世界初のフルダイブ型VRMMORPGが大爆死しサ終するまで
結論から言えば、超有名ゲームデベロッパが日本円にして1000億以上を注ぎ込んで開発した、世界初のフルダイブ型VRMMORPG『ネバーエンディング・プラネット』は、大爆死に終わった。
『時代が変わる』だの、『夢のゲームが今ここに』だのと騒いでいたゲーム関係メディアは、リリース初週の売上が目標を大きく下回ったと知るやたちまち沈黙し、その時まではプレイを続けていたユーザーの多くも、サ終の噂に突き動かされるように次々と課金を切り、引退し始めた。
翌週には案件を受け取っていた配信者たちの大多数がプレイしなくなり、評論系の投稿者たちの掲げるサムネはネガティブワードで一色に。挙げ句、著名企業の大失態として一般メディアでも取り上げられることとなった。
当然、SNSのタイムラインも反省会と冷笑と必死の擁護と対立煽りで埋め尽くされ、酷い有様。曰く、もはやゲームそのものよりレスバがメインコンテンツ、とさえ評されるような終わりっぷりを曝していた。
この間、運営は懸命に、トップの顔出し謝罪配信やロードマップ提示などでユーザーの繋ぎ止めを図ったものの、尽く成果は挙がらず。
2ヶ月が経過する頃には採算が取れないとの判断が下ったらしく、公式アカウントも沈黙するようになり、やがてサービス終了のお知らせが掲示されるに到った。
こうして、フルダイブ時代を切り拓く革命児と讃えられたゲームは、全ての課金要素を停止。既に開発済みのコンテンツを実装した上で、約半年の運営を経てクローズが決定されたのだった。
――もっとも、だからといって、全てのプレイヤーが消えてなくなったわけではない。
課金しすぎて引っ込みがつかなくなった可哀想な人。
フルダイブという夢を捨てられない求道者たち。
そして、この手間がかかる世界を好きになってしまった変わり者。
私は一番最後のタイプに属していた。
- - -
『ネバーエンディング・プラネットを最後までプレイして下さった皆様、本当にありがとうございました。アジアサーバーは25:00(JST)に停止します』――という巨大な文字が、清々しく晴れ渡った青空にデカデカと表示されている。
この情緒も何もあったものではない、しかしこの上なく分かりやすい光景こそが、夢の異世界の運命を明確に示していた。
「はー……」
最初の町『オリジニア』からほど近い、ノンアクティブモンスターがうろつく広大な草原地帯『風待ち野原』。いかにもチュートリアルな雰囲気を漂わせるこの場所は、常に過疎だった。
ほとんどのプレイヤーは、メインクエに伴って開放される拠点都市『キャピタリア』に集まっていたし、今日もきっとそうだろう。
世界一無駄に豪華な過疎ゲーとまで称されたこのゲームを、最後の最後までプレイし続けた変人たちだ。きっと今頃、大騒ぎして楽しんでいるに違いない。
「……」
私は原っぱに寝転んで、ずぅっと空を眺めている。
サービス初日に10時間以上もかけてキャラクリし、その後も有料アイテムを使って調整に調整を重ねた、個人的にはどのプレイヤーのそれより可愛いと思っているアバター。オニキス色の光揺らめくショートヘアに黄金の瞳、やや長身で華奢なボディラインが特徴なエルフの女銃手『ヴァニティシ』の身体のままで。
「終わるんだなぁ……」
呟く。声は心地よい風に乗って流れていく。月額レンタル料28000円のフルダイブ機器は優秀で、感覚はリアルよりリアリティがあるくらいだ。もっとも、リアルでこんな広い草原に寝転がった経験なんてないけれど。
ちなみに、返事なんて返ってこない。完全な独り言だ。私は最初から最後まで、誰一人としてフレンドを作らなかった。つまり、生粋のソロプレイヤーだった。
「……」
フレンドが出来なかった理由は、半分は面倒くさかったからで、もう半分は人見知りのせいだ。
とりあえずソロで楽しめるだけ楽しもうなんて思っていたら、サ終が決まって瞬く間に人口激減。鯵鯖ネバプ村の住民は良くも悪くも顔見知りばかりになってしまい、グループがガッチガチに固まって見事にムラ社会化。
コミュ障の入り込む余地なんて、村にはある訳がない。
ただ、それはそれで良いこともあった。
コミュニティによっては運営批判と愚痴が渦巻く魔境になっているところもあるらしく、取り込まれたらきっと、永遠に文句を言い続けるバケモンに堕ちてしまう。
せっかくサ終の日まで楽しもうとしているのに、そんな人にはなりたくないものだ。思い出が罵詈雑言だらけなんて悲惨過ぎる。
「どうしようかな……」
当然だけれど、サ終に納得なんてしていない。でも、理屈では理解していた。
ネバーエンディング・プラネットは凄い。全てが作り込まれていて、既存のメタバースとは一線を画したクオリティがある。
だからきっと、それが良くなかったのだろう。高いクオリティは高いスペックの機材を要求し、リアリティある生活感はゲームの域を超えた煩雑さを齎してしまった。
信者と言われるようなプレイヤーでさえ、誰もが口を揃えて言う。
『ネバプは凄い。だけど、絶対に大衆受けはしない。人を選ぶ』――と。
500億超の予算を投じて創られた超大作が、それではいけなかったのだろうと思う。こだわりを捨ててでも、クオリティを下げてでも、開発側は多数を取りに行かなければならなかったのだろうと思う。
沢山の人に遊んでもらえる作品でなければ、維持できない規模感のゲームなのだから。
でも、ネバプはその道を選ばなかった。
自分が信じる最高の異世界を作ろうと熱意を投じ、そうなるべくして大爆死した。
「……」
だから、ここは理想郷なのだ。
刺さった少数のプレイヤーにとっては、替えの利かない最高のゲーム。
私にとっても同じく。
ネバプは最初から矛盾していた。
私はその矛盾を愛してしまった。
だからこそ理解し、だからこそ納得できない。
それでもサービス型ゲームは営利企業の提供品、終わるときは終わる。それがまさに、今日だった。
「……時間かぁ」
空に表示されていた文字が変化する。
『間もなくサーバーを停止します。この世界を愛して下さり、本当にありがとうございました。ご期待にお応えできず、申し訳ありませんでした』。
システムメッセージにしては感情が滲んだそれに、開発運営スタッフの本音が漏れている気がして、私はちょっと、切ない気持ちになる。
その時、ずっと遠くの空に大きな大きな花火が咲いた。キャピタリアの方だ。見上げると、それは文字になっている。
『これまでありがとうございました!!!!! ネバプ最高!!!!!』
「……派手だなぁ」
なんて呆れた声を出しながらも、私は思わず笑ってしまった。
ずっとソロで、会話さえ数えるくらいしかしなかったけれど、今この瞬間はどこの誰とも知らぬメッセージの主と同じ気持ちだ。
私は立ち上がり、空に手を振って叫んだ。
「ネバプさいこーっ! 楽しかったーっ! ありがとーッ!」
その言葉が、誰かに届いたのか届かなかったのか。
間もなく時刻は24時を過ぎて、青い青い風待ち野原の空がふっと暗闇に包まれる。
表示される無機質なシステムメッセージ。
『サーバーに接続できません』――それは、一つの世界が終わった証。ネバーエンディング・プラネットという星への別れの言葉。
だけれど私は、なんだか不思議と、どこか清々しい心地良さを抱いていた。
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