第一話 出会い
第一話です。
初秋のある日の夜中。中澤真琴は、駅へと猛ダッシュしていた。もうすぐ今日の最終電車が出てしまう。それに乗り遅れたら結構な距離を徒歩で帰らなければならない。そんなの死んでもごめんである。駅まではあと一キロほど。体力の限界も近いが仕方がない。
大体こうなったのもバイト先がいきなりつぶれるから悪いんだ。まぁなってしまったのは仕方がない。明日からまた新しいバイト先見つけないとほんとにアパート追い出されそうだ。ていうかもう出てけって言われてるけど・・・。今日はとことん運がない日だ。本当に、占いできっと最下位なんだろうな。そんな今日もあと一時間ほどで終わりを迎える。あと少しだ。そうすれば今日よりはましな明日が来る。なんて思ってたら本日最後の運がない出来事が起きた。
すぐそばにある路地から、誰かが飛び出してきた。そしてその人と真琴は案の定ぶつかってしまい、その人が持っていたコーヒーが、真の頭上から降りかかった。ぶつかった拍子に真琴がかけていたいた眼鏡が足元に落ち、パリーンという音がした。おそらくレンズが割れた。
「うひゃああああ!?」
真琴はその勢いで倒れかかったが、ぶつかってきた人が支えてくれた。
「わるい!大丈夫か!?怪我とか・・・やけどとかは!?」
「え・・・えと・・・大丈夫だと思います。すみません、僕急いでて・・・。」
「いや、俺も携帯見てたし・・・服とかクリーニング代出すから・・。」
「え・・・そんな、こんなの全然。大丈夫ですから・・・僕も周り見て無かったんですし・・。」
「いや・・・でも俺にはなんのがいもなかったんだしさ、君ばっかり、そんなになっちゃって・・・。」
とここで、真琴は重大なことに気がつく。
「ああああああああ!!」
「っ・・・どうかしたのか?」
「しゅ・・・終電・・・行っちゃった・・・・。」
電車に乗らないと、帰るのは難しい。しかも眼鏡がないと真琴はほとんど何も見えないほどなのだ、これじゃあ行き先真っ暗も良いところだ・・・。
「あ――――・・・あのさ、そんなかっこじゃ風邪ひくし、帰れないなら家に来ないか?」
「ふえ?」
「親があれとかなら他の方法考えるけど・・・。」
「親・・・・。それは、大丈夫です・・・僕親いませんから・・・。」
「え・・・・・・・。」
「僕、小さいころから施設育ちで、最近独り暮らし始めたんで、そういう心配してくれる人はいないですから・・・。じゃ、僕はこれで・・・ほんとにすみませんでした。」
そういって立ち去ろうとした真琴の腕を、その人がつかんで引きとめた。
「え・・・・・・?」
「そっち、壁だけど?」
「えっ・・・・うっそ・・・どうもすみません。」
「もしかして、目、そうとう悪い?」
「無しだとほぼ見えないくらいですかね。」
「よくそれで帰ろうと思ったな・・・・。やっぱりうちに来なよ、迷惑とか考えてんならそんなのはないから。家いま親とは別居中。あ、五月蠅い従兄弟が二人一緒だけど、そいつらの事はこの際に気にしなくたっていいんだし。俺は構わないっていうか、もともと俺のせいだし。君がよければだけどね?」
よければとか聞かれても、実際こんなおいしい話があるんだろうか・・・。むしろ今日はこれからも地獄が待ってるんじゃないかなんて思っていたところで、こんな神の救いみたいな展開いいの?
