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刻印戦記アウレア ~愛した貴女の最後の言葉を、私は信じている~  作者: 叶詩


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17/22

遺跡の記録

記録は、

過去を残すためにあるのではない。


忘れてはいけないものを、

世界が消そうとした痕だ。

 その遺跡は、砂に半ば呑まれていた。


 乾いた風が、崩れた石柱の間を吹き抜け、

 細かな砂粒が、低く鳴くような音を立てている。

 遠くから見れば、ただの廃墟。

 だが一歩踏み入れた瞬間、

 ここが“何かを残そうとした場所”だと、身体が理解する。


 石柱の表面には、かつての装飾がかすかに残り、

 指でなぞれば、風化した溝に砂が落ちた。

 王族の建築とは異なる、どこか“祈り”の残る造形。


 蒼環位が、足を止める。


 「……ここは、回廊学派の研究拠点だった可能性が高い」


 声を潜める必要はないはずなのに、

 自然と音量が落ちた。


 紅環位の女は、壁の紋を見下ろした。

 祠を模した形だが、

 王族の紋とは“向き”が逆だ。


 「王族が抹消した連中ね」

 「随分と、しぶとい」


 階段は、地下へと続いていた。

 一段降りるごとに、外の光は遠ざかり、

 空気が、過去の匂いを帯びていく。


 冷たい。

 だが、ただの温度ではない。

 長く閉ざされていた“時間”の冷え。


 壁には、世界波を示すらしき幾何図形。

 刻印、影、祠を結ぶ線が、何層にも重ねられている。


 蒼環位が、かすかに息を呑む。


 「……理論だ。

  世界調律を、儀式じゃなく構造として捉えている」


 奥の間に、石の台座があった。

 崩れた棚の残骸、

 その上に、割れた記録板が積み重なっている。


 紅環位が、一枚を拾い上げた。


 「“白紙年代記”……?」


 文字は、意図的に削られている。

 だが、表面に残る微かな凹凸が、

 消される前の“意志”を、まだ抱えているようだった。


 風が吹き込み、砂が舞う。


 削れた行間に、かすかな残滓。


 《歯車は、解体されねばならない》

 《世界は、選ばれるのではない。奪われている》


 蒼環位の喉が、鳴った。


 「……反逆思想だ」


 その瞬間――


 床の紋が、淡く光った。


 空気が、震える。


 まるで、遺跡そのものが、

 “まだ終わっていない”と告げているかのように。


 床の紋が光った瞬間、

 空気が一段、重く沈んだ。


 音が、消える。


 砂の舞いも、風のうなりも、

 すべてが“押し潰された”ように止まった。


 蒼環位は、即座に魔力を展開する。


 「……守護機構だ。

  この遺跡は、思想ごと保存されている」


 紅環位の女は、薄く笑った。


 「死人が、まだ抵抗してるってわけ?」


 台座の奥、闇の中から“それ”は現れた。


 石と紋が絡み合った人型。

 胸部には、割れた祠紋。

 頭部はなく、代わりに光の輪が浮かんでいる。


 《選ばれぬ世界に、価値はあるか》


 声は、響きではなく思考として流れ込んだ。


 蒼環位は、歯を食いしばる。


 「……ある。

  だからこそ、我々は延ばしている」


 《延ばす?

  切り捨てることを、そう呼ぶのか》


 守護機構の腕が上がる。

 空間が歪み、重力が“折れた”。


 紅環位が跳ぶ。


 「理屈で世界は救えないのよ!」


 魔力が衝突し、

 遺跡の壁が砕ける。


 蒼環位は詠唱を始めた。


 「集え、世界調律の残滓――」


 だが、守護機構は止まらない。


 《歯車は、解体されねばならない》


 紅環位の一撃が、胸部を貫く。

 紋が砕け、光が暴走する。


 遺跡が、悲鳴を上げた。


 やがて、すべてが静まる。


 瓦礫の中、蒼環位は崩れた記録板を見つめた。


 「……彼らは、間違っていたのか」


 紅環位は、背を向ける。


 「いいえ。

  “選ばれなかった”だけ」


 彼女は、遺跡を振り返らなかった。


 だが、崩れ落ちる石の奥で、

 かすかな光が、なおも脈打っていた。


 思想は、まだ死んでいない。

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