第二十話 翔の両親
祝!二十話!!
これほど長い小説は初めてなのです。
これからもがんばります!!
あの日は黒い雲が空を覆っていて雨でも降り出しそうなそんな日だった。でも、翔の胸中はそんな空よりもさらに曇っていた。
「帰りたい・・・・・・。なんで俺が・・・・。」
この日、翔は生まれて初めて両親と対面できるはずだった。生まれてすぐ両親は翔を他の者に預けた。だから翔は両親の顔もどんな人なのかも知らなかった。だが、中学に入学したら会わせてもらえるという事だったようで、今日がその日だった。翔は不安とうれしさに心を揺らしながら、両親が済む屋敷に向かっていた。着いた時にはすでに、小雨が降り出していた。慌てて屋敷の中に入るといやに静かなのが気になった。お手伝いの姿も見えない。
「あの・・・どなたかいませんか!?」
だが返事はない。さらに二・三度飛びかけてみたが返事は帰ってこなかった。
「は・・・入りますよ?」
玄関で靴を脱いだ翔は、鞄を玄関に置き、中へと入った。だが、なかなか両親の姿を見出すことができなかった。さらに奥へと進む。古くからある日本家屋のような屋敷は平屋建てでとても広かった。奥へと進むうちに、異様な空気が辺りを漂っていることに気がついた。錆びた鉄のような香り、雨のせいではないような陰気な空気。
「うっ・・・なんだこのにおい・・・臭い・・・・。」
翔はある光景を目にして足をとめた。障子には赤い液体が飛び散っていて室内の壁、天井、床にも同じ液体が飛び散っていた。その液体から鉄のにおいがして来ていて、翔はすぐそれが血だとわかった。そして、血だまりの中で倒れている二つの骸を見て翔は全身の血が抜けたような感覚に陥った。
「うそ・・・・・だろ・・・・・なんで・・・・?」
翔はゆっくりと室内に入った。そして、二つの骸の顔を覗き込んだ。一人は男で、自分によく似た顔だちだった。もう一人は女で男に見合う可愛らしい顔立ちの女だった。まるで眠るように、横たわる彼らこそ、翔の両親であった。虚しくも、両親とは無言の面会になってしまった。
そこで翔はいったん口を閉じた。隣でおとなしく聞いていた真琴は、顔面を蒼白させている。あまりにも内容が衝撃過ぎたのだ。亡くなっているとは聞いていたが、まさか殺されているなんて思ってもなかった。
「それから俺は、両親の仇を取りたいと考えるようになった。でも、仇打ちなんか途中でどうでもよくなった。もともと捨てられたも同然だったんだしな、だから俺は護たちと共にあそこの本家から抜け出そうと考えるようになったんだ。もう、誰かのせいで生活を縛られるのは嫌だからな。」
「その・・・殺した人って・・・誰だかわかったんですか?」
「いや・・・・結局俺も詳しくは調べようとしなかったから・・・。俺は知らないけど、充とかは意外と知ってるかもな。自分で調べたりしてさ。もう俺は見つけ出してどうこうしたいとは思ってないけどな。結局、俺は両親とは会えなかった。」
「え・・・・?」
「生きてるうちに会う事はなかったんだから、会えなかったも同然だよ。俺は両親の声も、どんな人柄なのかも、結局知らないままなんだからな。さって、掃除でもすっか。一年に一度・・・最近は来てなかったしな。」
「何年ぶりなんですか?」
「・・・・・・3年ぶり?」
「え・・・・?」
「ひとりじゃさ・・・何か来にくかったし、なかなか決心できなかったのもあるしな。でも、真琴が来てくれるなら大丈夫な気がしたんだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ありがとな、いまもこうしていてくれてさ。」
フッと笑った翔はそのまま菊の花束をお墓のそばに置き、くるんでいた新聞紙を外した。ハッと我に返った真琴もそれを手伝った。線香からあの独特な香りが立ち込める。二人は並んで合掌した。そんな時だった、突然真琴がくらっと倒れこんだのだ。慌てて翔はその体を受け止める。
