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中年や老人が「昔の音楽の方が良かった」と考えるのは、実際にその音楽が優れていたからというわけではない。

作者: エンゲブラ
掲載日:2026/09/24

音楽には、その時代、時代の記憶が付着する。


一行目で、ほぼ結論を言ってしまっている気もするが、今回は音楽の話。ひとは誰しも、三十歳前後で「懐古」を始める。「現在」の音楽には適応できず、過去へと回帰する。さまざまな理由で。


まず最初に、自分よりも「下の世代」が作り出した音楽には乗れないという無意味なプライド。そして、新しいBPM(=音楽のテンポ)と自分の心地よいテンポとの微妙なズレ。さらに社会的な疲労などからも「新しい音楽」の吸収を自分から遠ざけ始める。


そして、ゆるやかなメロディー(多くのジャンルでBPMは加速の傾向にある)に安心感を覚え、聴きなれたリズムに身を委ねる。それは赤ちゃんのゆりかごにも似た感覚なのかもしれない。


実際には、(ど真ん中ではなく)幼少期から思春期前半あたりまでで聴いていた曲が中心となる。そして、やがて当時は聴かなかった「当時の大人たち」が聴いていた曲にも手を出し始める。そして言う―― 「昔の音楽はやっぱりいいな」と。


これには「退行」の心理が大きく関与している。三十歳前後になり、いよいよ「ちゃんとした大人」であることを自分も求められるようになり、そのことへの不快感から「自分が無責任で無垢でいられた子供時代」に強い望郷の念を抱き始める。―― というのが、筆者の分析。


だが、これにもいつかは飽きが来る。少なくとも筆者はすぐに飽きた。飽きた理由は「好きだった曲ほど、いま聴くと大したことない」という現象に出くわしたためである。


嫌いだったり、興味のなかったヒットソングは「当時の記憶」を呼び戻す装置として一役を買う。そのため「意外と悪くないな」となるわけだが、それがロックやEDMのようなジャンルともなると、話が変わってくる。


次の世代によって消化されるまでは「やっぱりこのバンドは最高!」でいられるが、「昇華」まで行くと、いよいよ陳腐化が始まる。特に「若さの暴走(=若気の至り)」をメインとするジャンルは、さらに技術もテンポも上がり、また虚無という狂気が増しているようにも感じ、「当時の熱」が、自分の中で「Kawaii」へと変質を遂げる。


この現象には、もうひとつ重たい要素が絡む。「若さとの距離」問題である。若さによって熱狂していたものは、自身の成熟(あるいは老化)により、美化ではとどまらず「遠い景色」へと変貌を遂げる。もう取り戻すことのできない、取り戻したいとも思わない「当時の感覚」をフラッシュバックさせるフェイバリットソング。それには、ほろ苦いものまでをも感じてしまうようになる。


これが単なる当時の「思い出ソング」であるなら、何の問題もない。だが、自分を燃え上がらせていた「特別な曲」やミュージシャンであった場合、また違う感覚が生まれる。


そこで筆者は、現実逃避ならぬ「過去逃避」を開始した。とにかく新しい音楽、あるいは感覚に触れ、その上で過去と比較する。出来るだけバイアスを排除し、今の音楽を聴けば、やはり「進化」していることは間違いない(進化=本当に価値のあるものであるかどうかは横に置いて)。


変化を嫌うことが「老い」である。だったら、無理やりにでも自分を変化の波に浸からせるべきである。まだ老いたくないのであれば。


老いには、ぬるま湯の心地よさがある。だが、それにばかり浸かっていると、けっきょく若い世代との回路を失う。今は昭和~平成の曲を若者側が摂取し、合わせてくれるというケースもあるが、どのみち、いつかはその回路も遮断される。


音楽は、時代時代の記憶や感情を共有するのに便利なツール。だとすれば、包括的に摂取しておいた方がいいに決まっている。実際、変なバイアスを外せば、現在の音楽も十分に楽しめるし、インターネットの完全普及により、無限に音楽を掘れる環境に、いま我々はいる。


こんなにも素晴らしい状況下で「過去の景色の曲」ばかりを聴いている意味はない。


―― また最初のタイトル設定と全然違う場所にオチが漂着してしまったが、今回の思索はここまでとする。


昔の音楽の方が素晴らしく感じるのは「オールタイムベスト」と「今この瞬間の一般的な音楽」とを比較するというアンフェアな物差しから来ているのも、またひとつの原因か。昔もクソみたいな歌詞に、クソみたいなメロディーの曲は山ほど存在したが、それらはすべて「オールタイムベスト」からは除外されている。


あとこれ、独身男による分析丸出しだな。子供がいれば、嫌でも子供といっしょに「現在」の曲を聴く環境になるはずだから、この話は……。

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― 新着の感想 ―
後は脳の無意識のうちの省力化もあると思います。 広い視点で見れば、脳の老化と言えるかもしれません。 新しい曲を覚えるのが、もう面倒だから、何だかんだ慣れた音楽ばかり聴いてしまう。 音楽とは異なりま…
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