失われた学派《白紙年代記》Ⅱ 循環の数式
世界は、
壊れたから終わるのではない。
終わるべき時を、奪われたから壊れる。
この頁は、
救われ続けることで、
壊され続けた世界の証言である。
学派が最初に恐れたのは、
祠そのものではなかった。
それは、“周期”という言葉の裏に隠された規則性だった。
崩壊は、いつも突然訪れる。
だが、記録を辿れば、
その間隔は不自然なほど“整って”いた。
王族はそれを「宿命」と呼んだ。
神官は「神の意志」と唱えた。
だが、学派の者たちは、
胸の奥に刺さるような違和感を覚えていた。
偶然にしては、整いすぎている。
彼らは、瓦礫の中で膝をつき、
焦げた石板を拾い、
魔力濃度の変化を何度も書き写した。
崩壊都市の地盤沈下角度。
結界塔の歪度推移。
魔物発生域の拡張曲線。
血と灰の匂いに包まれながら、
彼らは“世界の鼓動”を数式へと落とし込んでいった。
やがて浮かび上がったのは、
ひとつの曲線。
> 「世界歪度は、
> 一定の臨界点へ収束する」
その曲線は、
どの時代の崩壊とも一致していた。
学派は、世界を“器”と見なした。
魔力、感情、憎しみ、祈り。
人が生きるたび、
それらは少しずつ溜まっていく。
器は歪み、
やがて限界を迎える。
それが“崩壊”だ。
だが、祠は介入する。
世界が壊れる直前、
“選別”を行い、
適合者を“内側”へ隔離する。
そして、外側を犠牲にして、
歪度を“初期値”へと戻す。
学派は、それをこう呼んだ。
> 「再起動」
完全な再生ではない。
破損した部分だけを切り捨て、
続けられる形へ歪める。
だから歴史は続く。
だが、同じ痛みを抱えたまま。
白紙年代記・Ⅱの余白には、
誰かの手で震えるように書き殴られた言葉が残る。
> 「これは救済ではない。
> 延命だ。
> 死ぬことを許されない世界の、
> 永遠の苦痛だ」
インクは滲み、
紙は破れている。
それでも、その言葉だけは、
祠よりも強く、
“人の声”として残っていた。
学派は、最後に問いを記す。
> 「もし、祠を止めたら――
> 世界は、どうなる?」
その答えは、まだ、白紙のままだった。




