⑨ 風雲肘谷城
段々と暖かい日が増えてきて、家の庭のハクレンの花も、八分咲き位迄開花して参りました!
さて、今回のお話は、少し短めなんですが…
内容はギューッと詰まっておりますので…
では、最後まで宜しくお付き合い下さいます様に…
政重様は筋骨隆々の白毛馬「早奴」に、道鎮殿は焦茶色でバネの有りそうな弾む馬体の「北斗王」に、私は漆黒の馬体の「千代王」に跨がり、談笑しながらゆっくりと肘谷城に向かっていた…
栗崎城から肘谷城迄は目と鼻の先程なのだが…
何故か三人共、馬に乗って行こう!と言う事になり、肘谷城の近く迄やって来た…
正にその時、刀と刀が激しくぶつかり合う音…
そして、馬が激しく嘶いているのが聞こえてきた…
「北斗王」と「千代王」が立ち上がって嘶いた!
三人は目を見合わせた…
「まさか?!」と政重様が言うと…
「多賀谷の奴等が?!」と道鎮殿が…
「急ぎましょう!!」と私が言うや否や…
三人は慌てて馬を走らせた!
肘谷城に着くと、小治郎殿達と白井全洞達の激しい戦闘が繰り広げられていた!
「おのれぇっ、白井全洞めえっ!!」と道鎮殿が馬上で太刀を抜いて勢い良く加勢に入って行った!
「小治郎、大事無いか?!」と政重様が続いた!
「小治郎殿っ!!」私も負けじと続いた…
「おぉっ、道鎮、政重様、重兵衛殿っ!」
「小治郎っ、無事かっ?!」
「はいっ!」
「よぉし、白井全洞っ!我こそは石毛城主、石毛政重なりぃっ!!不意打ちとは武士の風上にも置けぬ奴等めぇっ!武士なら武士らしく、正々堂々と掛かって来んかいっ!!」
白馬「早奴」の馬上で、政重様の啖呵がかっこ良く決まった!
その瞬間、三人共馬に乗ったまま、白井全洞と思しき武将目掛けて突進して行った!
「退けぇーっ!退くのじゃぁーっ!!」
白井全洞以下約100名程の軍勢は、私達3人の気迫に押されたのか撤退し始めた!
私は千代王に跨がって白井全洞らしき武将に、あと一歩の処迄迫ったが…
一太刀浴びせる迄には至らなかった…
「おのれぇっ、卑怯者めがぁっ!」
私達は深追いせずに肘谷城に戻った…
「小治郎、大事無いか?」
「政重様、道鎮、重兵衛殿、危ない処をかたじけのう存じます!」
「うむ、気にするな小治郎。其の方等も大事無いかぁっ?!」
「はぁっ!」「ははぁっ!」「はぁっ!」「はあっ!」
「うんうん、其にしても御主等っ、良くぞ持ち堪えてくれたなっ!礼を申すぞっ!!」
「ははぁっ!」「勿体無き御言葉っ!」「有難いっ!」「政重様っ!」
「うんうん、肘谷の皆の衆っ!城の修復等、大儀であろうが、抜かり無く頼むぞっ!肘谷の地は下妻の喉元っ!当家にとって最も重要な地の一つっ!皆の衆の力が頼りじゃっ!しっかりと頼むぞっ!」
「ははぁっ!」「はあっ!」「お任せをっ!」
「ははぁっ!」
「うむ、小治郎、ちと御主に話があるのじゃ、邪魔するぜ。」
「はあっ!」
私達は屋敷の一番奥の間に入った…
上座に政重様がどっかりと着座し、其の正面に小治郎殿が、其の左に道鎮殿が、そして其の右に私が着座した…
「小治郎、重兵衛から聞いたぞ!甲斐で透破をしておったそうじゃな?」
「はぁっ、隠すつもりは御座いませんでしたが…」
「なぁに、小治郎よ、責めているのではない!ただ、御主の其の能力、当家の為に存分に発揮して欲しいのじゃ!」
「はぁっ、元より、其の所存に御座います!」
