第二十五話 錯乱
次第に動き出す運命
真琴と翔はどうなってしまうんでしょうか・・・・
混濁した意識の中、真琴は必死だった。今にも封じられた記憶が、呼び戻されそうで怖い。思い出してはいけないんだ。今のこの状況を、暮らしを失わないためにも。
それから二日たつが、以前真琴の意識は戻らないままだった。熱は38度台まで上がり、苦しそうに荒い息を発している。あの後、充の連絡で帰ってきた護と、その後に来た要一、近くの病院に勤めていて今日は夜勤だったらしい立花優が真琴の部屋に来た。まず医者の立場から優が真琴の症状を見たが、どうやら風邪の類ではないらしい。というよりもこれは、能力の過負荷が原因ではないかという事だった。とりあえず、要一の能力『治癒』で熱を取り除こうとした。だがあまり効果はなさそうだった。精神からくる症状らしく、身体を治癒することはできても、中を治癒することはできないからだ。護がいうには、繁春に探られただけでもそうとう真琴の精神には負担がかかっていたらしいのに、また何らかのせいで負担がかかってしまって身体の方にまで影響を及ぼしているという。
翔は今一人で、真琴の看病を続けていた。といっても自然と熱が引くのを待つしかないらしく、出来ることと言ったら額に乗せる冷えピタと、頭の下に敷いているアイスノンを交換するくらいだ。真琴は今もなおベットの中で苦しんでいた。
「なにが・・・あったんだよ・・・・真琴。」
その時、真琴がうっすらと目を開いた。
「ま・・・こと?」
思わずかがんで顔を覗き込むが、どうやら意識はまだはっきりしていないのか、ぼぅっと翔の方を見ている。
「―――――――――――――――。」
「え・・・・なんていったんだ、真琴。」
「ぼ・・・・・・・・に・・・・・・・・・・?」
真琴の口から、か細く聞こえてくる声を翔はなんとか聞きとろうとした。
「僕・・・・・って・・・・なに・・・・・?」
「何って・・・お前は中澤真琴だろ?」
「真琴って・・・誰がつけた・・・・・・・?」
「それは・・・・・。」
「親・・・・だれ・・・・・?」
「それは・・・その・・・・・。」
「なんで・・・・僕は・・・・・捨てられた・・・・?」
「っ・・・・・・。」
「好き・・・・・って・・・・・どういう・・・・・こと・・・・・?」
「え・・・・?」
「人を・・・・愛する・・・・って・・・・・なに・・・・?」
真琴の問いかけは、途中から奇妙なものに変わっていった。自分の事から、人を愛するという事に関しての疑問になってきている。翔は逡巡した。
「なんで・・・・僕がいると・・・翔さんが・・・・死ぬの・・・・?」
「おい・・・何言ってんだよ・・・真琴?」
「死ぬって言った・・・おんなじだって言った・・・・なにが?どうして・・・・?僕・・・なんなの・・・・・?」
「真琴、どうしたんだよ。」
「僕は・・・・思い出しちゃ・・・・だめ・・・・。思い出したら・・・・僕・・・ここにはいられない・・・・。」
「なんでだ・・・・・?」
「いたら・・・・皆困る・・・から・・・・・。」
そう言い残し、真琴の意識は再び眠りについてしまった。
「こんなにも悩んでたんだな。それなのに俺は気づいてやれなかった。ごめんな、真琴。こんなになるまで、悩ませて巻き込んで、もうこれ以上、お前を巻き込みたくないんだよ。」
その時部屋をのドアをノックする音が聞こえ、護が中に入ってきた。
「?どうかした?」
「さっき一回目を覚ましたんだ。」
「琴ちゃん?」
「ああ。でも、まだ混乱してるみたいで、なんかいろいろつぶやいてた。僕って何・・・とか、僕がいると俺が死ぬとか。」
「翔が死ぬ?どういうことそれ?」
「さぁ・・・・それより、どうかしたのか?」
「あっ、そうそう。呼び出し食らってるんだけどさ、俺達三人。」
「誰にだ?」
「『黎明』幹部様。どうする?」
「いかない。いく気にもならん。」
「若奈と、春奈がつかまってるんだけど。」
「な!?・・・・ちっ、きったねーことしやがって。わかった、俺も行く。」
「琴ちゃんはどうする?」
「連れ出すわけにはいかねーだろ。」
「でも、要一も優も仕事にいっちゃったし・・・・。」
「・・・・・おい、コク、ビャク。でてこいよ。」
すると、どこからともなく式のコクとビャクが現れた。
「お前ら、俺達がいない間、主のこと守ってろよ?」
二匹は素直に頷いた。そして、真琴が寝ているベットのわきに伏せた。
「これでもんだいないだろ。さ、行くか。」
二人は慌ただしく部屋から出て、下にいた充と合流した。そして指定された場所へと向かった。
そのころ、真琴の意識がまだあったとも知らずに。
次回、真琴が行動を起こします。