【祈りを覚えている鐘】
【祈りを覚えている鐘】
ある時、町で奇妙なことが起こった。
大聖堂にある鐘が、祈りの言葉を覚えたのだ。
鐘を鳴らせば、音の代わりに聖句が響くのだ。
最初は皆が驚いたが、やがて彼らはこれを使うようになった。
――鐘が一緒に祈ってくれる。
そんな風に笑いながら。
その日、朝早くに鐘が鳴った。
いや、正確には聖句が鳴ったのだが。
いつもと違う時刻だったが、住民たちは気にしなかった。
祈りの時間だと思った住民が家を出た。
しかし、そこで見たのは祈りで集まる人々ではなく、攻め寄せた戦神の軍勢だった。
武器を持たずに集まっていた住民たちは、彼らの攻勢によってあっさりと滅んだ。
国を滅ぼした彼らは、その鐘を戦神に報告するために、
意気揚々と鐘を持ち帰って彼らの神に説明した。
その鐘は、戦神の町で鳴らされることになった。
その祈りの意味を理解する者は、今はもう居ない。
祈りの一節が、もう居なくなった彼らが讃えていた神のものに、入れ替わっていたとしても。
しかしそれに気づかぬ戦神の信徒たちは、祈る手間が省けたと喜んだそうだ。
やがて、あれだけ屈強であった戦神の信徒たちは、とある戦いで盛大に敗れたそうだ。
屈強な肉体も、戦神から授かった武具も、全く役に立たなかったそうだ。
まるで信仰を失ってしまったようにも見えたという。
しかし祈りの言葉は、毎日隣町まで響いていたと報告が上がっている。
――それが戦神に向いていないのだと、鐘だけが大声で主張していた。
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叩くと音の代わりに、祈りの言葉を発する鐘。
人の役割を吞むため分類上は魔剣になるのだが、
武器として使われたことは一度もないと言う。
しかしその音には古い祈りの言葉が込められている。
その祈りは、戦神への祈りに似ている――と、伝わっている。
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