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刻印戦記アウレア ~愛した貴女の最後の言葉を、私は信じている~  作者: 叶詩


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王族の狩り

正義は、

剣よりも鋭く、

魔法よりも多くの命を奪う。


それはいつも、

“守るため”という名でやってくる。

 夜は、異様なほど静かだった。


 雲に覆われた月は、わずかな輪郭だけを残し、

 森は影の塊のように地平を塞いでいる。

 風は止み、葉擦れの音すらない。


 その不自然な沈黙こそが、

 “何かが始まる”前兆だった。


 遠くで、枝が踏み折られる音がした。

 だが、それは偶然ではない。

 一定の間隔で、規則正しく、

 闇の中に“配置”されていく足音。


 王族私兵。


 灰環位を先導に、紅環位と蒼環位の混成部隊。

 彼らは、呼吸すら揃え、

 心拍の音を魔力で抑え込む訓練を受けている。


 狩りのために生きる者たち。


 蒼環位が、木々の隙間から焚き火を確認した。


 小さな光。

 だが、その周囲に集う“気配”は、

 今や世界の歯車そのものだった。


 「……対象、確認」


 紅環位の女は、ゆっくりと視線を巡らせる。


 「包囲。

  抵抗は、許可」


 それは“命令”というより、

 自然現象のような宣告だった。


 灰環位が、闇へと溶ける。

 姿を失った瞬間、

 森の輪郭が一段、深く沈んだ。


 そして――

 焚き火が、爆ぜた。


 熱と火花が夜を裂き、視界が白く弾けた。


 次の刹那、空気が“落ちる”。


 圧力のような魔力が、四方から一斉に押し寄せた。


 「伏せろ!」


 ノエルの叫びと同時に、

 地面に走る光の線。


 イリスが即座に詠唱を始める。


 「応えよ、天に満ちる白き息――」


 だが、完成する前に、

 空間が歪んだ。


 灰環位が、焚き火の向こうに“現れた”。


 影のように、音もなく。


 刃が振るわれる。


 ノエルは咄嗟に剣を合わせた。

 衝突音が夜に走り、火花が散る。


 「……人間だ」


 その言葉は、呆然とした呟きだった。


 魔物でも、異形でもない。

 世界を“守る”と名乗る人間。


 「対象確保を優先。

  損耗は許容範囲」


 紅環位の声が、森に滑り落ちる。


 蒼環位の詠唱が、背後で重なる。


 「集え、調律の残滓――」


 空間に紋が走り、

 地面が砕けた。


 アイラの背が、熱を帯びる。

 刻印が、鼓動する。


 《……来る》


 肩の影が、低く囁く。


 彼女の視界が、滲む。

 闇が、縁取る。


 だが、イリスが前に出た。


 「下がって!」


 光が走る。

 夜が、白く裂ける。


 初めて――

 “人間”が、その光に呑まれた。


 蒼環位が、呻きながら後退する。


 紅環位は、口元を歪めた。


 「……なるほど。

  これが、“器”」


 灰環位が、再び踏み込む。


 ノエルが前に出た。


 「行かせない!」


 剣と魔法が、夜を引き裂く。


 森が悲鳴を上げ、

 地面が焦げ、

 空気が軋む。


 だが、王族は退かない。


 彼らは“使命”という名の檻の中で、

 迷うことを、すでに捨てている。


 撤退の合図が、短く鳴った。


 「……今回は、見送る」


 紅環位の声が、霧のように消える。


 闇は、再び森を覆った。


 残されたのは、焦げた大地と、

 震える焚き火だけ。


 ノエルは、歯を食いしばる。


 「……世界は、俺たちを殺しに来ている」


 誰も、否定できなかった。


 狩りは、始まった。

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