「なら・・・お言葉に甘えて・・・。」
青年の差し出した手を、真琴は握り返した。その青年に手をひかれて、真琴は駅の向こう側にある、住宅地に向かった。
「そういえば・・・まだ名乗ってなかったよな、俺は大谷翔、翔でいいから。」
「中澤真琴です・・・・っくしゅん!!」
盛大なくしゃみをしてしまった。それを見かねた翔は真琴に自分が着ていた、ハーフコートをかけた。
「着てろよ、寒いだろ?やっぱ夜は冷えるな。」
「で・・・ですけど・・・翔さんのが濡れちゃいますよ?」
「いいって、気にすんなよ。さ、着いたぞ。ここが俺んちね。」
翔が指差したそこには、立派な一軒家が立ってました。表札は鈴城となっています。
「鈴・・・城・・・・?」
「ああ、従兄弟の名字な。最年長の名前を一応表札にしてるんだ。ちなみに俺は22。」
なんて妥当な年齢だろう。いや、外見と年齢が一致するっていいなって思うんだ。
「真琴は?」
そう聞かれて、しばし戸惑うが真琴はしっかりと本当に自分の今の歳を伝えた。
「18です。」
ほらみろ。僕の年齢聞いてまず驚かない人はいない。まず僕は18には見られないのだ。原因は二つ。身長と外見だ。身長は158センチと言う小柄。中間的な顔だちで、まあ所謂童顔ってやつだから、中学生に見られるのは珍しくない。なんて思ってたら、頭上から聞こえてきたのは、笑い声だった。
「・・・・・ふっはははは、なんかそのギャップいいわ。っははははは!!」
「え・・・・・。」
こんな感想を言った人は翔が初めてだったわけで、真琴は困惑した。
「あふ・・・悪い悪い。気にしてたんなら、笑ったのは謝る。」
「いえ・・・・良いなんて言われたの、初めてなので、びっくりしてるだけです。」
「さ、早く中入ろうか。そと寒いし。」
ガチャリと翔が鍵を開けて家の中に入る。真琴もそれに続いた。玄関で靴を脱いだら翔に腕を引っ張られ、着いた先はお風呂場の脱衣所だった。
「まずそれ洗い流した方が良いだろ?着替えは・・・あ―――合わないかもしんないけど、俺の使ってよ。今持ってくるから。」
「はぁ・・・わかりました。」
翔に簡単に風呂の説明を受けて―――といってもシャワーだが―――翔が着替えを取りに行ったのを見て、真琴は服を脱いでそれを言われた通り、洗濯機に入れて浴室に入った。結構広くてきれいな浴室だった。毎日掃除されているんだろう。真琴は手探りで蛇口を見つけると、それをひねる。勢いよく出てきたお湯を頭からかぶる。髪の毛や皮膚についていたコーヒーが水と共に流れていった。
十分に洗い流した後、脱衣所に出るとそこにあるかごに新しい着替えが置いてあった。長袖のTシャツ、ジャージの上下、袋から出されていない下着らしかった。なんとかそれに着替えた真琴だったが、案の定、翔の服の大きさは真琴にはおっきすぎた。ジャージの袖、裾は結構折り曲げないとだめだった。ウェストはジャージのズボンのひもを引っ張って縛ったから問題はない。お風呂場の電気を消し、真琴は廊下を壁に手をついて進んだ。光が漏れているドアの方にだ。なんとかたどり着き、ドアを開けると、そこはリビングらしかった。奥の方にはカウンター式のキッチンがあり、その手前にダイニングテーブルが置かれていて、右側にはリビングスペースなのか、黒いローテーブルを挟むように、白いソファーが置かれている。その奥には薄型テレビが置かれていた。翔の姿はない。すると、急に視界が少しだけクリアーになった。
「どう?俺の昔使ってた眼鏡。見える?」
後ろからそんな声がして、振り向くと、翔がいた。紺色の癖っ毛が彼が動くたびに不思議な揺れ方をし、漆黒の瞳は若干たれている。さぞモテそうな美人さんですこと・・・。
「ち・・・近くならなんとか。」
「ほんとに、真琴って相当目が悪いんだな。俺も結構悪い方なんだけど。」
「翔さんは今はもうコンタクトなんですか?」
「ああ、二年くらい前からな。そっちの方が動きやすいし。真琴はコンタクトにしないのか?」
「体質的に合わないんです。まぁ、もう慣れっこなんで、良いかなって思ってるんですけど。」
「そっか。なんか残念。」
「なんでですか?」
「ん―――外した方が可愛いと思うけど。」
