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刻印戦記アウレア ~愛した貴女の最後の言葉を、私は信じている~  作者: 叶詩


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32/50

失われた学派《白紙年代記》序

歴史とは、

書かれたものの集積ではない。


書かれなかったものの、影だ。


忘却は、偶然じゃない。

それは――

誰かの“選択”の結果である。


この頁に刻まれるのは、

消された世界の、

最後の声。

 この世界の歴史には、“不自然な空白”がある。


 王族が編纂した正史は、必ず同じ書式で始まる。

 「アウレア崩壊後、ネクサスは再生された」

 そう記し、以後の年代は細密に並ぶ。

 復興年、建国年、王位継承、都市再建。

 石板に刻まれた文字は、どれも均一で、感情の影がない。


 だが、その“起点”の直前――

 世界が壊れた理由だけが、どこにも書かれていない。


 火山の噴火でも、天変地異でもない。

 魔王でも、神でもない。

 あらゆる史書は、

 “崩壊は起きた”とだけ記し、

 “なぜ起きたか”を語らない。


 まるで、そこだけが意図的に削り取られたかのように。


 白紙年代記とは、

 この“欠落”に気づいた者たちの手で記された、

 正史に存在しない歴史書の総称である。


 著者は名を残していない。

 記号も、署名もない。

 だが、共通する言葉がある。


 > 「世界は、偶然では壊れない」


 この一文は、異なる遺構の壁や、

 焼け焦げた紙片、封印された水晶板にまで刻まれていた。

 まるで、同じ声が、時代を越えて響いているかのように。


 彼らは、崩壊を“事故”ではなく、

 “構造の必然”として捉えた。


 白紙年代記は、断片でしか残っていない。


 祠の地下、封印された文庫、

 崩壊都市の瓦礫の奥、

 王族が“回収”し損ねた遺構。


 どれも、正式な記録からは消されている。

 触れれば、粉のように崩れる紙もあった。


 だが、内容は一致していた。


 > 世界は、循環している。

 > 終わりは、次の始まりのために“用意”されている。

 > そのための“装置”が、祠である。


 彼らは、祠を神聖視しなかった。

 救済とも、奇跡とも呼ばなかった。


 代わりに、こう定義した。


 > 「世界の選別機構」


 滅びに際し、

 適合した者だけを“内側”へ隔離し、

 残りを“外側”へ切り捨てる。


 その過程で、

 世界は一度“白紙”に戻される。


 ――だから、年代記は白紙なのだ。


 そして、最も異様な一文がある。


 > 「この構造を破壊する鍵は、

 > 祠の“外”に置かれた」


 学派は、その“鍵”を探し続けた。


 刻印を持つ者。

 影に導かれる者。

 世界と“噛み合わない”存在。


 彼らは、その存在をこう呼んだ。


 > “誤差”


 白紙年代記は、

 最後の頁で、こう締めくくられている。


 > 「世界を延命させる檻は、

 > いずれ“内側”からではなく、

 > “外側”から壊される」


 だが、その“外側”に立つ者の名は、

 まだ、どこにも記されていない。

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