ep1.俺が召喚された勇者!?
古都グランヴァニアの中心にそびえる、威容を誇る王城。その白亜の壁は観光名所としても有名だが、カイザーにとっては、単なる「デカい建物」でしかなかった。
「いや〜、さすが歴史の教科書にも載ってるだけあるわ。ま、俺ほどの男が入城してもかまわないってことだな。」
カイザーは城門の衛兵に堂々と「ちょっと中を見せてくれ」と声をかけ、半ば強引に、しかし不思議と誰も不審に思わない振る舞いで、堂々と城内へと足を踏み入れていた。
彼の服装は、観光客というよりは、今流行りの異世界ラノベに出てくる主人公のような、やたらと派手で自己主張の強いデザインの鎧、そして使い古された靴だ。
彼は好奇心に任せてふらふらと歩き回り、偶然にも厳重な扉の奥にある部屋へと迷い込んだ。そこは、円形の広大な空間。中央には複雑な魔法陣が描かれ、数人のローブを纏った魔術師たちが、炎が揺らめく中、何かを待つように立っている。
「おおっ、何だこの部屋。魔法使いみたいな格好してるやつがいるなぁ」
魔術師たちはカイザーの登場に驚き、一斉に彼に注目した。その中心にいた、ひときわ年老いた宮廷魔術師が、震える声でカイザーに尋ねた。
「貴殿は……! もしや、異世界より召喚されし勇者様でいらっしゃいますか!?」
城の魔術師たちは、数日前に起動させた召喚魔法が不発に終わったと諦めかけていたところだった。その時、突如として見慣れぬ服装の青年が現れた。彼らは、これを奇跡だと信じた。
カイザーは、一瞬の間だけ、その「勇者様」という響きに即座に「ぷしゅー、そうだ。」と唾を飛ばしながらいった。
胸を張り、誰もが息を呑むような迫力と威圧感をその短い返答に込めた。
「フッ…… そうだ。俺が、お前たちが呼び出した『勇者』だ。どうだ、これで世界は救われたも同然だろ?」
その、あまりに堂々とした、自信過剰を通り越して傲慢ですらある態度に、魔術師たちは逆に圧倒された。「やはり、ただ者ではない!」と。
「おお! ありがとうございます、勇者様! まずは、貴殿の能力を確認させてください。ステータス・ウィンドウを開きます!」
宮廷魔術師が魔法陣を指さすと、カイザーの目の前に、半透明の光の板が現れた。
名前: カイザー
種族 :人間(一般人)
職業: 無職(ステータスが読み取れない)
レベル : 1
HP 10/10
MP 5/5
筋力 20
耐久 15
魔力 0
俊敏 3
運 2
宮廷魔術師が困惑した顔で、光の板を指さしながら小声で囁いた。
「ゆ、勇者様……。申し訳ございません。この数値は、この世界の成人男性の平均を下回るもので……特に魔力0は、魔法が使えないことを示しており……『職業:一般人』というのも、今まで見たことがございません。といいますか、魔法が0の人間を見たことがございません。もしかすると無限大だということでは。おお、これは大変だ!」
周囲の魔術師たちも、期待と不安の入り混じった目でカイザーを見つめる。
この正直な現実の数値は、明らかに低いのにも関わらず、彼はそのステータス画面を覗き込むと、ニヤリと口角を上げ、周囲の魔術師たちをに堂々と一言忠告した。
「ぷしゅ、なんだ、中々凄い数値じゃねぇか、おれすげぇだろ!なるほどな。」
魔術師たちは顔を見合わせる。
「おお、堂々としていらっしゃる、勇者様を鑑定しようなどと無理な行為であったか。」
カイザーは胸を反らせて、声を張り上げた。彼の声には、ステータス画面の数値など、取るに足らないことを認識させる。
「フッ、お前たち、わかってねぇな。見かけの数字なんざ、どうでもいい。俺の力は、こんなしょぼい数値じゃ測れないってことだ。『職業:一般人』? いいや、違うね。俺が勇者だってことだ! 俺が信じられねぇのか?」
カイザーは、まるで自分のステータスが「最強」と書かれていたかのように振る舞い、そして、周囲の人間を巻き込む。
「おい、爺さん。 お前らの『平均』ってのは、俺の『最低ライン』だ。この数値で驚くようじゃ、魔王と戦うなんて夢のまた夢だろ? 俺がいなきゃ、この世界は一瞬で終わるってこと、よくわかったか?」
そう、彼は言った。そして、その表情、声の迫力、立ち振る舞いの全てが、「この男は、常識を超越した規格外の存在だ」と魔術師たちに錯覚させた。
「……そ、そうか! 申し訳ございません、勇者様! 凡人の浅知恵でした! 確かに、このような能力値で召喚されるなど、規格外としか言いようがありません! まさに奇跡の勇者!」
宮廷魔術師は興奮に顔を上気させ、深々と頭を下げた。他の魔術師たちも、安堵と希望の表情を浮かべ、カイザーに畏敬の念を抱き始めた。
(俺が勇者だったのか。)
唾を吐きながら「助けてやるよ、俺に任せろ。 さて、まずはどこから世界を救ってやろうか。この城の近くに村があったな。」
彼はそう言って、自信たっぷりに魔術師たちに問いかけた。




