⑧ 肘谷小治郎殿
えー、今回は…肘谷小治郎殿のお話なんですが…
勝手に透破上がりにしてしまいました…
歴史上、其の様なことは一切書かれておりませぬが
…勝手な思い込みと…今後も一緒に活躍していただく予定なのと…でそうさせていただきました…
因みに透破とは忍者の事らしいです。
知ったかぶりをして、どうもすいませーん!
翌朝、私は小治郎殿の処へ向かった…
先日、初めて御会いした時から凄く気になっていた御方だ!
実は昨日、常楽寺様と剣の稽古を終えた後、ある確信めいた事が頭を過り、下妻隣接の六人衆の多賀谷への寝返りを心配する必要は…私の中では無くなっていたのだ…
では何故、肘谷小治郎殿を訪ねるのか?
常楽寺様に言ってしまった手前もあるが、どうしても気になる御人だから会いに来たのである。
私の予想通り肘谷城に着く前に小治郎殿は現れた。
相変わらず鋭い眼光で私を見つめながら…
「このところ、常楽寺様の処へ参っていると聞いていたが、今日は某の処へ参ると聞いて待って居った!」
「それは失礼を致しました!」
私は頭を下げた…
今日は徒歩で、千代王は栗崎城に置いて来ていた。
「よくぞ来てくれた!先ずは屋敷の中へ…」
「はい!」
肘谷城は小さめながらも四方が堀に囲まれていて天然の要害となっていた。
馬が二頭居て私が近付くと立ち上がって嘶いた…
「御主を歓迎して居る様じゃ!」
と言って小治郎殿はニヤリと笑った…
「そ…そうですかね?!」
私は後退りした…
「さぁ、中へ!」
「はい。」
私達は屋敷の中へ入って行った…
「こんなものしか無いが…」
と言って小治郎殿は、うこぎのお茶を一杯出してくれた…
「有り難う御座います!」
と言って私は一口戴いた…
「重兵衛殿、御主のことは道鎮から伺っておるぞ!」
「侍としては、まだまだの未熟者で御座います。」
「其の様な戯れ言を言いに来たのではないであろう?」
「はぁ…」
「何か某に申したき儀が有るのでは御座らんか?」
「はあ…実は某、先日、小治郎殿に初めて御会いして以来…何と申しますか…貴方と常楽寺様は…何と言いますか…この下妻多賀谷の敵陣に面した最も危険な地域に御住まいにも拘わらず、何と泰然自若となさられているのだろうと感服いたして居りました…右京殿や四ヵ村の方々は、少し怯えている様にも某、お見受け致しましたが…」
「良く観察しておるな…実は…某と常楽寺様は透破上がりでな…余程の事が無い限り動揺などせぬ。」
「左様で御座いましたか…それで合点が行き申した!先日の小治郎殿の馬に跨がる時の身のこなし…そして昨日の常楽寺殿の目を瞑ったまま、木刀で手裏剣の雨を避ける様子等は並の侍には到底出来ぬ事…この重兵衛、感服致しまして御座います!」
「手裏剣の雨だと?!白井全洞の手の者が未だ常楽寺様を…」
「はい、しかし、見事なものでした常楽寺様の太刀捌きは…」
「しかし、一度だけしくじって、右腕に大怪我をされた事があるのじゃ!」
「はい、傷痕を見せていただきました…。」
「あ奴等、未だに常楽寺様だけを…何故…」
「恐らく常楽寺様を寝返らせようとしているのかと?」
「そうだな、あの方は相当強い御人じゃ!並大抵の事には動じない、しかも忠義心の強い御方だ、まず多賀谷に寝返る等、有り得ぬ事と奴等も承知の上での嫌がらせ…許せん…」
「はい…ところで、小治郎殿の御屋敷は最近どうですか?多賀谷からの嫌がらせ等は?」
「うむ、、このところは穏やかなもので薄気味悪い程じゃ…だが…きっと何か企んでいるに相違ない…」
「某も其の様に考えて居ります。」
「時に、重兵衛殿、御主、真に…四百七十年後の世から参ったのか?」
「はい、左様に御座いますが…」
「ならば、少しは、この後、この地で、何が起こるのか見透すことは出来んのか?」
「はい、解る事と…解らぬ事が御座います!」
「解ることと…解らぬ事が…」
「はい、解ることと言えば…必ず多賀谷が攻めて参ります…そして、やはり…何名かは多賀谷方に寝返る可能性が高いです…が、其れが何方なのかは某には解りませぬ!」