「聞けば、鬼美濃こと、原虎胤殿に手解きを受けたとか?」
「はぁっ、訳あって虎胤様は信玄公に破門され申した。其の際に、某も下総へ戻って両親や領主様に恩返しをしろ!と諭され、此方へ舞い戻って参った次第に御座ります。」
「うむ。」
「そして、此方では、原外記様に骨を折って頂き、晴れて某も、治親様の臣下に加えて頂けた次第に御座います!」
「うむ。」
「偶然とは申せ、某、二人の「原様」に其々、御恩を受け候いますれば、甲斐の原虎胤様に御返し出来なかった御恩は、吉沼の原外記様を御守りする事で御恩返しとさせて頂く所存に御座ります。」
「良くぞ申してくれた!小治郎、この後、吉沼に、多賀谷の奴等が攻め込んで参るのは、重兵衛に聞いておろう?」
「はい!」
「存分に恩返しをしてくれよ!」
「はぁっ!」
「うむ。頼んだぜ、小治郎!」
「快く臣下に加えて下さった治親様の御為、此度の窮地を救って下さった政重様の御為、某、命に代えても外記様・与五郎様を御守り致す所存に御座います!」
「うむ、頼もしき奴!しかし…鬼美濃殿は厳しかったであろう?」
「はい!手解きは厳しく躾られ申した!しかし、同じ下総の出と言うことで、大層気に掛けても頂き申した!」
「左様か?…のう、道鎮…鬼美濃こと、原虎胤殿の話でも聞きながら一杯やりたい処じゃのう?!」
「政重様…また、そのような…真っ昼間から…多賀谷を倒す迄は…と、あれ程、御約束致したでは御座らぬか?!」
「ん?!あっ…そうじゃそうじゃ、そうであったわ、わっはっはっはっはっ…そう言う訳じゃ…小治郎、城の修繕と準備…しっかりとな!」
「ははぁっ!」
私達三人は、其々の馬の背に跨がり、肘谷城を後にした…
「しかし、重兵衛、見事であったな?」と政重様。
「あと一歩の処迄、白井全洞を追い込みより申したな!」と道鎮殿。
「無…無我夢中に御座いました…」
「この中では一番小柄なはずの千代王が、重兵衛が背に乗ると、何故か一番大きく見えるのう?」
「真…、太刀を片手に千代王と共に、白井全洞目掛けて突進して行く其の姿は…まるで…龍に股がった雷神様の如しに御座った!」
「そ…其の様な…」
「見事な初陣であった、重兵衛!」
「おおっ…そう言えば…そうで御座いまするな…そうじゃ!そうじゃ!そう言う事に成りまするな?!初陣おめでとう!重兵衛!」
「あ…ありがとう…ぞ…存じます…」
私の手はブルブル震えていた…
(私は…この…太刀で…人を斬ろうとして居たのか…)
(本気で…この…太刀で…人を殺そうとして居たのか…)
(私は侍…私は武士…)
(私は…第二十代豊田三万国当主豊田治親様の家臣…)
(永田重兵衛常充…今は…戦国時代…)
政重様がニヤリと笑って言った…
「重兵衛、其が武者震いと申すもの…真の侍になったと言うことじゃ!」
「ふ…震えが…と…止まりま…せぬ…」
私は狼狽えた…
「皆そうじゃ!初陣とはそう言うものじゃ!」
「重兵衛、城に着いたら褒美を遣わす!楽しみにしておれ。」
「は…はぁっ…」
私は未だガタガタ震えていた…
一方、多賀谷城内では、白井全洞殿が多賀谷政経様に呼び出されていた…
「全洞、どうじゃ?肘谷の小治郎は…未だ…当家に寝返らんのか?」
「はい、恐れながら申し上げます。本日、不意討ちを喰らわせ、力ずくで降伏させようと試みましたらば、とんだ邪魔が入りまして…」
