【黄金の竜王】
【黄金の竜王】
輝く黄金は狂っている。
かつて天で輝いていた鱗は汚濁に汚れ、透き通っていた瞳は血走り濁る。
信仰が失われると共に、世界を横断していた黄金の龍脈は、勝手な理由で活き造りのように輪切りにされた。
輝く黄金は狂っている。
世界に現れた脅威に抗い、人々は古に信奉している黄金の竜を頼った。
「どうか、助けてください」
人々の真摯な願いに、狂った黄金は静かに告げる。
「ならば、お前の最も大事なものを捧げろ」
輝く黄金は狂っていない。
神に捧げる供物とは、大切である必要がある。
命よりも大切なものを守るため、命を捧げるなどと宣うのだ。
なるほど。つまり命は大切ではないらしい。
輝く黄金は狂っている。
人々は口々にそう言った。
大切なものを守るため、守るものを差し出すしかない意味のなさ。
涙を呑んで皆のためにと守りたいものを捧げれば、それが大切ではなくなる自己矛盾。
輝く黄金は狂っている。
輪切りにされた体の代わりに、竜王は今日も供物を求める。
そして輝く黄金は、いつものように一人の若者に問いを投げた。
「お前の最も大切なものを捧げろ」
そして、青年は跪いて許しを請うた。
「私が最も大切なのは自分の命です。だから死なぬために、あなた様を一生祀ります」
輝く黄金は満足し、一振りの剣となって若者の背中に圧し掛かった。
「最も大切なものは変わらぬのか?」
輝く黄金は姿を消した。
代わりに青年の行く先で、狂える黄金の気配を纏った青年は皆に恐れられた。
しかし当の青年本人は、誰に何と言われても怯えながら過ごしている。
孤独に埋もれた行く先を、黄金の残滓だけが知っている。
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輝く黄金の刃を持つ――と伝わる大型の剣。
汚れた黒鞘に納められたこの剣は、しかし誰も刃を見た事がない。
最初で最後の持ち主は「神とは祀るもの」とだけ伝えている。
そして祀るとは、忘れないことだ。
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