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刻印戦記アウレア ~愛した貴女の最後の言葉を、私は信じている~  作者: 叶詩


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王族の手

手を伸ばす者が、

必ずしも救おうとしているとは限らない。


掴むための手は、

祈りよりも静かに、確実に閉じる。


その指先が触れた瞬間、

世界は“敵”という形を持つ。

 城壁の影を抜けた瞬間、空気が張りつめた。


 石畳の温度が、わずかに冷たい。

 磨き上げられた白い壁が、淡く光を反射し、

 街全体が“管理された静寂”に包まれているようだった。


 背後で、門が静かに閉じられる。

 その低い音は、退路を断つ合図のように、胸に沈む。


 アイラは、無意識に背中の刻印を意識した。

 さきほどの“宣告”が、まだ耳の奥で反響している。


 ――管理の外。


 その言葉は、冷たく、そして重い。


 ノエルは、周囲を素早く見回す。

 整えられた街路、均一な建物、整列する人影。

 どこを見ても、同じ色と同じ形。


 「……静かすぎる」


 人の気配はある。

 だが、視線は伏せられ、声は小さい。

 誰もが“何か”を恐れている。


 イリスは、歩きながら低く言った。


 「この街は……祈りで覆われている。

  でも、それは守るための祈りじゃない」


 そのとき、通りの奥から、

 同じ紋を胸に刻んだ一団が現れた。


 白環位を中心に、紅環位、蒼環位が左右に並ぶ。

 その歩調は揃い、感情の揺らぎは見えない。

 まるで、ひとつの機構のようだった。


 「刻印の器よ」


 白環位が、淡々と告げる。


 「調律への“同意”を、ここで得る」


 それは、選択ではなかった。


 アイラは、まっすぐに見返す。

 心臓の鼓動が、耳に響く。


 「……拒んだら?」


 「回収する」


 短い答え。


 ノエルの指が、剣の柄を強く握る。

 革が、きしりと鳴った。


 「……それが、王族の“手”か」


 白環位は、何も言わなかった。

 代わりに、周囲の魔導士たちが、静かに陣形を取る。


 イリスは、深く息を吸う。


 「……ここから先は、戻れない」


 アイラは、ゆっくりと頷いた。


 「……うん。でも、進む」


 空気が、わずかに震える。


 王族の“手”が、

 いま、掴みに来た。


 白環位が、ゆっくりと右手を上げた。


 合図は、それだけだった。


 空気が、沈む。

 まるで重力そのものが増したかのように、呼吸が重くなる。

 街路の奥と屋根の影から、同時に魔力の波が立ち上がった。


 陣形は円を描き、三人を“中心”に閉じていく。

 逃げ道は、すでに計算されていた。


 「包囲……」


 ノエルが、歯を食いしばる。


 紅環位が詠唱を始める。

 短く、だが重い言葉が、石畳を低く震わせる。


 蒼環位が術式を重ね、

 光が幾重にも絡み合い、空間そのものが“固定”される。


 ――連携詠唱。


 それは、個ではなく、構造としての魔法。

 歯車のように噛み合い、ひとつの処理として動く。


 「……来る!」


 イリスが一歩踏み出し、

 胸の奥に息を落とす。


 「応えよ、天に満ちる白き息。

 夜を照らし、名もなき者を包み込んできた光よ――」


 音が、消える。


 《ラディアント・セラフィム》


 光の結界が広がり、

 四方からの魔力を受け止めた。


 だが、圧が違う。

 壁が軋み、光が削られ、

 結界の表面に細かなひびが走る。


 「……長くは、もたない」


 アイラの背中の刻印が、再び熱を帯びる。

 皮膚の奥で、脈が跳ねた。


 《……抑えろ。まだ“切る”時じゃない》


 ルクの声が、低く響く。


 ノエルは、前に出た。

 剣に、無属性の輝きが宿る。


 「境界を断て――」


 呼吸、ひとつ。


 《ノア・エッジ》


 光の刃が、結界の外縁を切り裂く。

 歪んだ魔力の層が、音もなく裂け、

 空間に、わずかな“隙”が生まれた。


 その隙間から、アイラが一歩踏み出す。


 唇が動く。

 影が、足元から“立ち上がる”。


 「集え、境界に棄てられし影よ――」


 沈黙。


 王族の陣が、わずかに“止まる”。


 白環位の声が、初めて低く響いた。


 「……器が、抵抗している」


 アイラは、前を見る。


 「私は、誰の歯車にもならない」


 影が、凝縮を始める。


 ――だが。


 空が、歪んだ。


 頭上から、別の魔力が落ちてくる。

 それは、王族でも、魔物でもない。


 「……何?」


 イリスが顔を上げた。


 次の瞬間、街路が“崩れた”。


 爆風が、結界ごと三人を吹き飛ばす。

 石と光と影が、視界を埋め尽くす。


 その混乱の中、

 白環位の低い声が、かすかに届いた。


 「……撤退。

  “歯車”が、動き始めた」


 煙の向こうで、

 “第三の影”が、ゆっくりと姿を現す。

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