約束の場所に来てください
宇宙からの電波を受信する電波望遠鏡に、不思議な電波が届いた。それは、どうやら人工的な通信のように思われた。ただ、その電波は地球上のどこかから発信されているのかもしれないし、ただの天体現象だとも考えられたので、検証は本格的に行われた。しかし、電波の正体はわからなかった。その電波は、一定の方向から発信されていた。そして、繰り返し届いた。どこかの惑星から、知的生命体が地球に何か連絡しようとしているのではないかと考える研究者も現れた。
そして、ある日その星がある方向から地球に宇宙船がやってきた。
地球人たちは皆、驚いた。地球以外の星の知的生命体を見るのは初めてだったからだ。
宇宙船から下りてきた宇宙人たちは地球人と似ていたが、なにか違和感があって違う生命体だと思える姿だった。
宇宙人は言った。仕組みはわからないが、地球人にも理解できる言葉だった。
「私たちからの連絡は受け取りましたか?」
「連絡?」
「ええ、ずっと電波を送り続けていたのですが」
「もしかして……」
宇宙人との会見に同席していた研究者の一人に、あの電波のことを知っている人物がいたのは幸いだった。研究者が電波のことを話すと、宇宙人は嬉しそうに言った。
「届いていたのですね。では、なぜ約束の場所に来てくれなかったのですか?」
「約束の場所? それよりも、私たちにはあの電波が解読できなかったのです」
「なるほど……。あまりに時間が経ちすぎて、言語が変わってしまったのでしょうか。今も翻訳機を使っていますし」
宇宙人は不思議そうに首を傾げ、研究者も同じように首を傾げた。
「言語、ですか? それは長い時間を掛けて変わっていくものだと思いますが、最初から私たちはあなたたちの言語がわからなかったのです」
研究者が言うと、宇宙人はますます不思議そうな顔をした。
「なぜです? 私たちは、元々同じ星の仲間だったではないですか。母星が無くなって、住める星を探すために移民船で出発した仲間の子孫でしょう? そして、最後に残った二隻である私たちの祖先はそれぞれ移住できそうな星を見つけて、別々の星へと向かうことにしたではないですか。その方が我々種族の生き延びる可能性が高まるから、と。そして、あの最後に別れた場所で誓ったではありませんか。もしも、お互いに新しい星で繁栄することが出来たら、この場所で会おうと。でも、なかなかあなたたちから連絡が無いので、心配して電波を送り続けていたのですよ」
「?」
研究者も、他の地球人たちも宇宙人の言うことが理解できなかった。
宇宙人も、その様子を見て少し不思議に思い始めたようだった。
「あの、少し検査をさせていただいてもいいでしょうか。あなたたちが、私たちと同じ遺伝子を持っているかどうか」
「それは……」
宇宙人の検査など何をされるかわからない。不安に思っていると宇宙人は言った。
「皮膚の表面を少し触らせていただくだけでいいのです」
その言葉で、研究者は恐る恐るだが頷いた。宇宙人がどういった科学力を持っているか、そして、本当に自分たちが同じ星から生まれたものなのか興味を持ったからだ。
検査は本当に一瞬だった。
「そう、ですか……」
検査の結果を見て、宇宙人は悲しそうな顔をした。
「おかしいとは思っていたのです。何度連絡しても、伝わっていませんでしたから。それに、大切な約束を私たちの仲間が忘れるはずが無いのですから。それでも私たちは、きっと仲間が生きていると信じようとしていたのですね……」
一度言葉を区切って、宇宙人は続けた。
「あなたたちは、私たちとは別の種族のようです。繁栄している様子のこの星を遠くから眺めて、勘違いしていました。この星に向かった私たちの最後の仲間はきっともう、とうの昔にいなくなっていたのですね。もしかしたら、この星に来る前に……。いえ、もしかしたら……。それとも……」
宇宙人は少し俯いてから、顔を上げて聞いた。
「この星に、大きな隕石が落ちた場所はないでしょうか?」
「ああ、それなら心当たりがあります」
地球人にとってはあまりにも有名な場所がある。恐竜を大絶滅させたと言われるクレーターの跡だ。
さっそく宇宙人をそこに連れて行くことになった。
「ここですね」
その場所に着くと、宇宙人たちは何かを調べ始めた。
地球人にはその行程を見ていてもよくわからなかったが、宇宙人たちはしばらくして作業を終えたようだった。
そして、言った。
「よかった。私たちはあなた方を恨まずに済むようです。私たちの仲間はここで着陸に失敗していました。つまり、その隕石だと思われていたものが私たちの仲間の宇宙船だったということです」
「そうでしたか。それは、なんと申し上げればいいのか……」
研究者は答える。それから、続ける。
「ただ、その、我々を恨まずに済むというのは?」
「それは、もしかしたら、あなた方が私たちの仲間を滅ぼしたのではないかと疑ってしまったのです。ですので、謝ります。大変失礼な勘違いをしてしまいました。申し訳ありません」
宇宙人は、頭を下げた。
それから、宇宙人たちは宇宙船の欠片だと思われるもの(地球人にはそれがなんだかよくわからなかった)を丁寧に集めて、地球人たちに挨拶してから自分たちが住んでいるという星に帰って行った。
研究者を含め、地球人たちはほっと胸をなで下ろした。
そして、あの宇宙人たちの科学力に感謝した。誤解でこちらが滅ぼされてしまったら、たまったものではない。
決してあの宇宙人の前で口には出せないが、別の感謝の思いを抱く者もいた。なにしろ、その宇宙船が落ちて恐竜が大絶滅しなければ、我々哺乳類が現在のようにこの地球上で繁栄していなかったかもしれないのだから。