第十九話 墓前
ここで少し、翔の話を入れます。
過去話です。翔が・・・中学生くらいの頃の話が出てきます。
あれから、真琴は一週間眠り続けた。
正確には三日間ぶっ続けで寝ていて、あとの四日は起きていられる時間が四時間ほどというものだった。それだけ精神がダメージを負っているんだろう。
今はもう、以前と変わらぬ生活ができるまで回復したようで朝からご飯作って洗濯して掃除してという家事を行っていた。真琴自身、まだ本調子ではない事はわかってるようだった。今も休憩をはさみながら洗濯をたたんでいる。翔達の家のことについては、真琴の中で理解は固まっているようで、正直話したら離れていってしまうのではないかとも思った翔達だったが、真琴は(翔たちが)許してくれる限り一緒にいると言っていた。それだけで、彼らはうれしかった。
目が覚めて真琴が最初に見たのは、いつものにこやかな感じとは打って変わった、護の不安げな顔だった。彼はまず真琴の体調を訪ねてきた。特に異状―――眠気やだるさは仕方がないとのことらしい――は無いと答えたら、心底安心した顔をした。だがすぐに彼は真琴に頭を下げた。真琴は思わず身体を起こして止めたのだが、断固として謝罪をやめようとはしなかった。なんとか謝罪を止め、自分はだれにも怒ってないことを告げた。そう告げたら護はふっと柔らかい笑みを浮かべ、真琴の頭をなでたのだ。そして彼は謝罪ではなく礼を言って真琴のご飯を下に取りにいったのだ。
洗濯ものをたたみ終えた真琴のところに、翔がやってきた。
「真琴・・・・今日、ちょっと付き合ってくれないか?」
「はい、いいですけど・・・・。」
「俺一人じゃ行き辛いんだ。車用意しとくから、準備できたらそと来てな。」
「はい。」
どこか元気がない翔はそのまま玄関に向かっていった。やや不審に思ったが、待たせては悪いと、真琴は身支度を整えて外の駐車場に向かった。すでにエンジンがかけられた車のわきに翔はたっていた。助手席に乗るように言われたので真琴はその通りにした。車に乗るとほのかに花の香りがした。後ろの座席に、白と黄色の菊の花が積んであった。バタンと音がして翔が乗り込んできたのが分かった。後ろを振り向いている真琴を見て翔がその菊の花をせつめいした。
「それは今日行くとこで必要なんだ。」
「そうですか・・・・。」
翔はゆっくりと車を走らせた。真琴は車窓に流れる街並みを眺めた。ビルが立ち並ぶ街並みはだんだん木々が多くなり、坂道が連なる山道に入った。さらに車は山の上へと進んでいく。車が止まったのは山の頂上より少し下にある道の駅だった。翔は後部座席から菊の花束を取り出すと、こっちだといってその方に進んでいく。真琴もそれに続いた。木々や、草花を押し分け進んでいった先には開けた空間があった。木々がまるでアーチを作っているようで、辺りを取り囲み、前方のかなたには煌めく青い海が広がっているのが木々の間から見えた。そしてその空間の中央に、石造りの四角い墓石があった。その近くまで歩み寄った二人は、まじまじとそれを見つめた。墓石には大谷家と彫られていた。
「ここって・・・・。」
「俺の両親の墓だな・・・・。今日、命日なんだ・・・。」
「え・・・・。」
「十数年前の今日、俺の両親は死んだ。いや・・・正確には殺された・・・。」
「殺・・・・・!?」
「非日常だろ?でも、現実なんだ。今日みたいなこんな晴れた日じゃなかった・・・。」
そうあれは俺が中学に入った年の11月のある日・・・・。
2部構成になりました。
護や充の過去話は番外編として載せれたら新たに投稿しようと思います。