【柘榴石の鏃】
【柘榴石の鏃】
ある時、一人の学者は資料を纏めながら、ふと思いつく。
なぜこのように美しい女神が、辺境でしか信仰されていないのだろうか、と。
誰に聞いても答えを知らないその問いの答えを求め、学者は辺境に赴いた。
その場所では、熱心な女神信仰がなされていた。
やたら豊かなその村の起源は、遡ればとある石を削りだした鏃に行き着くという。
その石を削りだして作った鏃はよく切れて、砕いて土に蒔けば豊かな作物を実らせるのだとか。
学者は女神の名前を聞いてみて、やはり!と納得と共に小躍りする。
村人も学者が女神を調べようとしていることに喜んで、村に泊ってくれと陽気に誘う。
その朝、学者は村に祀られる女神に挨拶をしてから、再び件の村人にあった。
かれは、何でも答えてくれる。
――女神は対価を求めず、豊穣だけを齎す。
――故に我々も、女神に何も求めない。ただそこに在ってくれたら安心するのだ。
――その共生こそが、我らが辺境で生きる秘訣なのだ。
なるほど、と学者は納得した。
豊穣の女神だからこそ、彼女に豊穣を求めてはいけないらしい。
その信仰と禁忌をしっかりと書物に記した学者は、旅の最後に村の起源となっているらしい石を見せて欲しいとお願いした。
村人は当然の様に快諾し、学者を石の元へ案内する。
そして学者は、豊穣の石を見て押し黙った。それが、人肌のように温かかったから。
自慢そうに石の効果を語る村人の話を黙って聞いて、学者は感謝と共に村を去った。
学者は、考えていた。
与えられたと感じるのは、人だ。神にはきっと、与えたつもりすらない。
迷いながら自分の研究室に戻った学者は、今回の旅の結果をゴミ箱に捨てた。
そして、一言だけ禁忌の項目を作った。
「豊穣を求めるべからず」
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とある村の特産品である、柘榴石の鏃。
とある女神の加護が込められており、よく切れ、砕いて蒔けば豊作を約束するそうだ。
その組成は人の血液にも似ていて、何故だか少し暖かい。
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