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魔剣蒐集録  作者: 健康な人
1章:人と神の寓話
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【黄金の竜王】

【黄金の竜王】


 輝く黄金は狂っている。

 かつて天で輝いていた鱗は汚濁に汚れ、透き通っていた瞳は血走り濁る。

 信仰が失われると共に、世界を横断していた黄金の龍脈は、勝手な理由で活き造りのように輪切りにされた。


 輝く黄金は狂っている。

 世界に現れた脅威に抗い、人々は古に信奉している黄金の竜を頼った。

 「どうか、助けてください」

 人々の真摯な願いに、狂った黄金は静かに告げる。

 「ならば、お前の最も大事なものを捧げろ」


 輝く黄金は狂っていない。

 神に捧げる供物とは、大切である必要がある。

 命よりも大切なものを守るため、命を捧げるなどと宣うのだ。

 なるほど。つまり命は大切ではないらしい。


 輝く黄金は狂っている。

 人々は口々にそう言った。

 大切なものを守るため、守るものを差し出すしかない意味のなさ。

 涙を呑んで皆のためにと守りたいものを捧げれば、それが大切ではなくなる自己矛盾。


 輝く黄金は狂っている。

 輪切りにされた体の代わりに、竜王は今日も供物を求める。

 そして輝く黄金は、いつものように一人の若者に問いを投げた。

 「お前の最も大切なものを捧げろ」

 そして、青年は跪いて許しを請うた。

 「私が最も大切なのは自分の命です。だから死なぬために、あなた様を一生祀ります」

 輝く黄金は満足し、一振りの剣となって若者の背中に圧し掛かった。

 「最も大切なものは変わらぬのか?」


 輝く黄金は姿を消した。

 代わりに青年の行く先で、狂える黄金の気配を纏った青年は皆に恐れられた。

 しかし当の青年本人は、誰に何と言われても怯えながら過ごしている。

 孤独に埋もれた行く先を、黄金の残滓だけが知っている。



 ~~~~~~~~~~~~~~~


 輝く黄金の刃を持つ――と伝わる大型の剣。

 汚れた黒鞘に納められたこの剣は、しかし誰も刃を見た事がない。

 最初で最後の持ち主は「神とは祀るもの」とだけ伝えている。

 そして祀るとは、忘れないことだ。


 ~~~~~~~~~~~~~~~


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