【偶像の槌】
【偶像の槌】
曰く、神とは頂くものらしい。
獣は言葉を話す事で人になり、言葉を操る事で群れとなった。
沈黙はやがて権威となり、権威を着飾ったものは王と呼ばれるものになるらしい。
しかし、神は言葉をしゃべらないそうだ。
それは、人は神に成れない警句だったのだろうか。
故に人々は、謙虚に神を頂いた。
神は問いに答えないが、ただ祈ることは誰にでもできた。
言葉を話せなくとも、言葉を操れなくても、権威を纏っていなくとも。
言葉を話さぬ謙虚な神は、しかし何より雄弁だった。
そんな折、人々は小さな噂を耳にした。
何でも、神というのは供物というものを求めるらしい。
それがあればより大きな恵みをくれるのだと、旅の者は言っていた。
話の意味は分からなかったが、人々はそんな物かと納得した。
そしてその日、皆で神に問うたのだ。
――あなた様は、供物があれば嬉しいのですか?
とある地域には、血生臭い邪教の伝承が残っている。
その土地では、人々が神に生け贄を捧げていたのだそうだ。
豊富な資源を持ち、豊かに暮らしていたその土地の人々は、しかし何時からか生け贄を求めて周囲の国へと侵攻する国家に変わっていた。
今は誰も残っていないその国で、石造りの偶像は静かに佇む。
神に至る祭壇には、鋭い刃を持つ槌だけが残されていた。
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振るうたびに重たくなる槌。
その刃は振るうたびに重さを増し、やがて誰にも持ち上げることができなくなる。
槌の重さは、最後まで沈黙を返し続けた。
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