【折れた魔王の剣】
【折れた魔王の剣】
――章・幼
彼は、生まれたその頭に角を持っていた。
体は他の赤子より大きく、歯は生え揃い、頭に髪を持っていた。
その角で傷付けた母の命を代償にこの世に生まれた一つの命は、父にも他者にも疎まれた。
――章・小
腹は常に空腹を訴えながら、その力は誰よりも強かった。
大人も子供も彼には気味悪がって近づかない。大人も子供も、彼が怖かったから。
そうしていつも一人だった彼は、ある時一人の女性と出会う。
――章・青
女性から魔術を学んだ。狩りを教わった。生きる楽しさを貰った。
青年となった彼と女性は幸せの絶頂にあった。しかし、別れは突如やってくる。
彼が異形だったから。
身重の身でありながら彼を庇った女性は、その胸を鋼の槍に貫かれた。愛した女性の死体を抱く事すら許されず、青年は女性の最後の約束を守るため逃げることしかできなかった。
――章・王
異形と呼ばれ、蔑まれた者たちが居た。
立派な体躯と大きな角を持つ男に率いられた異形たちは自らを魔族と名乗り、己を虐げた者たちに戦いを仕掛ける。
十数年の歳月をかけ、魔族たちは国と呼べる大きさの居場所を持つに至った。
角を持つ男は魔王と呼ばれ恐れ敬われたが、男は何人目かわからぬ勇者との戦いで、ついに破れてしまう。
黄金の刃に切り落とされた魔王の剣は、魔族の国が蹂躙される直前に、彼の側近である一人の女魔族によって魔王の遺体と共に運び出された。
魔王の後継は見つからず、剣は静かに新たな王の誕生を待つ。
~~~~~~~~~~~~~~~
刀身の半ばより先を断たれた大型の直剣の柄。その昔、勇者に破れた魔王が扱っていた。
本来は不可思議な力を有していたらしいが、刀身が失われてしまっているからなのか、今となってはその力の殆どが失われている。
魔力を込める事で銀の刀身を顕現させる事ができると伝わっているが、その力を扱えたのは魔王だけであったらしい。
~~~~~~~~~~~~~~~




