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第四話 『アリって同族にも容赦ないんですが?』

 最初に感じたのは、匂いだった。


 湿った土。


 仲間のフェロモン。


 蜘蛛の死骸。


 そして――侵略。


「っ……!」


 真琴の触角が跳ねる。


 巣の外から流れ込んでくるフェロモンは、明確な敵意を帯びていた。


 同族。


 アリ。


 だが、自分の群れではない。


「来る……!」


 働きアリたちがざわめく。


 警戒フェロモンが巣内へ広がり、空気が一気に張り詰めた。


 真琴は巣の入口方向へ意識を向ける。


 複数。


 しかもかなり統率されている。


 蜘蛛より危険かもしれない。


「いや、ちょっと待って? 同じアリなんだから、そこはこう……平和的にいけない?」


 無理だった。


 触角越しに伝わってくる。


 あれは完全に“敵コロニー”だ。


 その時。


 入口付近の通路から、一匹のアリが姿を現した。


「うわっ、でか……!」


 兵隊アリだった。


 真琴の働きアリより一回り以上大きい。


 異常に発達した大顎。


 分厚い外骨格。


 明らかに戦闘特化。


 しかも一匹ではない。


 二匹。

 三匹。


 次々と侵入してくる。


「いやいやいや、うち働きアリしかいないんだけど!?」


 完全に戦力差がある。


 しかも最悪なことに、こちらは蜘蛛戦直後だ。


 働きアリもかなり消耗している。


「……でも」


 真琴は触角を震わせる。


 敵の目的は分かっていた。


 食料。


 幼虫。


 そして。


「女王……」


 アリの戦争は、人間みたいに縄張り争いだけでは終わらない。


 相手の巣を潰し、幼虫を奪い、女王を殺す。


 完全殲滅。


 それがアリの戦争だ。


「容赦なさすぎでしょ……!」


 だが、嘆いている暇はない。


 兵隊アリたちが前進を始める。


 真琴は急いで周囲を見回した。


 狭い通路。


 蜘蛛の死骸。


 崩れかけた土壁。


 そして。


「……使える」


 研究者としての脳が回転する。


 真正面から勝てないなら、地形を使うしかない。


「全員、後退!」


 フェロモンを放つ。


 働きアリたちが一斉に下がる。


 敵兵隊アリは、そのまま巣奥へ突入してきた。


 速い。


 しかも恐ろしく統率されている。


 その動きには迷いがない。


「やっぱ怖っ……!」


 だが。


 真琴は、蜘蛛の死骸方向へ敵を誘導していた。


 巨大な蜘蛛の残骸が、通路の半分を塞いでいる。


 兵隊アリたちは構わず乗り越えようとした。


「今!」


 フェロモンが走る。


 次の瞬間。


 働きアリたちが蜘蛛の死骸へ一斉に群がった。


 切断。


 運搬。


 押し込み。


 蜘蛛の脚が崩れ、通路へ落下する。


 どしゃっ、と。


「!?」


 先頭の兵隊アリが押し潰された。


 後続も足を取られる。


「アリって、意外と土木作業得意なんだよね!」


 というか本職である。


 混乱した敵兵隊アリへ、働きアリたちが一斉に飛び掛かった。


 脚。

 関節。

 触角。


 柔らかい部分へ集中攻撃。


 だが。


 ぶんっ!


 一撃で二匹吹き飛ばされる。


「痛ぁっ!?」


 自分が殴られたわけでもないのに、真琴の胸が痛む。


 群れの損耗。


 その感覚が、直接伝わってくるのだ。


「これ精神的にキツいんだけど……!」


 だが止まれない。


 敵兵隊アリがさらに突撃してくる。


 このまま突破されれば、幼虫室まで一直線だ。


「……女王」


 真琴はふと気づく。


 兵隊アリたちは、妙に焦っていた。


 統制は取れている。


 だがどこか強引だ。


 まるで。


「早く終わらせたがってる?」


 その瞬間。


 触角へ、別のフェロモンが流れ込んだ。


 遠い。


 だが強い。


 絶対的中心。


「……敵の女王」


 いる。


 近くに。


 しかも、この兵隊たちは女王の指示で動いている。


 つまり。


「女王を潰せば、止まる……?」


 その考えが浮かんだ瞬間。


 ぞくり、とした。


 人間ならまず考えない発想。


 だが今の真琴には、それが“合理的”だと理解できてしまう。


「……いやいや待って。私ちょっとアリ思考になってない?」


 かなり危ない。


 でも。


 生き残るには必要だ。


 その時だった。


 入口側の通路から、新たな振動が響く。


 さらに増援。


「嘘でしょ!?」


 真琴の触角が震える。


 だが次の瞬間。


 別方向から、微かに新しい匂いが流れ込んできた。


 湿った土。


 外気。


 そして――別ルート。


「……あ」


 真琴の脳裏に、一つの作戦が浮かぶ。


 敵女王の位置を突き止める。


 そして。


「こっちから侵入すればいいんだ」


 自分の口から出た言葉に、真琴自身が一番驚いていた。

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