「かわっ・・・可愛いですか?僕男なんですけど。」
「可愛い男の子ってこと。ま、眼鏡も弁償するから、今度買うとき言ってくれよ。」
そういって、翔は奥のキッチンに入っていった。独り取り残された真琴はどうしようかとその場に立ちすくしていた。が、突如後頭部にものすごい衝撃が襲いかかった。
「たっだいま―――――って、なんかぶつかった?」
「いった―――――――い!!」
激痛が走る後頭部をおさえ真琴はしゃがみ込んで悶絶した。そのドアの向こうから現れた青年はそんな真琴を見て目を丸くしてる。
「あ・・・大丈夫?」
「大丈夫に見えますか・・・・いったぁ・・・・。」
「見えないかもねー。」
「なんか今すごい音したけど・・・あ、護お帰り。」
「ただいまー翔。なんかねードアがこの子にクリーンヒットしちゃった!」
「馬鹿。だからドア開けるときは静かに開けろって言ってんだろ。大丈夫か?」
「うう・・・死なない程度に大丈夫です・・・。」
「ごめんねー!にしても、可愛い子だよね君。翔の新しい恋人?」
「え・・・・?」
「ふえ!?ち・・・違いますよぉ、僕男ですもん。」
「あのねー。恋に男女の性別は関係ないんだよー。あ、俺、鈴城護。よろしくねー。」
「はぁ・・・・中澤真琴です。」
「真琴君かーじゃ、琴ちゃんだねー。」
「え・・・・?」
「いいじゃん、琴ちゃんで。君付け似合わないもん。」
この目の前でもん、とか言っちゃってる鈴城護はこの家の最年長者なんだろうか・・・。歳は23らしい。赤っぽい茶髪は肩のうえらへんまで伸びていてさきっぽの方はウェーブがかっている。特徴のある緑色の瞳に、目元の泣きぼくろ。なんか翔とはまた違った系統の美人さんである。何だこの家は、美形さん多くね?
「でも、こんな可愛い中学生に、手出したら犯罪だからね?」
ぎゅーっと真琴に後ろから抱きつきながら護が言った。
「護、真琴はいま18だ。だからもし俺にそういう気があっても、何の問題もない。」
「うっそー・・・琴ちゃん18歳なのー?」
「嘘じゃないですよぉ・・・。れっきとした18歳です。」
「じゃ、問題なく抱いてオッケーだよ、翔。」
「抱く!?」
「俺にそんな気はありません。つかなんで俺に振るんだよ!!」
「だって、琴ちゃんみたいな女の子、翔のタイプじゃん?」
「女の子・・・・・。」
「護、それ以上言うとお前がどんなに女ったらしか真琴に全部明かすぞ。」
「俺は女ったらしじゃありませーん!4・5人いるだけですー。」
「それって女ったらしっていうんじゃ・・・・・。」
「何か言うのはこの口かなぁ?」
「いひゃっ・・・いひゃいでしゅ―――まもりゅひゃ・・・・・。」
「あっはは、可愛いー。しかもほっぺぷにぷにしてる―――――。」
「お前なぁ・・・。真琴がかわいそうだからそろそろ離してやれよ。」
「やだー。こんなぷにぷにほっぺなかなかお目にかかれないよー。えーい、もっとふにふにしてやる―――――。」
「ふにゃああああああああひゃへへ―――――(やめて)。ふにょ!!!」
護の魔の手から翔が真琴を抱え上げたことで助け出された。軽々真琴を抱え上げている翔の顔をうかがう事は出来ないが、視線は護に注がれている。
「あんれ?翔どうしたのぉ?」
「別に。」
「そう?それにその顔はなにかなぁ?」
「お前・・・・・。・・・もういい。」
何が良いんだか分かんないが、真琴は翔にソファーの上に下ろされた。そして、用意してた紅茶入りのカップを手渡された。
「ありがとうございます。」
「翔、俺の分は――――?」
「お前は自分でやれ、自分の家なんだから。真琴は客なんだからいいんだよ。」
「ぶーぶー。」
そういいながら、護はキッチンに行って、カップを持って帰ってきた。
「で、琴ちゃんはただ一泊するだけ?それともここに住むの?」
「はい?」
「そういえばまだ聞いてなかったな。つか、お前はここに住まわせる気満々だろ。」
「だって、家に帰ってもこんな可愛い子がお出迎えしてくれるんならいいなー。」
「やっぱりな・・・・。」
「っていう思いを抱いている、翔の代弁をしてみましたー。」
「んなわけあっか!!!」
「えー。で、琴ちゃんはどうするの?」
