表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺TUEEE(実はYOEEE)勇者だって言うんだから、そりゃあ勇者だろ。  作者: ささのは


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/8

ep4.アードン村の美味しいもの

カイザーは意気揚々とアードン村の門をくぐった。


「さて、まずは腹ごしらえだ。『月の雫』が置いてある店を探すか。」


彼の脳内には、バルカスたちから聞いた『絶品』という言葉だけがリフレインしていた。


村の中央通りを歩いていると、いい匂いが漂ってくる店があった。店の看板には、大きく『食堂:麦の穂』と書かれており、活気がありそうだ。


カイザーは、装飾過多な剣の柄をチラリと見せつけるようにして、店の戸を勢いよく開けた。


「よお、店主! アードン村に勇者様が美味しいってもんだから食べに来てやったぜ!」


店内にいた数組の客が、一斉にカイザーを見た。その派手な出で立ちと、剣の装飾から、すぐに『勇者』であると悟ったようだ。


「……え、勇者、様?こんな田舎にわざわざ」


レジで会計をしていた四十がらみの恰幅のいい男——この店の店主だろう——が、目を丸くして近づいてきた。


「ああ、そうだ。噂で聞いてな、ここアードン村には美味いものがたくさんあるって。特に『月の雫』ってやつを、俺様が味見してやろうと思ってな。」

カイザーは、テーブルにどかっと座り、ごうまんそうに胸を張った。


店主は一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに満面の笑みに変わった。


「おお、これはこれは、噂に名高き勇者様! 勇者様、こちらへどうぞ! 一番奥の、静かで日当たりのいい席へどうぞ!」


店主は周囲の客に頭を下げて謝りながら、カイザーを奥の席へと案内する。


「ありがとうございます、勇者様。この度はお立ち寄りいただき、光栄の極みでございます!」


「フン、まあいい。で、俺様に出す最高のメシは何だ?」


「は、はい! この村の、いえ、この店の自慢の品を、すべてお出しいたします! 正直に申し上げますと、この店のものは、勇者様のお口に合うかどうかわかりませんが、もしよろしければ……!」


店主は、カウンター越しに大声で厨房に指示を出した。


「おい、勇者様だ! 『月の雫』、特製ミートシチュー、それに森の実のタルトを急いで用意しろ! 今すぐだ!」


運ばれてきた料理を見て、カイザーは思わず声を上げた。


熱々のミートシチューは、大きな肉の塊がゴロゴロと入っており、見るからに濃厚だ。そして、噂の『月の雫』——美しい琥珀色をしたはちみつ酒は、グラスに注がれただけで、甘い香りをあたりに漂わせている。


「ほう……悪くないじゃないか。」

カイザーは、シチューを一口すくうと、その熱さに一瞬顔を顰ひそめたが、すぐに大きな口を開けて食べた。


そして、目を見開いた。

「う、美味い! 何だこれ! こんなに肉が柔らかくて、このソースは!?」


「お口に合いましたか! よかった!」店主が安堵の息を漏らす。


カイザーは、もう言葉もなく、夢中でシチューをかき込んだ。


次に、彼は『月の雫』を一口含んだ。蜂蜜の優しい甘さが舌全体に広がり、その後に、鼻から抜ける芳醇な香りが、今まで飲んだどんな酒よりも上品に感じられた。


「……こりゃ、ヤバいな。おいしい!」

カイザーは、店の奥の席にいるにも関わらず、思わず大声を出してしまった。


「ああ、これはとんでもないぞ! 皆に広めよう! このアードン村には、世界を救う勇者様も認める、最高の飯と酒があるってな!」


彼の言葉に、店の客たちは、それぞれのテーブルで顔を見合わせ、静かに喜んだ。勇者様が自分たちの村の特産品を褒めてくれたのだ。


すべてを食べ終え、口の周りにソースをつけながら満足げなカイザーに、店主は深々と頭を下げた。


「勇者様。お代の件ですが……勇者様からはお代はいただきません。どうか、この村の『おもてなし』だと思ってお受け取りください。」


「ホウ、いいのか。美味しかったぜ。」


傲岸な態度ではあったが、食事の美味しさで機嫌が最高潮に達していたカイザーは、店主に向かって満面の笑みを見せた。


「それにしても、こんなに美味いもんを出してくれるってのに、何か困ったことはねぇか?」


カイザーは、店の周囲を見回しながら、店主に問いかけた。


「なんでもいい。 こんなごちそうを頂いたんだ。俺様が、最高の気分でお前に恩を売ってやる。何かさせてくれ。」


店主は、困ったように頭を掻いた。

「困ったこと、でございますか……。そうですね、ありがたいお申し出なのですが、今のところは特に……」


「なんだ、遠慮すんなって。俺は勇者だぞ? 困りごと一つくらい、サッと片付けてやる。」


「そう言われましても……あ! 強いて言えば、うちの看板、文字が少し剥げてきておりまして。塗り直す時間がなくて困っているのですが……」


「看板の塗り直し? そんなことか。フッ、俺様の力を持ってすれば、たやすいことよ。」


カイザーは立ち上がると、剣を杖代わりにして、堂々と言い放った。


「いいだろう。俺様が、この店の看板を『勇者様の御墨付き』の看板にしてやる。待ってろ!」


そう言って、カイザーは店主に筆と塗料を要求した。看板を塗り直すなんて、どう考えても勇者の仕事ではないのだが、彼は最高の料理と酒を振る舞ってくれた店主に恩を売る絶好の機会だと考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