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刻印戦記アウレア ~愛した貴女の最後の言葉を、私は信じている~  作者: 叶詩


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祈りの夜

祈りとは、

救いを願う言葉ではない。


明日を選び続けるための、

たった一つの“覚悟”だ。

 夜は深く、森は凪いでいた。

 焚き火の炎だけが、三人の影を揺らしている。


 ノエルはまだ万全ではない。

 肩には包帯、呼吸も浅い。

 だが、その目は覚悟に満ちていた。


 「……追手は、来る」


 短い言葉が、空気を切る。


 《近い》

 影が低く告げた。

 《白環位、複数。囲う気だ》


 イリスは、杖を握り直す。

 「ここで、迎え撃つしかないわね」


 アイラは焚き火を見つめ、深く息を吸った。

 胸の奥に残る“変化”が、まだ熱を帯びている。


 「……みんなで、生き残る」


 その言葉に、ノエルは静かに頷いた。


 霧の奥で、枝が折れる音。

 気配が、いくつも重なっていく。


 詠唱が、森にこだました。


 「応えよ、天に満ちる白き息――」


 イリスの光が、周囲に結界を張る。

 それは、守るための祈り。


 「集え、境界に棄てられし影よ――」


 アイラの影が、闇を揺らす。

 それは、抗うための祈り。


 そして、ノエルは剣を構えた。


 「……来い」


 白い閃光が、夜を裂く。


 白い閃光が、霧を引き裂いて降り注いだ。


 同時に、森の各所から複数の詠唱が重なり合う。

 王族私兵――蒼環位と紅環位の混成部隊。


 「囲まれてる……!」

 イリスが息を呑む。


 《配置、北と東。退路、封鎖》

 影が冷静に告げる。


 ノエルは、歯を食いしばった。

 「なら……突破する」


 最初の衝撃が、結界に叩きつけられる。

 イリスの光がきしみ、空気が震えた。


 「光よ、満ちて奔れ。闇を退け――《レディアント・ウェーブ》!」


 衝撃波が正面の魔導士を吹き飛ばす。


 だが、すぐに別方向から火と雷の魔法が殺到した。


 「くっ……!」


 結界に亀裂が走る。


 《今だ》

 影が囁く。

 《左が薄い》


 ノエルが即座に踏み込む。


 「無よ。断て。崩せ――《ノア・エッジ》!」


 無属性の刃が、包囲網を切り裂く。


 「道が開いた!」

 アイラが叫ぶ。


 だが、紅環位の詠唱が完了する。


 「……遅い」


 巨大な魔力が集束し、空気が悲鳴を上げる。


 《危険》

 影が警告した。


 アイラは一歩前に出る。


 「集え、境界に棄てられし影よ……」


 影が、黒い渦となって彼女の周囲に集まる。


 「我が声に応え、我が血に宿り――」


 詠唱が、夜を裂く。


 ノエルが叫んだ。

 「今だ、イリス!」


 イリスは即座に詠唱を重ねる。


 「応えよ、

  天に満ちる白き息。


  夜を照らし、

   名もなき者を包み込んできた光よ。


  砕けた祈りを集め、

   失われた声を抱き、

    ここに、

     盾となれ。


  傷を覆い、

   涙を乾かし、

    それでも

     進む者たちを守れ。


  いま、

   希望は

    ここに立つ――


   《ラディアント・セラフィム》!」


 光の結界が、アイラを中心に展開する。


 「凝縮せよ。重なれ。崩れよ――」


 影と光が、同時に脈動した。


 「いま、

   終焉はここに集う――


  《シャドウ・バースト》!!」


 黒と白の奔流が、正面の殲滅魔法と正面衝突する。


 衝撃が爆ぜ、森が揺れ、夜が裏返った。


 閃光が消えた時、

 包囲していた私兵の姿は、そこになかった。


 霧の中、三人だけが残る。


 ノエルは、肩で息をしながら笑った。


 「……やっと、陣になったな」


 イリスは杖を下ろし、静かに祈る。


 「ええ。……でも、これは始まり」


 アイラは、影を見つめた。


 《歯車が、動いた》

 影が低く言う。


 《もう、戻れない》


 夜は、静かに明け始めていた。

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