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つぐみ龍の伝説  作者: 永田常雄


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7/9

⑦ 下栗常楽寺殿

 2月に入り、関東でも雪が降ったりして、寒い日が続いておりましたが、皆様、風邪など引いておりませんか?

 さて、今宵は、下栗常楽寺殿との交流を描いて参りたいと存じます!

どうか最後までお付き合い下さいますように…

 翌朝…私は早速、愛馬「千代王(ちよのおう)」に跨がって下栗城を訪ねた…

ノーアポなので常楽寺様が居るかどうかは不明である…

 私が千代王から降りると馬廻りの方がやって来た…

「某は、吉沼の原家の居候、永田重兵衛常充と申します!お約束は致して居りませぬが、常楽寺様に是非とも御目通り願いたいと存じまする!」と言って頭を下げた。

 すると直ぐに常楽寺様が出て来てくれた…

「おぉっ、これは重兵衛殿っ!良く参られたな…さぁ、上がってくれ!」

「はあっ、有り難う御座います!」

私は深々と頭を下げてから、常楽寺様に促されて御屋敷の中へと入って行った…


 「さぁ、座ってくれ重兵衛殿!」

「はぁっ。」私は腰を下ろした…

小さな平城だが、どこか風情が有って、それでいて寛げる空気がある…

今、目の前に座っている、常楽寺様の雰囲気そのままの御屋敷である。

「…して重兵衛殿、本日はどのような赴きかな?」

「はい、某…先日、常楽寺様と初めて御会い致し…当家では一番…宿敵の下妻多賀谷の領地に隣接している土地に御住まいであるにも拘わらず、何と泰然自若な御方なのかと…感服致しまして御座います…就きましては、この重兵衛、是非とも常楽寺様と御近づきにさせて戴きたく、この様に御無礼を承知で罷り越しました次第に御座います!」

「何を申されるかと思えば重兵衛殿…わしは、ほれ、この通り…能天気なだけじゃ!わっはっはっはっは…わしの方こそ御主の様な…四百七十年も後の世を知る御方と近づきになれるとは思っても居らんかったわい、のう、重兵衛殿?!」

「はぁ…某…この戦国乱世の世では…未だ未だ…右も左も解らぬ迷い子の様な者にて…常楽寺様の様な歴戦の強者に…いろいろ教えを乞いたいと存じまする!」

「わっはっはっはっは…其の様な事は道鎮殿にいろいろと教わって居ろうが…のう、重兵衛殿?…

わしゃ…出来る事なら…戦など…しとうはないのじゃ…だが、当家は代々、豊田家に味方して来た家柄…豊田・石毛が小田の御館様に与している以上は、当家も又、小田の氏治様に与する他に道は御座らぬ…従って、此処、下栗が、どんなに下妻に隣接して居ようとも、この常楽寺が多賀谷に与する事など…有り様も無い事…心配するには及ばぬぞ!重兵衛殿。」

「ははぁっ!恐れ入りまして御座います!流石、常楽寺様!この重兵衛の心中、最初から見抜いて居られたのですね?!」

「いやいや…当てずっぽうじゃよ重兵衛殿…ちと…鎌を描けてみたのじゃよ。」

「何と…」

「わっはっはっはっは…若いのう重兵衛殿!」

「されど、常楽寺様、先程申し上げた旨、嘘では御座らぬ!某は…貴方の様に…人の心の中を読める侍になりたいのです!」

「なぁに、重兵衛殿、年を重ねれば、誰でも会得出来る事じゃ…そうじゃ!今日は、この後、共に座禅でも致しましょうか?心頭滅却…仏に身を委ねられれば得る事も有るかも知れんぞ!」

「はぁ…」

「さぁ、参ろう!座禅じゃ!!」

私は常楽寺様に連れられて座禅を組むことにな

った…

(下栗常楽寺様と言えば、曹洞宗法光寺を建てた方ではなかったか…?…「座禅」な訳だ…虎穴に入らずんば虎子を得ず…だ…立地条件的にも…放っておいたら…いづれは多賀谷の軍門に降る事になるであろう…下栗常楽寺様…当家との合戦の際、「旗掛の松」に置き去りにされていた豊田家の至宝「蟠龍旗」を…もうその時は下妻方の身でありながらも、密かに持ち帰り、法光寺内にて大切に保管してくれていた程、忠義心のある御方…何とか味方に引き入れておきたい…)

