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つぐみ龍の伝説  作者: 永田常雄


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2/6

② 翔んで戦国時代

いや、遂に登場です!

我殿、豊田治親様!石毛政重様!原外記様!

そして我友、飯岡道鎮殿!

あ、あくまでもフィクションですからね!

この物語は史実を参考にしてはおりますが大体がフィクションですので、さらっと読んで「そんなバカな?!」と笑い飛ばして下さいね!

   

あまりの寒さに私は目を覚ました。

が、ここが何処なのかまだ私には解らなかった…

舞い散る雪の向こう側に川が流れているのが見えた…

私は土手の上に倒れていたようだ…

まるでホワイトアウトのように雪が舞っている…

奥さんの姿が見当たらない…

立ち上がろうとしたら腰がズキンと痛んだ…

私は腰を擦りながら何とか立ち上がり、ヨロヨロと辺りを探し始めた…

クルマは何処だろう?

高速道路は…?

私はクルマの外に投げ出されたのか…?

いや…待てよ…ひょっとして私は死んだのか…?

これが…「死ぬ」という事なのか…?

と言うことは…あれが…三途の川ということか?

奥さんは助かったのかなぁ…?

等といろんなことを考えながら私は奥さんの姿を探し歩いた…

やがて何処からか馬の蹄のような音が聞こえてきた…

その音は段々大きくなってきて此方へ向かって来る様だった…

 突然、馬に乗った侍姿の男が私の目の前に現れた!

「此処で何をして居る?!」男は馬から降りて私を睨んだ…

「いや…私は…何も…」私は口ごもった…

(何故、この男はこんな格好をしているんだ?)

「しかし、お主も変わった格好をして居るな?」と侍姿の男が言った…

私達はお互いの姿をまじまじと上から下、下から上へと見回しあった…

「あなたは何故その様な格好をしていらっしゃるのですか?」

「何と?それは此方の申す処じゃ!」と言って侍姿の男は訝しげに私を見下ろした。

私よりも一回り以上は大きな男である。

「見たところ刀も槍も持って居らぬ様だし怪しい者ではなさそうだな?某は原家家臣、飯岡道鎮と申す!」

「えぇっ?!原家…家臣…飯岡道鎮…て…まさか…」

「お主、わしを存じて居るのか?」

「はい…あ、いえ…ちょっと知り合いに似た名前の者が居りまして…」

(この人が言っていることが本当だとしたら…こりゃ大変だぞ!此処は…戦国時代真っ只中の吉沼付近ということになるのかぁ?…)

「そ…某は訳あって浪々の身、名は永田常充と申します。」

「永田…ここら辺ではあまり聞かぬ名だな?何処より参った?」

「今は訳あって申せませぬが遠き処からということで…」

私は飯岡殿の目を見て話した…

(この人が…先週訪れた…あの…道鎮坂の主人公…本物の飯岡道鎮殿なのか?…本当に?…)

「うむ、何か訳有りの様だな…深くは聞くまい!それはそうと…先程、我主の城にお主とそっくりな出で立ちの女が一人担ぎ込まれて参ったが…お主の連れ合いか?」

「えっ?あ、はい!恐らく某の女房かと…会わせては頂けませぬか?」

「良かろう!わしの後ろに乗れ!」

「有り難うございます!」

(信じ難い事だが、私は今、あの…最後迄たった一人で多賀谷勢から栗崎城を守り抜き、城主原外記・与五郎親子が大祥寺に辿り着くまでの間、孤軍奮闘、最期はあの坂(道鎮坂)で非業の死を遂げることになった原家の重鎮・飯岡道鎮殿の馬の後に跨がっているのだ!)

(本当に戦国時代の吉沼にタイムリッブしているのか?!)

