ep2. 俺は王様に会う前に、世界を救う第一歩を踏み出す!
宮廷魔術師が深々と頭を下げるのを見て、カイザーは満足げに鼻を鳴らした。
「よし、話が早くて助かるぜ、爺さん。これで世界は安泰だな。フフン」
魔術師たちは彼の言葉一つ一つに、「やはり偉大な勇者様だ」と感動している。カイザーは、彼らが「一般人」というステータスに恐れを抱いたことなど、完全に忘れていた。いや、もしかしたら最初から気にしていないのかもしれない。
宮廷魔術師が顔を上げ、恐縮した様子で問いかけてきた。
「勇者様。まずは、この国の国王陛下へ謁見を。そして、今後の魔王討伐について、軍の幹部を交えて……」
「馬鹿野郎!」
カイザーは、宮廷魔術師の言葉を遮って大声を出した。魔術師たちはビクッと肩を震わせる。
「フッ、王様ぁ? 陛下ぁ? そんなもん、後回しでいいに決まってるだろ!」
カイザーは腕を組み、不敵な笑みを浮かべた。その態度には、王よりも自分の方が遥かに偉大だと信じ込んでいる迫力があった。
「世界を救うってのはな、まず足元からだ。いきなり魔王城に乗り込むなんてのは、三流のやることだろ? 俺は一流の勇者だぜ。まずは困っている人を助ける。そうやって民の信頼を得て、俺の勇者っぷりを証明していくんだ。」
「た、確かに! その通りでございます! 勇者様の仰る通り、まずは民を想うその慈悲深さこそが、真の勇者にふさわしい!」
宮廷魔術師は、まるで天才的な作戦を聞いたかのように感動し、メモを取り始めた。
「というわけで、俺はちょっと外に出てくる。この城の近くにあった、なんか寂れた感じの村があっただろ? あそこに行って、困っているやつを助けてやる。世界を救う第一歩ってやつだ。お前らは、俺の帰りを待ってろ。」
そう言い放つと、カイザーは魔術師たちの制止を振り切るように、来た時と同じく堂々とした足取りで王城を後にしようとしたところ先ほどの魔術師が剣をお忘れですとそそくさと剣をカイザーに渡した。
カイザーが訪れたのは、王都のすぐ外にある小さな農村だった。
村に入ると、すぐに顔を青くした数人の村人が、広場の前で右往左往していた。
「あ、あれを見ろ! ゴブリンだ! なぜこんな村に……!」
「どうしよう、衛兵も冒険者もいないぞ!」
村の入り口付近で、背の低い魔物――ゴブリンが、持っていた棍棒こんぼうを振り回しながら、家畜小屋の方へ向かっている。
カイザーはそれを見て、「おお、なんだ、あれか!」と目を輝かせた。まるで、テーマパークのアトラクションを見つけたかのような顔だ。
彼は、その派手な鎧と堂々とした態度で、一歩前に出た。
「心配するな、村人ども!」
その声は、広場に響き渡り、逃げようとしていた村人たちは、思わず足を止めてカイザーを見た。
「な、なんだ、あの派手な格好のやつは? 冒険者か?」
「いや、見たことないな……でも、すげぇ堂々としてるぞ!」
ゴブリンは、目の前に現れた、やたらと自己主張の強い鎧の男を見て、ギョロッとした目を向けた。
カイザーはニヤリと笑い、腰にぶら下げていた、飾り物のようにしか見えない剣を、鞘から抜きもせずに、ただ指差した。
「おい、そこのやつ。俺を誰だと思ってる? 世界を救いに来た勇者様だ。お前みたいな雑魚に、俺の獲物であるこの世界を荒らされてたまるか!」
彼は一歩も動かない。しかし、その声と態度の威圧感は尋常ではなかった。ただの一般人のステータスとは裏腹に、その自信は本物に見える。
ゴブリンは、その迫力に一瞬、動きが止まった。
(……すげぇ、あいつ、ただのゴブリンのくせに、俺にビビってやがる! やっぱり俺って、ただ者じゃねぇ!)
ゴブリンがひるんでいるまさにその時、森の奥から、数人の冒険者らしきグループが駆け込んできた。
「くそっ、間に合ったか!? ゴブリンを一匹確認!」
冒険者たちは、ゴブリンと、その前に仁王立ちしているカイザーを見たが、状況を把握するよりも早く、リーダー格の戦士がゴブリンに向かって突進した。
ズバァン!
鋭い剣閃一閃、ゴブリンは呆気なく地面に倒れた。
カイザーは、剣も抜かずに突っ立っていただけだ。
倒されたゴブリンを見て、村人たちは歓声を上げた。
「やった! 冒険者さん、ありがとう!」
「助かった! ああ、これで安心だ!」
冒険者たちが村人の感謝を受けている中、カイザーは倒れたゴブリンを鼻で笑い、そして冒険者たちの方へ振り向いた。
「フッ、お前たち、大丈夫か?」
カイザーは、今しがたモンスターを倒した冒険者たちに向かって、まるで自分が彼らを助けたかのように、偉そうに問いかけた。
「俺が、アイツの動きを止めてやったから、倒せたんだろう。感謝しろよ、命拾いしたな。こいつで最後だ。もう、こんな雑魚どもが、俺様のいる場所に来ることはないだろうよ。」
冒険者たちは、突然現れて何もしていない派手な男の態度に、ポカンとする。
「あ、あんたは一体……?」
リーダーの戦士が戸惑いながら尋ねる。
カイザーは胸を張り、得意げに答えた。
「俺は勇者だ! さてと、この村の『困っているやつぁこれで終わりか。次の場所へ行くとするか。」
カイザーは、冒険者たちが倒したゴブリンの残骸を一瞥し、鼻歌を歌いながら、悠然と次の村へと向かって歩き出した。
彼の後ろ姿を見送りながら、冒険者たちは顔を見合わせた。
「な、なんだ、あいつは……? 何て堂々としたやつなんだ。あの自信満々な態度と迫力……ゆうかんなるものでまさに勇者だ。……」
村人たちは、ゴブリンを倒した冒険者には感謝したが、なぜか、「勇者」と名乗ったカイザーの言葉の方が、説得力があるように感じていた。
(本当に、もう魔物は出てこないかもしれない……)
こうして、カイザーは何もせずに、王都近隣の村々に「勇者」としての奇妙な信頼を植え付け始めたのだった。