「状況は我等にとって不利なのか?」
「いいえ、決して其の様な事は御座いません!某、470年後の世で、相当この地の歴史を調べて参りました!が、対多賀谷との戦で、豊田方が負けた事は唯の一度も御座いませぬ!」
「うむ、では何故、寝返る者が出るのじゃ?」
「はい、多賀谷は豊田と何度戦っても勝てなかったので、和睦をしては隙を見て、下妻近郊の豊田侍の切り崩しを図り、逆襲の機を窺っていたようです…かなり悪どい、卑劣な手段を用いて、皆さんを陥れていったようです…」
「ふん、白井全洞のやりそうなことよ!」
「左様、あの方が恐ろしい謀略を持って豊田領に侵略して参る模様です!」
「お主は何か策でも有るのか?」
「はぁ…策と言うか…歴史上…先ず…奴等が攻め込んで来るのは…吉沼に御座ります!」
「何っ?!吉沼じゃとぉっ?!」
「この戦いがどうなったのかは…史実では定かでは御座らぬ…」
私は嘘をついた…(すまん、小治郎殿…許してくれ!)
「ふむ…」
「ただ…この戦いの後、多賀谷の勢いが増した模様…従って、この戦で完膚無き迄に多賀谷を打ち負かす事が何より肝要かと存じます!」
「なるほど…」
「どうか、吉沼の戦いに小治郎殿、右京殿、常楽寺様の御助勢を賜りたく、本日、お願いに参上仕った次第に御座います!」
「そうか、そういう事であったか?!これで全ての辻褄が合ったぞ!重兵衛殿!!無論、喜んで助太刀いたす!」
「有り難う御座います!」
「某と道鎮は竹馬の誼じゃ、見殺しに等出来ぬ!…して、いつ頃、多賀谷の軍勢が吉沼に攻めて参るのじゃ?!」
「はい、恐らく、ここ1~2年の間には栗崎城に攻め込んで参るのかと!」
「よし、1~2年有るのじゃな?」
「はい、ただ、その間、此方が待ち受けていることを敵に悟られては為りませぬ!」
「うむ、そうじゃな!」
「この事を知っているのは政重様と道鎮殿と某と小治郎殿、この四人だけに御座ります!本当は三人だけの秘密で御座ったが、某の一存で小治郎殿には知っておいて頂き、御助勢を賜りたいと思いました!」
「うむ…しかし、常楽寺様にも話さなかった事を何故、某には話したのじゃ?」
「はい、実は迷ったのですが、小治郎殿、貴方は右京殿や常楽寺様とは非常に懇意、しかも、道鎮殿とは竹馬の間柄…そんな小治郎殿にも我々と志を共にして頂きたいと思いました。」
「そうか…相解った!重兵衛殿、吉沼を守ると言う事は…豊田の殿様の為にもなるな?」
「はい、ここで、多賀谷を叩いておくと、この先、豊田家にとって、良い方向に風向きが変わって行くのかと!」
「よし、某は、透破上がりと申したな。某、親と反りが合わず喧嘩ばかりしておってな、ある日、家を出て浪々の日々を過ごして居ったのじゃ。流れ着いた先が甲州じゃった…甲斐の信玄公の御家臣で原美濃守虎胤様と言う方が居ってな、某は、そこで透破としての手解きを受けたのじゃ。じゃが、虎胤様には宗教上の問題があってな、甲州法度之次第に抵触してしまい、信玄公に追放されてしまったのじゃ…その時、某も(お前も、そろそろ下総へ帰り、親の為に尽くせ!)と諭され、去年の暮れに、虎胤様の元を離れ、ここ肘谷に舞い戻ったのじゃ。以来、吉沼の原外記様に非常に良くしてもらってな、豊田の殿様にも家臣団に加えて頂けるよう骨を折って下さったのも原外記様じゃった!偶然とは申せ、二度迄も某は、【原様】に救われた事になる…甲斐で原虎胤様に受けた恩は、この下総で原外記様を御守りすることで御返しすることに決めた!!」
「御意、ただ…一つ御約束して頂きたい事が…」
「判って居る!他言無用じゃな?!」
「はい、呉々も!! 小治郎殿を同志に迎えた事、政重様と道鎮殿には某の方から御伝え致します。」
「宜しく頼む!何か気合いが入って来たぞ!!」
「より一層、白井全洞達の動きの探索をお願い致します!」
「おう!任せてくれ!!」
私は小治郎殿の両手を取ってガッチリ握手した、小治郎殿も両手でガッチリと応えてくれた!
