【名もなき神の墓標】
【名もなき神の墓標】
その刃には、名があった。
しかし誰にも、それを読むことができなかった。
それは神が振るった刃であり、同時に神の墓標であった。
刃は、よく斬れた。
振るえば骨を肉ごと切り裂き、鋼の鎧を布のよう切り裂く。
敵の名も、恨みも、勝利の理由も残らない。
手の中で少しだけ重さを増した刃だけが、何があったかを覚えている。
ある兵士は、その刃を置いて村に戻った。
畑を耕し、子を育て、穏やかに暮らした。
夜更け、ふと何かが足りない気もするのだが、それが何かは覚えていない。
そしてその男は、自分の名前が呼ばれていないことにも気がつかない。
刃は今もどこかにある。
だが、探す者はいない。そうとした理由を、誰も覚えていないから。
やがて兵士が長老と呼ばれるようになった頃、どこかで聞いた事がある気がする名前の新しい神殿が建てられた。
その神殿では、誰も名で呼ばれなかった。
役割だけがあり、人はいなかった。
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名前を刻まれた刃。しかし誰もその名を読めない。
この刃を振るった者は、やがて名前を失う。
そして刃は、その名前を記憶する。
刃が重くなるたびに、世界から名前が消えていく。
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