「真琴・・・・真琴!?」
しかし返事はなく、規則正しい呼吸音が聞こえてくるだけだ。
「いきなりなんでだ?」
『まだ、気づかれるわけにはいかないからな。』
「!?」
気がつけば、墓のすぐそばに二頭の獣がいた。それはこの前真琴が説明していたあの夢に現れたという獣に酷似していた。だが、その獣の前に人間が現れた。一人は男、もう一人は女だ。その人間はなぜか半透明だった。向こうにあるはずの墓石が透けて見えている。
『やっと、会えたわね。我が息子に・・・。』
「は・・・?っ・・・まさか、二人は・・・・・。」
『今はこの墓の下に眠るお前の親だ。』
確かに、男の方の顔は自分に似たところがあるし、女の方も何かしら自分を思わせるところがある。それに、あのときあの部屋で見た二人に間違いないのだ。
『ごめんなさい、許してなんて言わないわ。私達は貴方にホントは会わせる顔なんかないの。でも、これだけはお願い。その子を、守ってあげて。』
「は・・・?その子って・・・真琴か?」
『そうだ。その子とお前がであったのは必然だ。お前がどう過ごして来たであれ、この子と出会うのは必要なことだった。』
「?」
『貴方にはその子が必要になる。そして、その子の存在意義にもなる。おねがいね・・・、私たちの事は恨んでくれて構わないの、ただ、その子だけは傍に居させてあげて。』
「どういうことだ?なんで二人は真琴のことを知って、夢にも現れたんだ?」
『・・・・・・・・お前と俺達にもそれぞれのつながりはある。そしてその子と俺らにも、つながりがある。』
「どんな?」
『それは今にわかるわ。いまはなにも言えないの。きっとその子から貴方に話すときがくるわ。だからそれまで待ってて欲しいの。』
『そろそろ・・・俺達はいかなきゃな。』
「いくって・・・。」
『死んだものは少なからず天上界にいくだろう?俺たちだってすでに死した身。それが理だからな。』
すぅっと二人の姿は薄くなる。翔はそれを見てしばし慌てた。
「ちょ・・・待てよ。・・・・俺べつにあんたらの事は恨んでもない。ただ・・・昔っから言いたかったんだ・・・産んでくれてありがとう・・・父さん、母さん。」
その翔の言葉を聞いて、父親はつんと澄まし、母親は一筋の涙をこぼした。すると、何食わぬ顔をしていた父がふと何かを思い出したように口を開いた。
『そうだ、この後ろにいる獣は万が一の時のため、その子に憑けた式だ。お前がいないときに万が一のことが起こったらこいつらがその子を守る。まぁ、少なからずはお前が守れよ。』
「あ・・・・あぁ・・・・。」
今度こそ、両親の姿は墓石に吸い込まれるようにして消えていった。二匹の獣は、真琴の中に消えていった。
「・・・俺、絶対性格は母さん似だな。うん、そう信じたい。」
「ん・・・・・あれ・・・・!?え・・・僕なんで・・・どうして?」
「疲れが出たんだろ?やっぱ、無理させない方がよかったか?」
「もう、いつまで過保護にする気なんですか!?僕もう大丈夫ですって。でも・・・なんで倒れたんですかね・・・?」
「さ・・・さぁな。ま、良いじゃんか、気にすんなよ。」
「何か隠してます?」
「いんや、むしろ感謝してる。」
「?」
わからず首をかしげる真琴の頭をぐしゃぐしゃとなでまわした翔は、そのまま車の方に帰っていく。
「あ、待ってくださいよ!!」
すぐに追いかけようとした真琴だが、ふと足をとめた。そして、墓石の方に振り向くと一礼した。そして翔のあとを追いかけるのだった。
『おっきくなってたわね、二人とも。』
『・・・・・。』
『翔は初めて会った時の貴方とそっくり。何もかも似てるのね。』
『何もかもは余計だ。』
そう言って、翔の両親は天上界へと旅立った。
お読みくださってありがとうございます。
獣たちの姿はオオカミの尾が長い奴だと思ってくださればいいです。