私を見る小治郎殿の目はキラキラと輝いて見えた。
栗崎城に戻ると政重様と道鎮殿が談笑していた。
私は片膝を着いて政重様に挨拶した。
「おはようございます、政重様!」
「おう!重兵衛、朝早うから大儀であった!小治郎は変わりないか?」
「はい、ただ…」
「ただ何じゃ?申してみよ!」
「はい、多賀谷による吉沼侵略の件、小治郎殿に話しました。」
「何っ?あれ程…他言無用と申したではないか?」
「はぁっ、恐れながら申し上げます!小治郎殿の能力、頭抜けております!あの方は絶対に敵に回しては為りませぬ!」
「御主程の能力を持つ者が何を申すか?!」
「小治郎殿の能力、某と遜色御座いませぬ!いや、某以上やも知れませぬ!」
「そ…それは真か?!」
「はい、小治郎殿は昨年暮れに此方へ戻られる迄は、甲斐の国に居られました。」
「何っ?甲斐じゃと?!」
「はぁっ、甲斐の武田信玄様の御家来衆の中に鬼美濃と恐れられている原美濃守虎胤様と言う猛将が居られます。小治郎殿は、そちらで透破の手解きを受けていたそうに御座います!」
「な…何じゃとぉっ?!鬼美濃殿の下で透破をしていたと申すか?!小治郎が?」
「はあっ、小治郎殿の身の軽さ、素早さ…尋常為らざるを…某、この目でしかと見定めて居ります!」
「うむむ…解った…重兵衛、小治郎の件は御主に任せた!…しかし…小治郎に一体どこまで話したのじゃ?」
「はぁっ、吉沼の戦いのみに御座います!」
「それ以外は話してないのじゃな?」
「はい…某…諸々の事…良く良く考えますれば…吉沼の戦いにさえ勝利致せば、下妻近郊の六人衆は、恐らく、多賀谷方に寝返る心配は無くなるのかと!」
「な…何じゃとぉっ?!御主…六人が六人…皆寝返ると申したではないか?」
「はぁっ、恐れながら申し上げます!史実では其の様になっておりますが、某、このところ連日、常楽寺様・小治郎殿と御会いさせて頂き、殿への忠義心、実に強固、とても多賀谷に寝返る様な方々では御座いませぬ!そして、ふっと思い当たったのです!あれは…多賀谷による吉沼への侵略が、あまりにも凄惨なものであったからなのではないかと…それを見せつけられた北部・四ヵ村の六人衆は、白井全洞に執拗に脅されて、仕方無く多賀谷の軍門に…多賀谷による凄惨を極めた吉沼侵略は、実は、北部・四ヵ村六人衆を戦わずして多賀谷方に寝返らせる為の、白井全洞による卑劣極まりない一手だったのです…」
「おのれぇ…白井全洞…許さぬ…」
「まぁ、待て、道鎮…重兵衛、御主の申した事信じて良いのだな?」
「はあっ!従いまして、吉沼の戦いにて、多賀谷を完膚無き迄に叩きのめす事が、これ即ち、豊田家の命運を切り開く最上の策と存じます!有能な御家来衆の多賀谷への流出を防ぐと共に、御家中の結束も、より強固なものとなりましょう!…ただ…」
「ただ何じゃ?重兵衛!」
「はい、先日申し上げました通り…」
「代償じゃな?」
「はい、史実では吉沼の方々が多数、亡くなっております…」
「道鎮と原親子もだったな?」
「某なら、この命、喜んで差し出しまする!されど、外記様と与五郎様だけは何卒…」
「道鎮、御主も死なせやしねぇぞ!重兵衛、如何いたす?」
「この戦で先ず、第一に為すべきは、原外記様・与五郎様親子と道鎮殿の御命を守ること!それには戦に勝てば良いのです。そして何よりも肝心な事は…その代償として、治親様と政重様が御命を落とす様な事の無き様にする事で御座います!」
