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今朝、中央公園に雷が落ちたらしい。シェルター内にいるので気づかなかったがトップニュースに上がっていた。最近の太陽フレアの影響らしく、こればかりは政府もコントロール出来ないらしい。ライブカメラで公園を見るとそこにはぽっかりと大きな穴があり、地面がえぐれて土がはみ出していた。周りにはドローンが集まり修復作業に当たっている。
今日は皆、このニュースの話題でもちきりだった。人気タレントのAA00099999さんがホログラムで公園には近づかないように訴えている。それにしてもAA00099999さんは今日も素敵だ。AAで始まること自体美しいのにさらに続く番号が十進数の最小値と最大値のゾロ目なのだから。それに比べ僕に割り振られたマイナンバーはEJ49167751となんとも微妙な組み合わせだ。唯一の自慢は77と比較的人気な数字がゾロ目であることくらいである。どんなにAIで計算しても何か特徴的な配列は見当たらなかった。
この世界では人類全てにナンバーが割り振られておりそれはランダムに決められる。まず最初に遺伝子操作により性格の定型パターン各々割り振られ、その後身体パターンが決められる。性格パターンは五種類のどれかがランダムではなく、構成比率により決められ、身体パターンは男と女の二種類に、これも構成比率で決められる。なので生まれてくる人間は基本的に同じ容姿になる。たまに少し身長が高かったり、毛というものが一本生えている、いわゆる「逸脱」と呼ばれる人間も生まれてくることがあるが、すぐに手術により矯正される。なので我々は容姿には全く差異がないため唯一ランダムに割り振られるマイナンバーの配列がその人の個性となる。皆なんとか特徴を見いだせないかといつも考えていた。ある人はナンバーを一桁ずつ足して三桁の数字になった時、円周率と同じ3.14になることを誇りにしていた。
今日はGG76365818さんと昼食を食べる予定だ。GGさんはこのシェルターで唯一のゾロ目のアルファベットの持ち主だ。昔からモテてしょうがなかったらしい。レストランに着くとGGさんはすでに席に座っていた。僕も席に着き、各々の食事を注文する。メニューは個人それぞれ最適化されており、その日に必要な栄養素を必要な分だけ摂取できるよう管理されている。GGさんは鶏肉風味の人口肉に野菜、僕は魚肉の加工品と果物だった。本当はいけないのだがGGさんの人口肉を少しつまみ食いした。
やはり話題は今朝の落雷の話になった。
「どうやら修復にあたっていたドローンも太陽フレアの影響で駄目になったらしい」
「ということは入ろうと思えば入れるわけか」
最近これと言った事件やニュースもあまりなかったため久々の有事に皆少し興奮していた。
そこら中で心拍数の異常を知らせるボディスーツのアラームが鳴っていた。我々は血圧、心拍数、体温などを管理するボディスーツの着用が義務付けらており、何か異常があればアラームが鳴る。
「どうだ食べ終わったらちょっと見に行ってみないか?」
僕たちは急いで昼食を済ませて公園に向かうことにした。
僕たちは公園に向かう前にそれぞれ今日浴びることができる紫外線の量を確認した。ボディスーツの検知器により我々は一日に浴びれる紫外線の量が厳格に管理されている。浴び過ぎると医療シェルターで検査を終えるまで延々とアラームが鳴り続ける。二人ともまだ十分に浴びれることが分かったので早速向かうことにした。
シェルターの外に出るとそれは気持ちの良い天気だった。それは同時に紫外線の量が多いことも示している。僕たちは心なしか早や足で公園に向かった。途中EJ23987715さんとすれ違った。彼女は特に珍しいナンバーの持ち主ではないが僕と同じEJであり、しかも同じ77のゾロ目を持っている。僕は密かに彼女に運命的なものを感じていた。彼女は恐らく僕のナンバーを知らない。いつかそれとなく伝えることができればいいなと思っているが中々きっかけが掴めずにいた。
十分ほど歩き公園に到着した。ドローンの姿は見当たらなかった。遊歩道を外れ北側の「穴」を目指した。穴の周囲には作りかけの鉄格子が築かれている。半分ほどできたところでドローンが撤退したのだろう、容易に入ることができた。
中に入るとそこには想像よりも遥かに大きなまるでクレーターのような光景が広がっていた。
「凄いな。落雷でこんなにも地面がえぐれるものなのか?」
「いや、これは絶対落雷ではないよ。」
高まる興奮を抑え、どう考えても隕石が落ちたとしか思えない「穴」の底に向かって僕たちは歩き始めた。度々立ち止まり、お互い紫外線の量を確認する。半分ほど進んだが周りに他の人の気配は感じない。AA00099999さんの注意喚起のおかげか。それともまことしやかに噂されている放射線のせいか。
久々の土の感触を楽しみつつ僕たちは「穴」の底にたどり着いた。
「なんだ。何も無いじゃないか」
