【天空王の槍】
天空王の槍が、人の手に渡ったという話がある。
これは、その一片の記録である。
【天空王の槍】
あらゆる学派が研究し、吟遊詩人が最初に覚え、神官たちが欠かさず祈りを捧げる神が居る。
天空王とだけ伝わるその存在。
かの者は雷の槍を携え空を駆ける戦神であり、弱きを助ける慈悲深い神であり、人の姿を借りて数々の伝承を残した英雄でもあるらしい。
神々は彼を様々な言葉で讃えるが、しかし最後には必ず「でも、死んでいるからな」と言葉を締めるそうだ。
古今東西の老若男女に、幅広く受け入れられている天空王は、知られていないことが殆どない。
どんな来歴で産まれ、どうしてそう呼ばれ、どのような場所で何をやったか。
そして、いつ死んだのかまで。
――そしてこれは、あくまでも噂だが。
神とは、語られることによって姿や性質を変える気質があるらしい。
程度の大小はあるらしいのだが、古い時代にその気質を誰よりも強く備えた一柱の神が居た……
そんな噂が、学者たちの間で密かに語られている。
星を見て羊飼いが星座を描いたように、理由などなくても噂は生まれる。
おそらくこれは、そういう類の話なのだろう。
天空王と呼ばれるその神は、幅広く世界に受け入れられている。
今日も新たに記録が作られる。
天空王がどう生きたのか。そして、どう死んだのか。
神々は天空王を殺していない。
ただ讃え、讃えさせただけだ。
その結果、不思議と彼は死んだことになっている。
そして彼が死んだとされる記録だけを、今日も更新している。
故に天空王は、確かに死んでいる。
今は、まだ。
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雷が槍の形になっている、と噂される黄金の槍。
来歴は不明であり、天空王の神殿にいつの間にか表れていた。
神々は迷い、この槍を神殿に飾ることにした。
新たな物語を生み出さぬために。
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この物語には、続きがある。
『王翼の歴史書』では、神話が静かに完結する。
『空の書』では、その裏側で新たな神話が生まれる。
興味があれば、手に取ってほしい。
もちろん、この物語だけで完結するのも良い。




