると服を着替え、そのまま部屋を出ていった。二匹もその後に続いた。真琴はそのまま外へと出た。二匹は真琴の中へと戻った。鍵もかけず、ふらりふらりと真琴はどこかへと歩いて行った。そして着いたそこにいたのは、香月だった。
「やっぱ来たか。で、決まったのか?どうするか。」
「・・・・・・・・・・・僕は思い出せない。でも、思い出したくないわけでもない。でも、僕のせいであの人たちに迷惑がかかるなら、僕はどこかに消える。」
「それがお前の答えだと思っていいんだな?」
「・・・・・・。」
「あいつらに関わらないようにしたいなら、本家に来い。あいつらは本家のこと毛嫌いにしてるからな。」
「・・・・・・・・うん。」
「いっとくけど、携帯は置いてきたな?もちろん、俺の事はあいつらには教えてないだろ?」
「うん。」
携帯は机の上に置いてきた。意識が途切れる前に香月がいっていたことも、彼らには知らせなかった。つまり、いまここに真琴がいる事を知っているのはだれもいない。
「じゃ、いくか。」
歩きだした香月の後ろを、真琴はゆっくりと着いて行った。香月にはあえて言わなかったが、真琴は自分の携帯に言葉を残していた。
*真琴の携帯*
【翔さん、護さん、充さん。黙って姿をくらましてごめんなさい。
今までありがとうございました。
僕は、僕を知るために、その家を出ることにしました。どこに行くかは、僕にもわかりません。でも、気が向くままにすすんでいくつもりです。三人や、若奈さん、春奈さん、要一さん、優さんにはお世話になりました。いままで楽しかったです。隆兄ちゃんや、池谷さんにもお礼を言っておいてくれると嬉しいです。僕は元気にやっていくと思います。僕の事は忘れて、元気に過ごしていってください。
あの日、翔さんに会えてよかったです。
会えなかったらきっと、自分のことを知ることも、知ろうとも思わなかったと思います。家族ってこういうものなのかなって、思えてうれしかったです。
もう会う事はないでしょう。
もう話すことはないでしょう。
ともに暮らすことも、ともに笑う事もないでしょう。
僕はもともと関わりのない人間だったんです。僕にとっては、これ以上ないほどの暮らし。僕は一人であるべき存在。だからこそ、自分を知って、独りで生きていこうと思います。よくこういうときにいいますが、探さないでください。もうこれ以上、僕のことで、皆さんに迷惑はかけられません。心配させておきながら、こんなことを言っている僕を許して下さい。僕を笑って受け入れてくれた皆が眩しかった。それだけで、僕はうれしくて、幸せでした。ごめんなさい、そして、ありがとうございました。
中澤真琴。】
僕は一人、歩いて行きます。過去を取り戻すために。
真琴の決意は運命をおおきく揺るがし、そして核心に迫っていく