 その一心で私は座禅修行を試みたが…

いやはや…これが…なかなか…

いささか…へこたれていると…

「重兵衛殿、如何かな?何か得るものはあったかな?」

「はぁ…」

「わっはっはっはっは…それで良い!それで良い!明日も良かったらお出でなさいな!」

「はぁ…」

「わっはっはっはっは…」

私は常楽寺様に見送られながら、千代王に跨がって、ヨロヨロと栗崎城へ帰って行った…


 しかし…。

明くる朝も私は下栗城へと向かった…

恐らく座禅を組むであろうと覚悟しながら…

 が…、

今日は「写経」であった…。

これは、ある意味、座禅よりもキツイものであった…

「わっはっはっはっは…明日もお出でなされ!」

「はぁ…お邪魔致しました…」

私は、今日も、千代王と共に、ヨロヨロと栗崎城へ帰ったのだった…。


 次の日の早朝、私は腕が鈍るのを嫌って、道鎮殿と剣術の稽古をみっちりこなしてから…

三度、下栗城に向かった…


「今日は剣術の稽古でもいたすとしようかの?」

千代王から降りた私に、常楽寺様は木刀を振りながら私の方を見ずに言った。

「はい!」

私は千代王を馬廻りの方に預けて、近くに置いてあった木刀を手に取った…

焦げ茶色で随分重そうに見えたが、とても軽く、それでいて手にしっくり馴染む、とても良い木刀であった…

「その木刀は、白井全洞様という、多賀谷の偉い方から頂戴致したもの、某の持っている木刀は飯見大膳様より頂戴したもの、どちらが良いかのう?」

(これは白井全洞からの…あちらは飯見大膳殿からの…殿を欺く張本人の二人からの木刀とは…何かの因縁か?…それとも唯の偶然なのか…?)

私は少し考えてから…

「此方の白井様からのものをお借りいたします。」

「やはり、そちらを選ばれたましたな?…良い木刀であろう?」

「はい…。」(やはり?)

「それでは参ろうかの?」

「は…はい!」(やはり…って?)

私はジリジリと常楽寺様に、にじり寄っていった…

常楽寺様は穏やかな表情でピクリとも動かずに構えている…

私は動きを止めて、常楽寺様の呼吸を読んだ…柔和な瞳の奥に見えているのは…ただただ…ひたすらに…「無」…であった…

私はたじろいだ…

どこからでも打ち込めそうだが…

どうしても誘い込まれているような…

私は回り込んでみた…

常楽寺様は穏やかに微笑みながら私を見ている…

私はどうしても打つ手が見つからず木刀を納めた…

「ま…参りました…」

「なあに痛み分けじゃよ!」

「はぁ?」

「わしは何もせなんだし、御主も何もせなんだ。」

「はい…」

「これぞ無の境地じゃ!」

「無の境地?」

「左様、人には其々「分」というものがあってな、わしは今、お主を倒してやろう等とは、これっぽっちも考えては居らんかった…しかし、お主が打って参れば、わしは容赦なく、お主の木刀だけを振り払うつもりじゃった!」

「ぼ…木刀だけを…」

「左様、お主の身体には一切打ち込まず、ひたすらに、お主の木刀だけを振り払う…自分の分だけを守るのが、わしの流儀じゃ。」

「自分の分だけを…」

「自分の分を弁えずに、他人の領域迄攻め上れば、必ず戦と相成ろう、しかし、自分の分を弁えてさえ居れば、戦など起こりようも無いこと、それがわしの考えであり、生き方なんじゃ。」

「恐れ入りました…」

「なんのなんの、剣術の腕前はお主の方が数段上じゃろうて、わしがお主より上回って居ったのは負けぬように立ち回る小ずるさだけじゃよ!わっはっはっはっは…」

この時、私は確信した…

(流石、常楽寺様だ…この危険極まりない下妻最至近の土地で、長年生き抜いて来られた懐の深さがある…この方に私の様な青二才の駆け引き等、端から通用しようも無い事…そして、この方は信用するに足る素晴らしい御方だ!)…と。

 「常楽寺様、この三日間というもの、某、未だ見ぬ世界、未だ知らぬものの考え方を学べました!下栗常楽寺様という御方が、何故、この下妻と最至近の土地で泰然自若として居られるのか、良く解り申した!最初に御会いした時に感じた通りの尊敬に値する御方…今後ともどうか、この重兵衛めとお付き合いの程、宜しくお願いいたします!」