「え・・・・いえ・・・僕は明日にでも帰ろうかと・・・。荷造りしなきゃいけないですし・・・。」
「荷造りって・・・ひっこしか?」
「っていうか、アパート追い出されるですよ。あはは・・・・。」
そう笑っているが、真琴の顔はひきつっている。
「・・・・・さっき、翔さんには親がいないって言いましたよね。僕、物ごころついた時には施設にいたんですよ・・・。でも、施設は18歳になったらいられなくなって、僕も働きながら一人で暮らしてたんです。でも、身寄りもいない僕が、そんなしっかりした職に就けるわけもないから、バイト三昧で・・・。でもバイトで稼げる金額ってそう多くもないから、一人で暮らすのも、大変で・・・。それで、家賃払えなくて今住んでるアパート追い出されるんです。明日出ていかなきゃいけないんですよ。だから、明日はもう帰りますから。」
にっこりと笑うその裏には、つらそうでもあった。
「ならいいじゃん、此処住んじゃえよ。これもなんかの縁だろうしさ。」
「え・・・・・でもそんな・・・・。」
「翔が良いなら家はOKになるんだよー。」
「え・・・・でも・・・それは・・・そんな・・・。」
ぽんぽんと、翔が真琴の頭をなでた。
「お前偉いよ。ほんとにさ、まだ18だろ?なのに、自分の力だけで生きてってるなんて、俺らに比べたら、マジ大人だしな。」
「そうそう、なんだかんだいって、親の金ブイブイ言わせてる俺らとは比べもんになんないほどね。」
なんで・・・?なんでこの人たちは、さっき会ったばかりの僕なんかにこんなにも優しいの?なんだっていうの?だって、そんなの当たり前でしょ?人間どこか必ず一人で乗り越えていかなきゃいけないことがあるんだし。僕はだれも頼れる人なんかいなかったんだし、それが普通だと思ってた。なのになんで、どっから見たって、二人の方がずっとずっと大人じゃないか・・・。なのに、なんで僕が偉いの?お先真っ暗で明日からどうしようとか、そんなことで不安いっぱいの僕が、なんで偉いの?大人なの?意味わかんないよ・・・。この人たち・・・いったい何者?
「真琴・・・・?」
「っ・・・おかしいですよ・・・こんなの・・・。僕の事全然知らないのに・・・そんな奴を・・・ここに住めなんて・・・。どうかしてますよ・・・。なんで・・・なんでそんな・・・優しいんですか・・・?」
大きな真琴の瞳から、大粒の涙がこぼれ始めた。今まで我慢してきたものが、決壊したダムのように、とめどなくあふれ出た。真琴はそれを押しとどめようとしているようだったが、それも空しい抵抗だった。どんどん流れ出てくる涙をぬぐっている真琴を、翔は抱きしめていた。
「ぅえ・・・・・!?」
「ほうー。」
「泣くな・・・っていっても無理か。これからは俺らのこと頼ってくれていいんだからさ。もう一人でため込まなくたっていいんだよ?どっかの誰かは、年下の従兄弟に頼りっぱなしで、夜は毎晩のように遊びまくってるやつもいるんだし。」
「ちょ・・・それ誰の事?俺のこと言ってるようにしか聞こえないんだけど。気のせいと思っていいんだよね?良いんだよね?」
「まぎれもなくお前のことを言ったつもりだけど?」
「翔の鬼―――――!!!」
にやりと笑った後、翔は腕の中の真琴に言った。
「な?俺らはこういうやつらなんだよ。それでもいいなら、此処住みな?」
「ぅ・・・っ・・・はいっ・・・。」
涙でぬれながら、真琴は満面の笑みでこたえるのだった。翔はその瞳に残る雫をそっとなめとるのだった。
「っえ・・・・え・・・・ふえええええ!?」
「ひゅーひゅー。あついねぇ、っていうかさ、俺に対するいじめ?いじめだと思っていい?そんなラブラブなとこ目の前で見せつけられるなんてさ・・・。昨日マリちゃんにフラれた俺に対するいじめ?」
「あ・・・・・わり・・・真琴。」
「い・・・いえ・・・別に・・・・。」
なんだこれ・・・なんで僕・・・こんなドキドキしてんだろう・・・。どきどきしながら真琴がそこを触ると、なめられたところが、いやに熱を帯びていた。
長い!!非常にすみません!!
読んでいただきありがとうございます。m(_ _)m
感想などよろしくです。