(いや…これは夢だろう…)

(たぶん…夢に違いない…)

(もうすぐ覚めるだろう…)


 雪を掻き分け道鎮殿と私を乗せた鹿毛の馬は間もなく栗崎城に辿り着いた。

と、二人の侍姿の男達が出て来て道鎮殿と私を馬から降ろしてくれた…

「この者は、先程の女の連れ合いらしい!女の処迄連れて参る旨、奥方様に申し伝えてくれっ!!」

「ははぁ」

二人のうち一人が屋敷の奥へ行き、もう一人が馬の世話を仕始めた。

直ぐに屋敷の奥の方へ行った侍が戻って来た。

「奥方様が通せと仰せに!」

「うむ。」道鎮殿の合図で私と道鎮殿は侍の後ろから屋敷の奥へ進んで行った…

一番奥より手前の部屋に立派な身形の侍とその奥様であろう御婦人が座っていた。

部屋の真ん中には布団が敷かれていて私の奥さんが眠っているのが見えた…。

「殿、その女の連れ合いと申す者を連れて参りました。」道鎮殿は片膝を着いて殿と呼んだ方に申し上げた…

(もしやこの方が吉沼領主で栗崎城主の原外記様か?)

私も片膝を着いて暫く考えていた…

(こりゃあ夢にしてはリアル過ぎやしないか?…)

(まさか本当に戦国時代の吉沼にタイムリッブしているのか?…)

(いやいやそんなこと有るわけ無いだろう…)

(夢だよ夢…もうすぐ覚めるさ…)

(この間、城跡を巡り、念願だった「道鎮坂」を訪れることが出来たので、きっと夢を見ているんだ…)

等と考えていると道鎮殿が…

「これ、殿に御挨拶せぬか?!」と言うので私は我に帰って少し考えてから…

「ははぁ、御無礼仕りましたぁ、某、永田常充と申します!それなるは我が妻にござりまする!」

「左様か、あの様な雷に撃たれて、よく二人共無事であったな?わしはこの城の主の原外記じゃ、成程、お主も随分変わった身形をして居るな?さぁ二人共中へ入れ。」と言って外記様は笑った。


道鎮殿と私は部屋に入り、未だ眠っている奥さんの横に座った。

「永田殿、どうじゃ?間違い無いか?お主の妻女か?」外記様は私に優しく問いかけた。

「はい、相違ございませぬ!確かに某の妻に御座ります!」

「そうか、そうか、良かったなぁ、医者の言うことには気を失っているだけだとか、もう直ぐ目を覚ますであろう。」

「ははぁ、誠に有り難う存じます!」

「しかし、あの様な大きな雷は見た事が無いな。」

「はぁ、某もあの様に大きな雷は初めてに御座ります、音も凄うございました。」

「物凄い稲光りがして物凄い音がしたと思ったら物凄く地面が揺れてな、村の者達が申すには、その稲妻に乗ってお主ら二人が我が吉沼の地に舞い降りて参ったとあるが…真か?」

「はぁ、恐れながら申し上げます、某達、突然強い衝撃を背後に感じたと思ったら…妻と共に吹き飛ばされて…その後の記憶が御座りませぬ…」

「では稲妻に乗ってこの地まで来た覚えは無いと?」

「はぁ、作用に御座ります。」

「う~む、村では専らお主達が雷神様の遣いだと評判になっておる故……我が主の豊田家は、金村別雷神宮とは切っても切れぬ間柄、雷神宮境内には豊田家の家宝である神旗「蟠龍旗」が奉納されておってな、そこには二体のつぐみ龍が対になって鎮座しており、今にも天に昇って参りそうな姿が描かれておるのじゃ。」

外記様は私と奥さんを交互に見ながらまた続けた…

「村の者達が申すにはお主と御妻女が手を握りながら稲妻に乗ってくるりくるりと回りながらそこの小貝川の畔に舞い降りて参る姿をまるで龍に跨がった雷神が地上に舞い降りて来た様じゃったと…」

