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後日談〈だけど婚約中のときの話:当て馬にもならない後編2〉


 薬草を摘み保存袋に入れた後は、当初の予定通り、入口とは反対方向の回廊を通って神殿から出ることにした。

 それだけのはずだった。セルジュのおかげで、大きな危険もなく。途中、祭壇の上に何かあったけれど。

「セルジュ、見るからに魔導具っぽいものがありますが。」

「ああ、あれは取らない方がいい。勘ですが。」

 ……なるほど?

「取ると何が起こりますか?」

「例えば、神殿が崩れるとか。」

「確かに、それはやめておいた方がいいですね。」

 そんな会話をしただけのはずだった。それなのに、はらはらと瘴気が降ってきたものだから、

「ちょっと浄化しておきます。」

と、何となく聖魔法を使っただけだったのに。



 何が作用したのか、私にはわからなかった。けれど古代神殿から戻って二週間後、セルジュのランクがSAになった。

 ランクの上がったセルジュはといえば、面倒そうだった。基本依頼料は上がるが、厄介な依頼もくるとのことで。それでも私は称賛したかった。

「すごいです。」

「こういうのはけっこう、運なんで。」

 淡々とセルジュが答えた。そんなセルジュがあそこで見つけたものは、封じられていた神殿の隠し扉、古代の巨大魔石に、古代の大型魔導具に、古代の大魔法陣に、そのほかいろいろ。

「それでも、すごいと思うのですが。」

 セルジュが笑みを浮かべる。

「もし俺の運が良かったとすれば、リアが一緒にいたからです。

 そもそも俺一人だったら、古代神殿に来ようとも思わなかった。

 リアのおかげです。リアは運がいい。」

 ……。それは、セルジュの冒険者としての経験と努力の積み重ねではないかと思った。王国でごたごたに巻き込まれた私など、運がいいとは思えない。

 それとも。結果的にそれでセルジュと婚約できたのなら、私はとても運がいいのだろうか。


 どちらにしても、これは言っておきたかった。

「でも、もし、セルジュが本当に受けたい依頼があれば、教えてください。私が一緒に行くのは難しくて、一か月とか、三か月とか、時間のかかる依頼でも。」

「リア?」

 セルジュが怪訝そうに私を見る。けれど、どうしても伝えておきたかった。

「私はセルジュに、したいことがあるのに我慢をしてほしくない。それが積み重なれば私たちの関係が壊れてしまうかもしれないから。」

 真剣に話したのに、セルジュから返ってきたのは不審さだった。

「リア、今から三か月かかる依頼を受けたら、あなたとの結婚式はどうなると?」

「延期しましょう。」

 答えれば、なぜかセルジュが絶句していた。

「……リア。実は遠回しに、俺と結婚したくないとほのめかしてますか?」

 違う。

「セルジュ、違いますから。」

 それでもセルジュは動揺したまま、唇をかみしめ顔をそらしてしまった。

「セルジュ、聞いて下さい。私は、殿下との関係が上手くいかなかった。だから、もう一度同じ失敗を繰り返したくない。大好きなあなたとの関係を壊したくない。壊してしまうのが、怖いんです。」

 ふわりとセルジュに抱きしめられた。その腕が私を包む。

「ごめん、あなたをそんなふうに不安にさせるつもりはなかった。リアが望んでくれるなら、俺からあなたを手放すことはない。

 俺の言葉では足りませんか。あなたはまだ不安そうだ。リア、お願いです。何が不安なのか、俺に教えてくれませんか?」

「……それは。」

「それは?」

 迷った。果たしてこんな気持ちを伝えても良いものだろかと。それでもセルジュの真剣な眼差しに、意を決して伝えてみることにした。

「女性の冒険者と二人だけで依頼を受けるのは、やめて欲しいです。嫉妬、してしまうから。」

 セルジュの心底驚いた顔が私を見下ろす。次の瞬間には、強く抱きしめられていた。

「元よりそのつもりはありません。あなたの信頼を失うようなことはしない。あなたに誤解されるような行動をするつもりも、ない。」

 本気でセルジュが言ってくれていることがわかった。私の綺麗とはいえない気持ちも、セルジュは受けとめてくれるのかと思った。胸がいっぱいになって、ただこう伝えたくなった。

「ありがとう。」


 それなのに、なぜかセルジュからはため息が返ってきた。

「リア、俺の言ったことわかってませんね。」

 ……。本当にわからなかった。首をかしければ、セルジュがもう一度ため息をついた。

「あなたが俺の婚約者である以上、俺もまたリアに同じことを要求するかもしれないと、考えませんでしたか、あなたが望んだとしても。」

 ……。ますます、わからなくなった。

「リア、駄目です。一時的であろうと、あなたがほかの男とパーティーを組むなど、俺は容認できない。」

 セルジュの懸念が、私にはわからなかった。

「そもそも私と組みたい冒険者など、セルジュ以外にいないでしょう?」

 セルジュがまたため息をついた。

「先日、あなたに声をかけてきた冒険者がいましたが?」

「あの方に私の事情を話せば、前言を撤回されると思いますけれど?」

 なぜかセルジュが大きなため息をついた。

 もしかして、と思った。私の言い方が良くなかったのかもしれない。

「あの、セルジュ。

 私が組みたいのは、セルジュだけですから。」

 

 目を見張ったセルジュがふいと顔をそらした、その腕はしっかりと私を捕らえたままで。


 

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