「何を申されるかと思えば重兵衛殿、わしの方こそ御主のように若く才能のある友人が出来て嬉しい限りじゃ!」

私は常楽寺さまとガッチリ両手で握手を交わした…

「さぁ、たまには茶でも啜って四方山話でもいたそうかの?」

私は常楽寺様に促されて屋敷の方へと向かって行った…。

 と、その時、ヒュルヒュルヒュルッと音を立てて何かが飛んでくる気配がしたので私は身を翻すと同時に常楽寺様を見た…

常楽寺様は、何と、目を瞑ったまま鮮やかな太刀捌きで何かを振り払っていた…

「手裏剣?!…常楽寺様!大丈夫で御座いますか?!」

「なぁに、この様な事、日常茶飯事に御座るよ!」

「に…日常茶飯事…?!」

「左様、大方、白井様の手の者であろうて。」

「し…白井全洞…様…に御座いますか?」

「うむ…この二~三日、御主が参られる様になってからは穏やかなものであったが…これは恐らく…わしではなく…御主を狙うての事じゃろう…」

「そ…某を?」

「左様、只の挨拶代わりと言うところじゃろうて…」

「挨拶代わり?」

「まぁ、此処では落ち着かぬ、早く中へ参りますぞ!」


 私と常楽寺様は、屋敷の一番奥の間に入り、向かい合って座った…

「常楽寺様、先程の様な事が日常茶飯事とは真に御座いますか?」

「うむ…去年の秋頃…白井様が直々に参られてな、豊田から多賀谷へ寝返らんかと…」

「やはり、其の様な事が…」

「うむ、勿論丁重にお断り申し上げたのじゃが…その翌日から…手裏剣だの煙幕だのが我が屋敷の庭に投げ込まれる様になっての…ほれ…一発だけ、わしの此処に当たりよったわ!わっはっはっはっは…あの時は痛かったわい!」

と言って常楽寺様は袖を捲って見せてくれた…

右前腕に、くっきりと手裏剣の痕が残っていた…

「こ…これは…真に酷いことを!」

「右京や、小治郎も似た様な目に会うとるらしい!」

「袋畑右京殿に、肘谷小治郎殿も同じ様な目に…」

「うむ…下妻に面しておる我等は此の様な事、日常茶飯事じゃ…」

「殿や政重様は御存じなのですか?」

「うむ、政重様や大膳殿が代る代る見回りに来て下さる…真に有り難い限りじゃ!」

「左様に御座いましたか?…政重様や…大膳…殿…が…」

「うむ…このところ、御主が連日参るのでな、これからは、御主が政重様や大膳殿の代わりに巡回してくれると思って居ったが、白井殿等もそう思っての挨拶代わりの手裏剣の雨じゃな、あれは…」

「なるほど…」

「これからは、此方へ参られる時は御用心なさい!じゃが…重兵衛殿、明日は小治郎の処に行ってやってはくれんか?」

「肘谷小治郎殿の処へ…」

「うむ、そうしてやってくれ…あ奴と道鎮殿は竹馬の友…面白い話を聞けるやもしれんぞ!」

「解りました、其では某、明日は肘谷小治郎殿の処へ行って参ります!」

「うんうん…小治郎もきっと喜ぶじゃろう!」

私は常楽寺様に挨拶をしてから、千代王と共に下栗城を後にした…


 袋畑の辺りまで来た時…

「永田重兵衛常充殿!」と呼ばれて振り向くと…

眼光鋭い侍が馬に跨がって此方を見ていた…

「某は、豊田家筆頭家老、飯見大膳左太夫と申す…連日の見回り御苦労である…何か変わりは無いか?」

(うわっ!いきなり飯見大膳っ!!)

「これは…飯見大膳様っ!」

私は千代王から降りて頭を下げた…

「永田重兵衛常充です!」

「御主が見回って居るから良いとは思ったが、ちと御主に会っておこうと思ってな。」

「それはそれは真に有り難う御座います!」

「御主は剣術も馬術も何でも来いらしいな?」

「そ…其の様な事は…」

「嘘を申すでない、其の千代王と言う暴れ馬をそこまで手懐けている者をわしは初めて見たぞ!」

「はぁ…相性が良いみたいで…」

「まぁ、良い!其の様な事はいづれ解ること…

明日も常楽寺殿の処へ参るのか?」

「あ…はい…いえ、明日は肘谷城へ参ろうかと…」

「左様か?毎日精が出るな!頼むぞ重兵衛殿。」

「ははぁっ!」

大膳殿は小さく頷いて馬の向きを反転させて豊田城の方に戻って行った…

(飯見大膳殿…あなたが殿を裏切るなんて…キチンと見回りにも来てくれている様な…あなたが…)

私は大膳殿の後ろ姿が見えなくなる迄見送ってから、千代王と共に栗崎城へ帰って行った…


如何でしたでしょうか?

下栗常楽寺殿と言えば、敵味方に別れて戦った際「旗掛けの松」に置き去りにされていた豊田家の神旗「蟠龍旗」を御自身で建立された「法光寺」にて大切に保管してくれていた忠義心溢れる侍…

夢の妄想キャスティングでは…

下栗常楽寺…武田鉄矢さん…

を想像しながら執筆していました!

皆さんは、どんなイメージだったのでしょうか?

其では今宵は此処迄に致しとうと存じます…

また次回に…

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