ep3. 次のアードン村へ
こうして、何もしていないのに、最高の信頼を得たカイザーは、意気揚々と次の村へ向けて、世界を救う旅を続けた。彼の後ろには、彼に感激し、その旅に付き従おうとする冒険者たちがいた。
街道を進むカイザー一行。リーダーの戦士バルカスは、少しでも勇者様の邪魔にならないよう、緊張した面持ちで一歩後ろを歩いていた。他の二人の魔術師と弓使いも、この「勇者様の初陣の旅」に付き従えることに感動を隠せない様子だ。
しばらく歩いたところで、カイザーは突然、ぴたりと立ち止まった。
「ふむ。」
彼は、先ほど宮廷魔術師から渡された、やたらと立派な装飾の剣の柄に手をかけた。
「勇者様、どうなさいましたか?」バルカスが恐る恐る問いかける。
カイザーは、遠くの森を鋭い目つきで睨みつけ、フッと鼻で笑った。
「いや、なんでもねぇ。道中が暇だったんでな。」
カイザーはバルカスの方を向き直った。
「なあ、バルカス。お前たち、次の村に行ったことはあるか?」
「は、はい! 次の村、アードン村ですね。何度か依頼で立ち寄ったことがあります。」
「ホウ。」カイザーはあごに手を当てた。「アードン村か。前の村で聞いたんだが、アードン村は『月の雫』っていう、特別なはちみつ酒が美味しいらしいな。お前たち、飲んだことあるか?」
弓使いの女性冒険者が、興奮したように前に出た。
「あ、あります! あれは絶品です! 勇者様もお好きでしたか!」
「フッ、まあな。俺様は美味いモンには目がないんでな。」カイザーは得意げに笑った。「次は、その『月の雫』を味わうのも、世界を救う勇者の任務ってところか。」
「流石です! 民の生活をそこまで考えていらっしゃるなんて!」バルカスは感動した。
「ああ、そうか。次の村まで、もうすぐ着く頃合いか。」
カイザーは、村の入り口を示す小さな木製の標識が見える辺りで、ぴたりと立ち止まった。
「バルカス。お前たちとは、ここでお別れだ。」
「えっ!?」バルカスは驚いた。
カイザーは、真剣な眼差しをバルカスに向けた。
「俺は、この足で、民の信頼を直接勝ち取る。お前たちに頼って、俺の『勇者っぷり』が霞んじまうのは、世界にとっても損失だろ?」
彼は胸を張り、言葉を続けた。
「だが、お前たちの実力は認める。特に、お前の剣さばきはな。」
カイザーはバルカスの肩を力強く叩いた。
「だから、お前たちには、俺が安心して世界を救うために、王都周辺の治安維持を頼みたい。俺のいない間、この辺りを守れるのは、お前たちしかいねぇ。」
「は、はい! 勇者様からのご命令とあれば!」
「フッ、いい返事だ。よし、バルカス。これで最後だ。」
カイザーは、鞘に入ったままの剣をトントンと叩き、堂々と言い放った。
「いずれ、俺が魔王城に乗り込む時が来る。その時、お前が、そしてお前たちが、俺の命を預けるに足る戦力になっていることを期待しているぞ。」
カイザーは、指を一本立てて、笑った。
「その時は、必ずお前を呼ぶ。俺がいるんだから、魔王は絶対に倒せる。お前は、その最高の瞬間に立ち会う資格がある。」
「ま、魔王討伐に……私を!?」
バルカスは、感動ときょうがくで体が震えた。他の冒険者たちも、希望の眼差しをバルカスに向けた。勇者から直々に、世界の命運をかけた戦いへの参戦を約束されたのだ。
「そうだ。いいか、バルカス。俺を信用しろ。俺と一緒なら、お前もきっと、歴史に残る冒険者になれる。」
「……はいっ! 勇者様! このバルカス、必ずやその御期待に応えてみせます! 己の腕を磨き、その時をお待ちしております!」
カイザーは背を向けた。
「じゃあな。また会う日まで、しっかり働けよ。たんれんをおこたるな。」
そう言い放つと、カイザーは来た時と同じく堂々とした足取りで、次の村へと一人で歩き出した。
彼の後ろ姿を見送りながら、バルカスたちは顔を見合わせた。
「おい、聞いたか! 勇者様は、俺を、魔王討伐に呼んでくださるんだ!」
「すごい、バルカスさん……! 勇者様は、私たちが王都を守ることを望んでいらっしゃるんだわ!」
こうして、カイザーは、最高の戦力を仲間に加えずに、彼らを自らの忠実な信奉者として王都近郊に留まらせることに成功した。彼は『勇者としての信頼』と『絶対的な自信』という最高の武器だけを携え、次の村へと向かうのだった。