外記様は私と奥さんを代る代る見ながら更に続けた、穏やかに…

「その昔、遠き昔のこと…五百年程昔の話じゃ…豊田家宗祖豊田四郎将基公は源頼義・義家(八幡太郎)父子の奥州阿倍氏討伐軍の副将として一族郷党を率いて勇躍、北北東に進軍したそうじゃ…一隊が衣川付近まで進むと、荒天甚だしくなりて川は増水著しく一向に減る気配無く容易にその川渡ること叶わず…将基公暫し目を閉じ思案いたす処…豊田家の旗印である「蟠龍旗」から突然、巨大な龍が飛び出し、その身をまるで橋であるかの如く荒れ狂う川の上に横たえて見せたそうじゃ…『これぞ神意!』とばかりに将基公とその一隊は、その龍の橋を一気に渡り切り、敵の堅陣を壊滅させることに成功したそうなのじゃ…」

 するといきなり、武骨そうな侍とどこか品の良さそうな侍が部屋に入って来た…

「以来豊田は戦の度に、その神旗『蟠龍旗』を翻し連戦連勝じゃ!なぁ道鎮よ!!」と武骨そうな侍が豪快に言い放った。

(まさか…この人達は…)

すると、道鎮殿が一歩下がって頭を下げて言った…

「ははぁ、これは大殿様に政重様、わざわざのお出まし真に有り難う存じます!」

(この二人が…あの…)私も一歩下がって頭を下げた…

「そんな窮屈なことをするな道鎮、面を上げよ。」と品の良い方の侍が言った。

「しかし其の方は変わった格好をしておるな?」

「ははぁっ。」私は畏まった。

「はっはっは、そう固くなるでない、わしの名は豊田治親、そしてこっちが弟の石毛政重じゃ。」

私は少し震えた…

(今、目の前に居る二人が、第二十代豊田家棟主豊田治親様と石毛城城主石毛政重様その人なのか?)

「初めて御意を得ます、某、永田常充と申します。」

「うむ、其の方が稲妻に乗って小貝川に降り立ったと聞いたが真か?」

すると外記様が…

「いかにも…ただ、この永田殿は、この地に降り立った時の衝撃で気を失っていた様子…道鎮が先程此方に運んで参った処に御座いますが、いささか衝撃が強すぎた様で記憶が曖昧なようで御座います。」

治親様は私を興味深げに見て言った…

「お主は雷神の遣いか龍神の遣いかと専らの評判じゃが、実のところどうなのじゃ?何処より参った?」

「はぁ、某、遠き処より参った気がいたしますが…何分記憶が途切れ途切れにて…容易に思い出すこと叶いませぬ…」

「そこに眠っておる女子は其の方の妻女か?」

「ははぁっ。」

「似たような格好をしておるようじゃな?」

「はぁっ、某も何故この様な格好をして居るのか判りませぬ…」

「うーむ…、んっ!御妻女が目を覚ますぞ!」

漸く奥さんが目を覚ましたようだ…

「ここは何処?この人達は?」

奥さんは私を見て極当たり前な質問をしてきたので、私は目配せしながら…

「こちらは豊田治親様、こちらは石毛政重様、こちらは原外記様、そしてこちらは飯岡道鎮殿だよ…」

奥さんは狐に摘ままれた様な顔をしていたが…

漸く事態を察したのか…

「タイムスリップしたの?」と小声で聞いてきたので私は小さく頷いた…

すると奥さんは少し芝居がかった調子で言った…

「こちらにいらっしゃる方々は皆、日頃あなたが会いたい会いたいと仰っていた方々ばかりじゃないの?」すると驚いた様子で政重様が…

「何と、其の方の亭主はわし等に会いたがっていたと申すか?」

「はい!いつも治親様に会いたい、政重様に会いたい、外記様に会いたい、道鎮殿に会いたいと常日頃から申しておりました!」

道鎮殿が私を睨んで言った…

「お主、わしを存じておったのか?」

「はい…お許しください道鎮殿…某共は…信じては頂けぬ事とは存じまするが…」

私はためらった…

「良いから申してみよ。」

治親様が優しく促してくれた。

「はい…実は…某と妻は…恐らく…今、この時代よりも470年程後の時代から、何か強い衝撃で時空の歪みの様な場所に迷い込んでしまい、この時代に振り落とされた様子に御座います。」