「何…とんだ邪魔とな?」
「はい、石毛城主石毛政重殿、原家家臣飯岡道鎮殿、そして…重兵衛とか申す者…先日…吉沼に…龍に股がった雷神が舞い降りた…と言う噂を小耳に挟みましたが…真にあの者…単騎…某に…迫り来る…其の時の…其の様足るや…まるで…龍に股がりし…雷神の如き…凄まじさにて…危うく某…一太刀…浴びせられる処に…御座いました…」
「何と?!龍に跨がりし…雷神の如し…とな?」
「はあっ!某…あの様な…異様な殺気を纏った者…生まれてこの方…見たことが御座りませぬ…まるで…この世の者とも思えぬ…殺気を纏って…まるで…雷神が…迫り来るが…如し…」
「うむむ…まさか…」
「殿!何か御存知なので御座いますか?!」
「うむ…その昔…父・重政より、聞いた話なのだが…
今から五百年程前の康平と言う時代の話じゃ…豊田家の宗祖・豊田四郎将基殿は八幡太郎様と共に一族郷党を率いて奥州安倍氏討伐に向かったそうじゃ…
衣川の手前で激闘になったそうじゃが、安倍一族の結束は堅く、容易には川を越えて敵陣に迄は入れなんだそうじゃ…
そうこうして居るうちに、嵐となりて、河水満漲と相成り、両軍とも身動きがとれず、暫し休戦状態と成ったとか…
将基殿が甚だ悩んで居ったその時、突然、旗印の神竜が旗より勢い良く飛び出し、その巨体を岸から向こう岸迄、横たえて見せたとか…
(これぞ神意!)と将基殿率いる豊田勢は一気に向こう岸迄、竜の橋を渡りきり、其の勢いに乗って安倍氏の堅陣を壊滅せしめたそうじゃ…
安倍頼時、貞任、宗任を討ち捕って凱旋した豊田四郎将基殿を八幡太郎様は大層お褒めになり、今の豊田の地をお与えになったと言う話じゃが…
気になるのは…将基殿達の勝利を見届けた其の神竜が、旗に戻る前に将基殿に言った言葉じゃ…
(五百年程後、豊田家窮地の際には必ず、天より龍に乗った雷神の遣いが舞い降り、某を起こしに参るであろう。其までこの神旗、金村別雷神宮内にて大切に保管しておくのじゃ!)…とな。
その神竜の宿る豊田勢の軍旗は[蟠龍旗]と呼ばれ、今も金村別雷神宮内に奉納されて居り、戦の時には必ず、豊田勢は金村別雷神宮に参集し、その神旗[蟠龍旗]と共に出陣致すそうじゃ…」
「と…豊田家と…龍と…雷神に…其の様な…伝説が…」
「全洞、其の重兵衛とか申す侍…気になる…調べてみよ!」
「ははぁっ!」
多賀谷政経は一人で、稲光が走る曇り空を見上げながら、ぼんやりと考えていた…
(重兵衛とか申す侍…まさか…天より舞い降りし雷神の遣いなのか…?)
(いや…まさか…其の様な事…有り得る筈が無いではないか!)
(いや…しかし…今が…正に…其の…五百年程後の世なのでは…?)
(まさか?…其の様な事が…)
その時、天空に大きな稲妻が駆け抜け、多賀谷城内に地鳴りの様な雷鳴が轟いた…
(まさか?!)
如何でしたでしょうか?
「蟠龍旗」に纏わる伝説が、敵キャラの多賀谷政経殿と白井全洞殿との会話の中で明かされていましたね…
これから彼等との長い戦いが始まろうとしておりますが…
因みに…今回の夢の妄想キャスティングでは…
多賀谷政経…寺島進
白井全洞…片岡鶴太郎
(以上敬称略)
なぁんて想像しながら執筆致して居りました…
皆さんの御意見も是非聞かせてくださいね!
それでは今宵は此処までにしとう存じます…
次回もどうぞ御期待下さい!




