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汚染

 彼女がようやくプラットフォームに足を踏み入れ、純粋理型の座の前に立った時、空間全体の光(もしそれが光と呼べるなら)が変化した。王座の後方に、巨大な、無限の回転する幾何学体と公理法則で構成された光輪が顕現した。光輪の中央で、一人の影が次第に鮮明になっていく。


 それは一人の女性で、絶美、完璧、非人だった。彼女の銀髪は凝固した星の滝のようで、瞳は純粋な蒼青色、あらゆる感情を含まず、ただ果てしない理性のみを宿している。彼女は古典的なローブに似た衣装をまとっているが、その「布地」は流動する法則と公理だった。


 彼女は理型の座の守座者であり、雪の少女の理性的側面が此の地に顕現したものだ。独立した個体というより、美玲の本体が「純粋イデア」という側面に投影された、あらゆる感性、偶然、そして人間的な特質を剥ぎ取られた、絶対的に自己完結した「女神の理」である。


「欠片よ、汝は遂に此処に辿り着いた。」守座者の声は氷晶の衝突のようで、澄み切って冷たい「汝の旅路は不要な冗長性に満ちている。汝が探すその存在、莉蓮の真実は、直接汝に授けることができる。」


 美玲の胸臓の鼓動が速まったが、彼女は警戒を保った「莉蓮がどこにいるか知っているのか?」


「彼女が何であるかは知っている。」守座者が手を上げ、空中に描いた。光が集まり、三つの絡み合う複雑な記号を形成する「彼女は愛であり、パラドックスであり、存在すべきでない存在の救世主である。」


 美玲は眉をひそめた「どういう意味だ?」


 守座者が最初の記号を指さした「彼女は雪の少女が最初に創造した生命体の一つであり、初誕の形の原型、『絆の源』である。彼女の本質は、繋がりであり、感情の絆であり、他者への深い思いやりだ。理論上、彼女は完璧である。」


 次に二つ目の記号を指さした「しかし、ある繰り返しの初期段階で、彼女は別の力に触れた。その力は他の原型から、更に妄執めいた愛から来るものだ。これが彼女の純粋性を汚染し、『自我』という妄執を生じさせ、単に『絆』の概念を実行する道具ではなく、独立した自由意志を持つ個体となることを渇望させた。」


 最後に三つ目、最も複雑な記号を指さした「更に決定的なのは、彼女の妄執の中に、一つの自滅的な矛盾命令が存在することだ。最も大切な存在と距離を保たねば、その大切なものを守ることができる。そして『絆の源』の本質に従えば、彼女が最も大切にする存在は、必然的に彼女の創造主、即ち雪の少女、あるいは雪の少女の分身である汝となる。彼女が救世主となり、汚染された原型たちを断ち切るまで。」


 美玲はショックを受けた、彼女は自身が覚醒した時、記憶の欠片の中にあった囁きを思い出した「必ず……『起源』との繋がりを断たねば……さもなければ、『彼女』が私を見つける……美玲も見つけてしまう……。」


 守座者は相変わらず波立たない声で続けた「この矛盾の起源は不明だ。雪の少女の干渉かもしれない、自身の錯誤かもしれない、或いは何らかの運命の設計かもしれない。その結果はこうだ、莉蓮が自身の宿命を断つまで、莉蓮が汝を珍重すればするほど、汝から離れなければならない。これもまた雪の少女が下した越えねばならない試練であり、さもなければ雪の少女は直接干渉し、一切を原初へと戻すだろう。」


「彼女は…危険な旅路についた?私を守るために?」美玲の声は震えた。


「正しい。莉蓮は今、物質界か知性界の何処かで、出会った仲間たちと共に自身の宿命を断とうとしているはずだ。」守座者はうなずいた「しかし問題はそれだけではない。彼女に纏わりつく『汚染』と矛盾が、彼女を危険な異常点と化している。彼女の存在そのものが、一つの亀裂のようなものだ。加えて、彼女が『初誕の形』としての力を失ったわけではない、ただ抑圧されているだけだ。その力は歪み、変異し、予測不能な結果を生み出しうる。」


 守座者が一歩前へ出て、蒼碧の眼差しを美玲に定めた「故に、純粋イデアの観点から、物質界・知性界全体の論理的安定を維持する観点から、至高の女神(雪の少女)がなしたように放任し、莉蓮とその仲間たちが汚染された原型を断ち切れると信じるよりも。最適解は、莉蓮を特定し、リセットすることだ。彼女の汚染された部分を消去し、矛盾を解消し、純粋な『絆の源』の原型へと回帰させる。これで全ての問題は解決する、論理の欠陥は補修され、脅威は除去され、そして彼女は、より完璧で、より安全な形で汝の『元へ帰る』ことができる。」


 美玲は一陣の寒気を覚えた。彼女は守座者の意味を理解した。「リセット」それはまるで一人の人格を削除し、自由意志のない道具へと戻すことのように聞こえた。


「いや。」美玲は固く首を振った「私が探しているのは莉蓮だ。血の通った、自らの喜怒哀楽を持つ莉蓮であって、リセットされた『完璧な機能』なんかじゃない!」


「感情論だ。」守座者の口調に初めて「不賛成」と解釈できる微かな波動が生じた「汝の感性が判断を曇らせている。汝が追い求める『莉蓮』こそが、誤りと苦痛の根源だ。リセットを受け入れよ。そうすれば汝は、永遠に忠実で、永遠に安定し、永遠に汝に寄り添う『莉蓮』を得られ、物質界と知性界はより安全になる。これは論理必然の選択である。」


 守座者が手を上げると、周囲の概念空間が凝固し始めた「我は『純粋理型共鳴』を起動する。これは汝を傷つけはしないが、一時的に汝の感性の干渉を剥離し、純粋な理性の視点でこの問題を見つめさせよう。理解した時、汝は我の案に同意するだろう。」


 美玲は抗し難い力が自らの存在に浸透し、意識を「整理」しようとし、「感情」「記憶」「執着」と呼ばれる部分を一時的に隔離しようとしているのを感じた。彼女は必死に抵抗したが、この絶対イデアの領域では、彼女の力はあまりにも個別的で、あまりにも不純に映る。


 彼女の意識が理性の奔流に飲み込まれようとした瞬間、手首の安寧の糸がかつてない温かな光を爆発させた。この光は強烈ではなく、紡ぎ庭の包容と万有理窟の複雑さを帯び、柔らかな障壁のように美玲の核心たる自我を包み込んだ。


 その瞬間、深く埋もれていた一つの記憶が、この極致の理性的圧力によって、逆に深海の真珠のように美玲の意識の表面に浮上した……。

 彼女と莉蓮の日常の記憶ではない。

 それは……もっと古い、雪の少女の本体に属する記憶の欠片だった。

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