「御主、何か策は有るのか?」
「はい、治親様と政重様には、この戦に参戦しないで頂きます!」
「何?わしもか?!」
「はい、しかし、向石毛城、石毛城、豊田城、長峰城の其々の城内では出陣の御用意だけは御願い致します!」
「出陣の用意とな?」
「はあっ、小治郎殿が日夜、白井全洞達の動きを探ってくれております。何かあり次第直ぐ、某に知らせていただく手筈となっております。知らせを受けたら直ぐに吉沼から豊田城へ伝令が走ります。他城へも速やかに伝令が走る手筈となっております。伝令が到着次第、速やかに出陣の支度を御願い致します。但し、迎え撃つ準備だけで結構で御座います。吉沼で共に戦っていただくのは、吉沼城の御家中の皆様、後詰めで肘谷小治郎様御一党、唐崎修理様御一党、伊古立掃部様御一党、合わせて総勢およそ350名。下栗常楽寺様、袋畑右京様、長萱大炊様には西からの多賀谷勢の侵略を抑えていただきます。治親様、政重様、武蔵野守様、長峰城の方々には、万が一の時の為に出陣の支度を御願い申し上げます。そして、その各御城主様、御城代様には、其々三名ずつ護衛兵を付けて頂きます!!」
「うむ、解った!しかし、重兵衛…御主も死んではならぬぞ!」
「はあっ、某は、道鎮殿に守って頂きます故、大丈夫に御座ります!」
「ほざきよったな、重兵衛?!」
「わっはっはっはっは…」「わっはっはっはっは…」
三人で顔を見合わせて笑った…
そこへ、私の奥さんと与五郎様が、竹馬に乗って現れた。
「まぁ、皆さん楽しそうですね!」
「重兵衛の奥方と与五郎殿か?!二人は仲が良いなぁ?」
「こんにちは政重様!」
「こら…ママ、無礼だぞ!」
「良い良い、御主の奥方は元気があって良いな!」
すると笑いながら道鎮殿が言った…
「薙刀の名手で御座る!」
「ほほう、頼もしいのう?有希子と申したか?与五郎殿を頼むぞ!」
「はい!」と奥さんが真面目に答えると…
「政重様、某が有希子を守ります!」と与五郎様。
「おお、与五郎殿、頼りにしておりますぞ!」
「はい!」
と与五郎様が真面目に答えたので一同皆で笑った…
「パパ、すっかり、この時代の御侍になったわね?」
「ママも馴染んでるね?」
「与五郎様、可愛いわ、ユウちゃんの小さい頃に何か似てるの。」
「うん、何となく御顔立ちがユウキに似てるね!」
すると、政重様が立ち上がって言った…
「有希子殿、わし達は、これから肘谷城に行って参る故…薙刀で留守を頼むぞ!」
「はい!お任せ下さい!!」
と奥さんが力強く答えたので、一同また大いに笑ったのだった…
私はこの時、(この愛すべき方々を何としても御守り致します!)と天に向かって誓った…
天空には、いつしか雲が立ち込めて来ていて、稲光が見えた…
その時、私は、身体の中に何か不思議な力が入り込んで来た様な気がして身震いをした…
「どうした重兵衛?参るぞ!」
と、道鎮殿に言われたので、私は慌てて千代王に飛び乗った…
肘谷の小治郎殿…如何でしたでしょうか?
もう恒例の?私の夢の妄想キャスティングでは…
肘谷小治郎…中村獅童
なぁんて妄想しながら執筆致して居りました…
皆さんの小治郎殿のイメージは何方だったのでしょうか?
宜しかったら教えて下さいね?!
其では今宵は此処までにしとう存じます…
風雲急を告げる…続きは、また次回に!




