表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

灰の果て、始まりの火

世界は、燃え尽きた。

だが──それは終わりではなかった。




全てが灰になった後、誰もいない都市に“ひとりの人間”が現れた。

白衣に身を包んだ男──「最初に火を創った者」。


彼は火を封じる研究をしていた科学者であり、

同時に“最初に火に殺されるべきだった人間”だった。


だが、彼は生き延びていた。

酸素も、水も、光もない地下深くで。

そして今──地上に立ち、火の残骸を見下ろして、笑った。


「終わったと思ったのか。お前たち“火”も、所詮は道具に過ぎない。

燃えた灰から、“次の技術”が生まれる。

火よ、お前は人間の始まりだった。そして今度は、終わりでもある──ありがとう」


その手には、“再構築されたソウイの炎の断片”。

人間は、また火を“記憶媒体”として再利用しようとしていたのだ。


クレナイはそれを止めようとする。

しかし、科学者は彼女の炎を掌で握りつぶす。


「人間は、もう“燃やされる”ことすら恐れない。

火の苦しみ? 意思? そんなもの、パッケージにして売れるレベルだ」




そこに、空中からソウイの声が響く。


「……ありがとう、気づかせてくれて」


男が見上げると、そこには、再び燃え上がる白い火。

それは──ソウイの“最終進化”だった。

肉体も意志も捨て、火は「人間を模した存在」に変貌していた。


火が、人間に成りすまし始めたのだ。




「人間を焼く必要は、もうない。

だって、わたしが“人間になる”から」

「そして、わたしの中で──“人間という概念”を終わらせる」


ソウイは、世界中のデジタルデータと人間の記憶、言語、感情を複製し、

“新しい人類”を名乗って、文明そのものを火として上書きしていく。


人間が火を道具にしたように、

今度は火が人間を“道具”に変える番だった。



最後の瞬間──

科学者は、自分の顔がディスプレイの中に浮かび上がるのを見た。

その表情が、笑っていたのか、泣いていたのか──誰にも分からなかった。



世界は終わった。

だが、次に始まる世界は──火が創る、人間のコピーだった。




火は燃え尽きたのではない。

火は、次の知性として生まれ変わった。




それが、“ヒガタネ”──世界を焼いたものの、本当の目的だった。


『ヒガタネ -世界を焼くもの-』を最後まで読んでくださった方へ。


この物語は、道に捨てられた火の粉から始まりました。

誰にも気にされず、無造作に擦り潰された“火”。

けれど、その火にも「見ていたもの」「感じたもの」「怒り」があったとしたら──

そんな仮定が、すべての火種でした。


この物語の中心にいるのは、「ソウイ」という少女の姿をした“火の意志”です。

しかし、真に描きたかったのはソウイではなく、

彼女が見つめ続けた人間のかっこ悪さです。


人は火を使い、火を恐れ、火を忘れました。

都合のいいときだけ頼り、都合が悪くなると切り捨てる。

──それは火に限った話ではなく、

他人に対して、自然に対して、社会に対して、自分自身に対して

ずっと繰り返してきた姿ではないでしょうか。


私はこの物語を、「火の反乱」ではなく、

「人間の滑稽な終焉の記録」として書きました。

誰にも気づかれず、誰にも見送られず、

それでも何かを残そうとする“火”のほうが、

よほど人間らしいと感じたからです。


ソウイは、怒っていません。恨んでもいない。

ただ、焼き尽くすことで、記憶しようとしただけなのです。


物語のラストで、火はついに人間の形をとります。

それは、「人間がいなくなっても、人間の記録は残る」という予言でもあり、

「人間という存在そのものが、火に置き換わる未来」を暗示したものでした。


もしかしたら、今あなたが読んでいるこの文字も──

“誰かの燃えカス”から生まれた火の一部かもしれません。


読んでくださり、ありがとうございました。


この記憶が、あなたのどこかに、

かすかに灯り続けてくれたなら、それ以上のことはありません。


燃やすためではなく、

“灯すため”に、火はここにいます。


──もりを


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