GGさんはそうぼやきながら紫外線の量を確認していた。周囲を見渡しても特に何も無い。僕たちは地層が見える土の壁の周囲をぐるりと周りながらがっかりした気持ちで帰路に着くことにした。十メートルほどの高さの土の壁を手でなぞりながらしばらく歩いていると何か異物のような物が当たった。
「GGさん、壁に何か埋まってる」
土の壁から何やら金属の箱のようなものがはみ出ていた。二人で土を掘り起こしその金属の箱を取り出した。初めて見る材質のその箱は縦十センチ横二十センチほどで中に何か入っている。僕たちはとりあえずタブレットを取り出し、箱の画像を撮影しAIにかけることにした。AIによるとこの箱の材質はブリキと呼ばれ鉄板の表面に錫と言われるものめっきした古代の工業製品らしい。箱を振るとカラカラと乾いた音がした。僕たちは中を見てみることにした。頑丈そうに見えた蓋は意外と簡単に外れ中身が地面に散らばった。葉っぱのような薄さの四角い物が数枚、以前見たことがあるカブトムシという生物に形が似た金属の加工品があった。AIにかけるとこれは写真と言われる物で、まだホログラムや画像データという概念がない時代に視覚情報を保存するために発明された技術であるらしい。もう一つの金属を調べてみるとそれはブローチと呼ばれ、古代の人が、主に女の人が身体の一部に装着する装飾品と言われる物だった。僕たちは初めて見るその写真とブローチに興奮してしまい心拍数が上がってしまった。二人のボディスーツのアラームが「穴」に響きわたる。呼吸を整え、急いで鎮静作用のある錠剤を飲みうるさいアラームを止めた。
少し落ち着いた僕たちは、「写真」と言われる物に目をやった。表面の汚れを手で拭うとそこには我々のシェルターとよく似た建造物のような物が写っていた。その建造物の下には丸い輪っかのようなものが付いた箱型の金属の塊がある。調べてみるとこの建造物はビルディングと呼ばれるもので、我々のシェルターと同じ役割を担ってるという。下にある金属の塊は車と呼ばれる物で主に人間の移動に使われるものでどちらも古代の発明品らしい。
予想以上の収穫物をスーツにしまい僕たちは急いでシェルターに帰った。途中あまりの興奮のせいか血圧が上がり度々アラームが鳴った。
シェルターに着いた僕らは成果を分けることにした「写真」が六枚と「ブローチ」が一つ。GGさんは「写真」が気に入ったらしく五枚の「写真」を。僕は木製のテーブルのような物の上にこれまた見たことがないつるっとした材質の細長い加工品に植物が収められ置かれてる「写真」を一枚。それと複雑な加工が施された「ブローチ」一つ。
「このことは誰にも言わない方がいいな」
「写真」を興味深そうに眺め、宝物のように大事にスーツにしまうGGさん。僕たちは今日のことを誰にも言わない約束をし、それぞれの部屋に戻った。
僕はカプセルの中に入り、古代のブローチを観察していた。必要以上に複雑な加工をされたこの金属は女の人が身体に装着するための物だという。その意味や必要性は全く分からないがなぜかいつまでも見ていられる。僕は「ブローチ」を装着しているEJ23987715さんを想像した。我々は顔や体型、声などで個人を判別することができない。いつもスーツに刻印されたマイナンバーの配列で判断している。EJ23987715さんにこれを装着してもらうと判別がしやすくなるのではないか。僕はこれをEJ23987715さんにあげようと思った。「ブローチ」を撫でまわしながら装着方法を考えていると、蓋があることに気づいた。一気に心拍数が上がるのを感じながら開けてみることにした。その蓋は特に力を入れなくても開けることができた。中には「写真」のような物が収められている。汚れを拭い「写真」を見る。我々と似た人型の顔がそこにはあった。似てはいるが細部が違う。いわゆる毛と言われるものが頭部から長く垂れさがっており、目の上にも短い毛があるのが分かる。左側の目は我々と同じ二重のまぶたになっていて、しかし右側の目は二重のまぶたの幅が狭い。鼻も我々ほど高くはなく、なんなら顔全体が左右非対称である。手には植物が握りしめられ、複雑な加工が施されたボディスーツを着た女の人と思われる人間がこちらを見ている。
するといきなりカプセルの中にボディスーツのアラームがこだまし始めた。血圧の上昇、心拍数の上昇、そして微熱がある。僕は急いで抜け出し、呼吸を落ち着かせて鎮静剤を飲んだ。リラックス効果のあるカプセル内でアラームがなるのは初めてだった。鎮静剤が効いたのかアラームが鳴り止む。鎮静剤は一回で約半日ほど効果が持続する。とりあえず落ち着いた僕はもう寝ようと思い、カプセルの中に入った。徐々に眠気が襲ってくる。今日一日の冒険を思い出しながらまどろむ僕は静かに目を瞑った。するとまぶたの裏にさっきの「ブローチ」女の人が浮かんでくるではないか。またカプセル内に強烈なアラーム音が鳴り響いた。僕はまぶたの裏に居座る「ブローチ」の女に見つめられながら、静かにアラームが鳴り止むのを待った。