表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刻印戦記アウレア ~愛した貴女の最後の言葉を、私は信じている  作者: 叶詩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/6

イリス

信じることは、

何も疑わないことではない。

それでも手を伸ばすと、決めることだ。

 焚き火の炎は静かに揺れていた。

 崩壊都市を離れてからの夜は冷え、空気は澄みきっている。

 だがイリスの胸は、温度を失っていた。


 今日、世界は“削れた”。

 それでも朝は来て、誰もそれを語らない。

 彼女の中でだけ、あの無音が反響し続けていた。


 アイラの魔法。


 闇でも、光でもない。

 選択そのもののような力。


 怖くないと言えば嘘になる。

 だが、怖いからこそ目を逸らしたくなかった。

 恐怖は距離を生む。

 けれど彼女は、距離の先にある“人”を見たいと願っていた。


 少し離れた場所で、ノエルが立っている。

 焚き火の向こう、剣を握った影だけが見える。


 イリスは、意を決して声をかけた。


 「……眠れない?」


 彼は答えない。視線は、闇の奥へ。


 「あなた、何かを隠している」


 言い切りは、静かだった。

 責めるためではない。

 壊したくないから、確かめる。


 ノエルは、しばらく沈黙した。

 その沈黙こそが、答えだった。


 イリスは焚き火に目を戻す。


 「ねえ。世界は、誰かの嘘で守られていることがあるわ。

  でも……その嘘が誰かを壊すなら、

  それは“守る”って言える?」


 ノエルは、初めて彼女を見た。


 「……お前は、信じすぎる」


 イリスは微笑んだ。


 「ええ。

  だから、疑うの。疑ったうえで、信じるの」


 再び沈黙。

 だがそれは、拒絶ではなかった。


 焚き火の向こうで、アイラが小さく寝返りを打つ音がした。

 イリスは目を閉じる。


 ――この手は、まだ伸ばせる。


 どれほどの闇が待っていても。

 たとえ、明日が裏切りの朝だとしても。


 彼女は、静かに息を吸った。


 「……私は、選ばれなかった人たちのために、選び続ける」


 その言葉は、誰にも聞かれなかった。

 だが確かに、夜の中に刻まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