ep6.アードン村のスタンピード
カイザーが、次の町への街道かいどうを目指して村を歩き始めた、その時でした。村の西側から、けたたましい非常ベルの音が鳴り響きました。
「勇者様! 大変です! スタンピードです! 森から大量の魔物が溢れて、村に向かっています!」
息を切らせた自警団のリーダーが、青ざめた顔でカイザーの前に立ちはだかりました。
カイザーは立ち止まりました。彼の表情に、焦りや「面倒だ」という感情は微塵みじんもありません。あるのは、最高の気分を邪魔されたことへの、絶対的な自信に裏打ちされた怒りだけです。
彼は、そのリーダーの肩を力強く掴つかみ、強い口調で断定しました。
「何を騒いでいる。俺様は勇者のカイザーだ! この村で、最高の飯を食ったばかりだ! 俺の最高の気分を台無しにする奴は、誰であろうと許さねぇ!」
そして、周囲のパニックに陥りかけている村人たちに向かって、つばを 吹き出しながら大声で断言しました。
「いいか、お前たち! 怯える必要はない! 問題は、俺様が解決するために存在する! 俺様は今から、奴らを叩き潰し、次の町へ行く! お前たちは、俺様を絶対的に信頼して、俺の背中についてくればいい!助けてやるよ、俺に任せろ!」
彼の言葉は、具体的でなくても、「俺が解決する」「絶対的に信頼しろ」という断定的な話し方により、人々の不安な心をねじ伏せ、強烈な頼りがいを生み出しました。
「勇者様が、任せろと……!」 「ああ、あの人なら本当にどうにかしてくれる!」
村人たちは、農具や粗末な武器を手に、カイザーの背後へと集まり始めました。
カイザーは、集まった村人たちの先頭に立ち、剣を抜き放ちました。彼が向かうのは、地響きと共に魔物が押し寄せてくる、村の西側の入口です。
そこには、おびただしい数のゴブリンとコボルトの群れ、そして群れを率いる中ボスクラスのオークジェネラルがいました。
「フッ、デカいのがいるな! だが、関係ねぇ! 俺様が今から、お前らに勇者の威厳ってやつを見せてやる!」
カイザーは、一歩も引かず、ただオークジェネラルの巨体を見上げ、堂々と構えました。
次の瞬間、スタンピードの先頭を走っていた魔物たちが、急に足並みを乱し、次々と転倒し始めました。カイザーの威圧感に怯えたわけではありません。オークジェネラルが、興奮しすぎて立ち止まった際に、群れの先頭が単純な衝突事故を起こしただけでした。
「グギャアア!」
スタンピードは、目の前で発生した群集事故により、完全に勢いを失い、混乱に陥りました。
カイザーは、この偶然の事故を、あたかも全て自分の計算通りであったかのように、大声で断言しました。
「見たか! 俺様が構えているだけで、奴らはビビって勝手にコケるんだ! 俺様に逆らう奴は、こうなる運命だ! 今だ、お前たち! 奴らが勝手に潰れたところを掃除しろ! 俺に任せろ!」
カイザーは、剣を一度も振るうことなく、倒れた魔物たちを指差しました。村人たちは、興奮と絶対的な信頼に突き動かされ、転倒した魔物たちに一斉に襲いかかりました。
オークジェネラルは、目の前の小さな人間の狂気じみた自信と、自らの群れが自滅した光景を見て、戦意を完全に喪失しました。これ以上の混乱は避けるべきだと判断したかのように、巨大なオークは一言も発さずに踵きびすを返し、森の奥へと逃げ去りました。
村人たちは歓声を上げ、カイザーを称たたえました。
「凄すぎる! 勇者様のおかげだ!」 「やっぱり、俺に任せろの一言は違う!」
カイザーは、満足げに剣を鞘に納めました。
「フッ、当然だ! 俺に任せておけば、世界は平和って話だ!」
彼は、一言もねぎらいの言葉をかけず、すぐに村人たちに背を向けました。
「じゃあな! 俺は用が済んだから、次の町で、うめぇ飯を探す!」
根拠のない自信と威勢の良さだけを携えて、カイザーは颯爽と次の町への街道を歩き始めました。