一同…奥さん以外は皆キョトンとした表情で私を見詰めていた…私は恐る恐る続けた…

「私もこれは夢だと思って居りました…夢なら何れ覚めるであろうと…然れど一向に覚める気配が御座いません…」

外記様が心配そうに言った…

「永田殿、これは夢では御座らぬぞ!今は天文二十一年の一月十六日じゃ。」

「天文二十一年…」

幸いなことに私は昨日まで戦国時代の吉沼の歴史を調べていて元号を覚えていたのだ!

(1555年が弘治元年だから…その前の天文は24年迄なので…天文21年は西暦1552年…今は当に戦国時代真っ只中ということか?…)

すると政重様が言った…

「お主、何をぶつぶつ申しておるのじゃ?せいれき千五百五十二年?弘治元年?一体何の話じゃ?」

「はあっ、西暦とは西洋の暦の事でキリストが生まれた年が西暦元年です。私と妻が暮らしていたのは西暦2022年です。」

「何と、二千二十二年とな?」

「はい、そして今、この時代は西暦で言うと1552年頃かと…」

「西暦千五百五十二年…」と治親様。

「不思議なことを申しよるな、では其の方これから起こることが全て判ると申すか?」と政重様。

「あ…いや、全てとは申せませぬが、大体の事は判ります…」

(仕舞った!…つい大きな事を言っちゃったぞ…)

と私は思った…すると治親様が言った…

「これは面白い!ではお主、近々で何が起こるか申してみよ!」

(これは困ったぞ…本当の事を言っちゃったら不味いよなぁ…)

私は無難なネタを頭の中で探した…

「3年後に元号が天文から弘治に変わります!確か…天皇も御奈良天皇から正親町天皇に変わります!」

「何と?!天文が終わる?!正親町天皇だと!?」と政重様。

「如何にも、某、昨日この時代の歴史を調べて居りましたところ、そのようなことが書かれておりました。」

「うーむ…。」一同、半信半疑の表情で私を見詰めていた…すると治親様が言った…

「まぁ良い!その時が来れば、お主の申しておることが真か嘘か判るであろう?!今宵はこの原殿の屋敷でゆるりと過ごすが良い。道鎮、後を頼んだぞ…外記殿ちと彼方へ…」と治親様。

治親様、政重様、外記様が部屋から出ていった…

 少しして私の奥さんが喉が渇いたと言ったので奥方様が人を呼んで飲み水を持って来るように伝えてくれた。

「有り難う存じます!」私は頭を下げた。

「良いのです、困った時はお互い様です。」と奥方様が仰ると程無く飲み水が運ばれて来て、奥さんはゴクゴクと一気に飲み干してしまったので奥方様が笑った…

「まぁまぁ、よっぽど喉がお乾きだっようね?!」

すると奥さんは舌を出して「はい!」と答えたので、一同皆笑った。

奥方様が、もう一杯飲み水を持って来るように頼んでくれた時、道鎮殿がいった…

「さぁ、俺達は席を外して土間で酒でも所望するとするか?!女は女同士!男は男同士じゃ!さぁ、永田殿、参るぞ!」

私は道鎮殿に連れられて部屋を出て行く時、奥さんの方をチラッと振り返った…

奥さんは奥方様と楽しそうに談笑していた…

打ち解けるのが早いのは奥さんの得意技の1つなのだ!

女は女同士…男は男同士…か…。


私と道鎮殿は板場近くの土間で酒を酌み交わしていた…

お互いに初めて会った筈なのに初めて会った気がしないという思いで意気投合!

後は酔った勢いで女子の話等で盛り上がり…

何時の時代も男同士の酒の話題等というものは代わり映えの無いものである…

470年前もまた然り……。

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