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第1話 駐輪場

 午後2時過ぎのスーパーは、店内に入る前から始まっている。


 いや、もっと正確に言えば。


 駐輪場に着いた時点で、もう始まっている。


 私は真理子。


 アラフォー、独身。


 売れないフリーライター。


 服装は地味めのシャツにパンツ。

 シャツのボタンは上まで留める。


 飾り気はない。


 かといって、だらしなくもない。


 人から見れば、たぶん真面目そうに見える。


 実際、基本的には真面目だし、優しいほうだと思う。


 ……たぶん。


 ただし。


 人の生活感が濃く出る場所に来ると、どうにも観察癖が出る。


 そして勝手な推理を始める。


 ついでに、余計な毒も出る。


 スーパーの駐輪場なんて、その典型だ。


 ママチャリ。


 電動自転車。


 子ども乗せ付きの、見るからに重そうな自転車。


 そして、なぜかサドルを限界まで高くしている自転車。


「そんなに足ながいのか? きみ」


 誰に言うでもなく、心の中で突っ込む。


 なぜか毎回同じ場所にある古そうな一台。


 少し斜めに突っ込まれている自転車。


 隣のカゴとハンドルが絡み合って、軽い知恵の輪になっている二台。


 そして、カゴが完全にゴミ箱と化している自転車。


 ……持ち主、大丈夫かな。


 駐輪場には、その店を利用する人たちの暮らしが、そのまま置かれている。


 説明なんていらない。


 自転車を見れば、なんとなく分かる。


 もちろん、きれいに整列しているわけではない。


 むしろ、少しくらい乱れているほうが自然だ。


 その雑多さが、生活というものなのだと思う。


 午前中ほど慌ただしくない。


 夕方ほど混雑もしていない。


 午後2時過ぎ。


 なんとも中途半端な時間。


 駐輪場にも、どこか気の抜けた空気が漂っている。


 私は自転車の間を歩いていく。


 狭い隙間を抜ける。


 倒れそうなハンドルを避ける。


 帰りに自分の自転車をどうやって出そうか、なんとなく考える。


 買い物はまだ始まっていない。


 なのに、すでに小さな判断をいくつもしている。


 人間って、面倒くさい。


 ……まあ、私もその一人だけど。


 そんなことを考えながら歩いていると、たまに見かけるものがある。


 パトカーだ。


 何があったのかは分からない。


 万引きかもしれない。


 放置自転車かもしれない。


 あるいは、近くで別の用事があっただけかもしれない。


 理由なんて、いくらでも考えられる。


 それでも。


 駐輪場にパトカーが一台あるだけで、空気が変わる。


 さっきまで、ただの雑多な自転車置き場だった。


 それが突然、


「何かあった場所」


 に見えてくる。


 不思議なものだ。


 別に私は何もしていない。


 それなのに、少しだけ姿勢を正したくなる。


 服装に問題はないか。


 自転車の停め方は変じゃないか。


 鍵はちゃんとかけたか。


 そんなことを、誰に言われたわけでもないのに確認してしまう。


 午後2時過ぎのスーパー。


 ここでは、ときどき理由のない自己点検が始まる。


 店に入るまでの、ほんの数十秒。


 たったそれだけの時間なのに。


 その日のスーパーがどんな日なのか、なんとなく分かる。


 静かな日なのか。


 少し雑な日なのか。


 何も起きていないように見えて、実はすでにいくつもの生活が交差している日なのか。


 駐輪場は、店内に入る前に読む序章だ。


 だから私は思う。


 午後2時過ぎのスーパーは――


 レジでもない。


 総菜売り場でもない。


 まず、この駐輪場から始まっている。


 そして。


 その日もまた、何かが始まろうとしていた。

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