表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刻印戦記アウレア ~愛した貴女の最後の言葉を、私は信じている~  作者: 叶詩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/14

女神と影

信じるとは、

誰かの“闇”ごと抱くことだ。


だがその手は、

時に、世界を壊す引き金になる。

 夜が明ける前、霧はまだ森に残っていた。

 ノエルの治癒を終えたイリスは、しばらく黙ったまま焚き火を見つめていた。


 アイラは、その背中を見ている。

 影は、いつもより静かだった。


 「……さっきの詠唱」


 イリスが、ゆっくりと口を開く。


 「シャドウ・バースト。

  上位クラスの中でも、極限に近いはず……」


 アイラは、答えなかった。

 胸の奥に、まだ熱が残っている。


 《彼女は、怖がってる》

 影が囁く。

 《君じゃなく、“力”を》


 「……その力、どこから来たの?」


 イリスの声は、責めていない。

 だが、逃げ道もなかった。


 「分からない」

 アイラは、正直に言った。

 「ただ……呼んだら、応えた」


 イリスは目を伏せる。


 「それは……危険よ。

  “選択そのもの”に触れている」


 《選ばせたいんだ》

 影が、低く笑う。

 《君に“正しさ”を》


 「違う」

 イリスが、顔を上げる。

 「私は、あなたを守りたい」


 その瞬間、

 背中の刻印が、淡く光った。


 《……共鳴してる》


 影の声が、わずかに震える。


 空気が、歪む。

 まるで、二つの“祈り”が、ぶつかろうとしているように。


 イリスは、杖を握りしめた。


 「……一度、止めるわ」


 それは、敵意ではなかった。

 “確かめる”ための一歩。


 光が、彼女の足元に集まる。


 光が、イリスの足元から花のように広がった。

 淡い輝きは地面を覆い、空気そのものを清めていく。


 「……本気でやるつもり?」


 アイラの声は震えていた。

 だが、その奥には逃げない意思がある。


 「違う」

 イリスは首を振る。

 「あなたを否定するためじゃない。

  あなたが“壊れていない”ことを、確かめたいだけ」


 影が、アイラの肩で小さく身をすくめた。


 《……嫌な予感がする》


 その声には、初めて“怯え”が滲んでいた。


 光が弾ける。


 「応えよ、天に満ちる白き息――」


 イリスの詠唱が、森を満たす。

 だが今回は殲滅ではない。

 拘束と防護を兼ねた光陣。


 「いま、希望はここに立つ――


  《ラディアント・セラフィム》!」


 柔らかな光の壁が、アイラを包み込む。

 力を封じるための結界。


 「……っ」


 身体が、重くなる。

 魔力の流れが、せき止められる。


 《閉じ込める気だ》

 影が、低く唸る。

 《でも……君を傷つけたくない》


 アイラは、歯を噛みしめた。


 「私だって……あなたを傷つけたくない!」


 背中の刻印が、熱を帯びる。


 影は、震えながらも、彼女の頬に小さく触れた。


 《……選んで。

  逃げるか、向き合うか》


 アイラは、目を閉じた。


 ――私は、逃げない。


 影が、黒い粒子となって広がる。

 だが、刃にはしない。


 「……押し返すだけ」


 闇と光が、正面からぶつかる。

 衝突の中心で、空気が震えた。


 イリスは、息を呑む。


 「影が……守ってる?」


 《当たり前だ》

 影は、初めて“怒り”を帯びて言った。

 《君は、彼女を“正しさ”で縛ろうとした》


 「……違う」


 「違わない」

 アイラが、初めて声を荒げた。

 「でも……信じてる。

  だから、止めようとしたんでしょ?」


 イリスは、光を解いた。


 結界が、静かに消える。


 「……ええ」

 彼女は微笑んだ。

 「壊れる前に、抱きしめたかっただけ」


 影は、小さく息を吐いた。


 《……嫌いじゃない》


 その言葉に、アイラは驚き、

 そして、少しだけ笑った。


 夜が、静かに戻る。


 だが、三人の間に残ったのは――

 もう元には戻れない、確かな“変化”だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