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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界ユニバース

人類が滅んだなんて、嘘だ

作者: 保志真佐




 人類が滅んだなんて、嘘だ。


 ボクは良く、そう思ってる。




 ボクは物心付いた時から、薄暗い地下室で生活していた。

 地下室にいるのは、記憶は朧気だけど、三歳ぐらいだったと思う。


 地下室は、ボクとお父さんとお母さんの三人が暮らすには、そこまで狭い部屋では無い。


 けど、ボクが十二歳になった今まで、この部屋で暮らしていたと考えれば、かなり狭い世界である。




 ボクには、必ず守らなければならない…三つの決まり事があった。


 一つ、部屋の隅に置いてあるトマトスープを飲まないこと。

 二つ、この部屋の中で、大きな音は出さないこと。

 三つ、地下室の外に出ないこと。


 一つ目の決まり事のトマトスープは地下室の隅の棚に、いくつも缶詰めにして置いてある物のことだ。


 あのトマトスープは何故か、口にしてはいけないらしい。

 美味しいそうなんだけどな。


 二つ目と三つ目の決まり事は、外にいる『怪物』にバレないようにするためだ。


 ボクはずっとお父さんとお母さんから、教えられてきた。

 この部屋の外には、恐ろしいが怪物がたくさんいて、人類はその怪物達に滅ぼされたと。


 ある日突然、この世界に怪物達が現れ、人類は次々に殺されていった。

 怪物はとても強く、ボク達人間では太刀打ちが出来なかった。

 人類の中でも、生き残ったボク達家族は、隠し扉から繋がる地下室で暮らしている。


 それがボク達が地下室で暮らしている経緯だ。


 初めて、怪物のことを聞かされたとき、ボクは怪物に興味を示した。

 一体どんな姿形をしているのか。


 だけど、怪物に関心を示したボクに、お母さんは物凄い剣幕で叱った。


 怪物に掛かれば、ボクなんて、あっという間に食べられ、殺されると言い聞かされた。


 でも、ボクは思う。

 本当に怪物がいて、本当に人類は滅んだのかと。


 怪物なんて、本当にいなくて、人類は滅んでいないんじゃ無いかって。


 でも、ボクが十二歳になるまでに、外の世界に通じる地下室の扉の外側から、怪物らしき何かが動いている音が時々聞こえてくる。


 そういう時は、お父さんは斧を手に取り、お母さんはボクをずっと抱きしめる。

 怪物が動く音が無くなるまで、ずっと。




 十二歳になるまで地下室にいるけど、ボクはそこまで退屈と思ったことは余り無かった。


 地下室には、外のことが書かれた絵本や書物がたくさんあるからだ。

 お母さんはボクが寝る前に、絵本の読み聞かせをしてくれる。


 外には、木がたくさんある森やたくさんの水がある海、光を照らす太陽、それに月。


 絵本に描かれる外に景色はとても綺麗。


 しかも絵本によると、怪物達が現れる前、人類には多くの種族がいた。


 人間だけで無く、耳が長くて長寿なエルフや背が低くて鍛冶が得意のドワーフ、人と動物が合わさったような獣人、見上げるほど大きい巨人、穴の中で暮らすホビットなど。


 いつか、いろんな種族に会ってみたい。

 それがボクの淡い夢だった。


 けど、ボクが他種族のことを言うと、お父さんとお母さんは大体、変な顔をする。


 それと気になるのが、絵本には良く分からない種族がいる。


 人間に似ているんだけど、目が赤いし、口から二本の線が書かれていた。

 絵本に載ってる絵から、分かりにくいけど………牙かな?


 赤い目と言えば、お父さんだな。

 お父さんの目は暗闇で赤く光る目を持っている。


 ボクがこの種族の事をお父さんに聞くと、お父さんは凄い怖そうな顔で、その種族が載っているページを破り捨てた。


 お父さんは、どうしたんだろうか?




 地下室には、食量が余り無い。


 出来る限り、家族三人で節約して食べているが、どうしても家族三人分がずっと食べていく量として、とても少ない。


 だから、半年に一回…お父さんとお母さんが地下室の外に出て、食量を調達する。


 どうやら怪物達は日が出ている昼間に行動し、夜には余り行動しないそうだ。


 だから、夜になって隙を狙って、食量をどこからか調達する。




 だけど、ボクが十二歳になって少し経った頃、お父さんとお母さんがいつものように食量を調達しに行ったのだが、いくら待っても二人は帰ってこなかった。


 外では、もう日が昇ってきたはずなのに、お父さんとお母さんは帰ってこなかった。


 一日経って、お父さんとお母さんはようやく戻って来た………………血まみれになって。


 どうやら、二人は食料調達に手間取り、日が昇って、怪物達に見つかったそうだ。

 帰るまでに怪物達を振り切ることは出来たけど、お父さんとお母さんは体中に傷を負ったみたい。


 お父さんとお母さんは手に入れた食量をボクに渡して………死んだ。


 死ぬ直前に、お父さんとお母さんは約束として、絶対に三つの決まり事を守るようにと言った。


 ボクは泣きながら、頷いた。

 でも、その約束はずっと守ることは出来なかった。


 お父さんとお母さんが命懸けで調達した食料が、殆ど尽きたのだ。


 出来るだけ節約して食べていたけど、やっぱり足りなかった。


 お腹が空いた。

 お腹が空いた。

 お腹が空いた。


 空腹に耐えられなかったボクはついに、部屋の隅に置いてあった何十個も缶詰めにされているトマトスープに手を伸ばした。


 このトマトスープは、お父さんとお母さんが外に食量を調達際に必ず持って行く物で、お父さんとお母さんはいつもボクには、飲むなと言ってきた物だ。


 だけど、ボクは空腹でどうしようも無かった。

 決まり事を破っちゃいけないと分かっていても、この空腹に抗えなかった。


 試しに缶詰めにされている物の内の一つを……噛んで開けて、啜った。


 ボクは一つ目の決まり事を破った。


 そのトマトスープは変な味がした。


 ザラザラしたような、舌染みるような味。

 腐っているのかも知れなかった。

 ボクが物心ついた時から、そこにあるから仕様がないか。


 でも、何故かボクは美味しいと思った。

 そして、何故か飲んだ瞬間に、体が熱くなり、空腹感が一気に無くなった。


 しかも、それだけでなく、何故か…力が沸いてきて、気分が良くなった。

 気分が良くなった勢いで、大声を上げてしまった。


 ボクは二つ目の決まり事を破った。


 暫くは、トマトスープのお陰で空腹感は満たせた。


 けど、何でお父さんとお母さんは、このトマトスープを飲むのを禁止にしたんだろう。

 こんなに、美味しいのに。


 一つ目と二つ目の決まり事を破ったボクは、せめて三つ目の決まり事を守るように頑張った。


 それもボクが十三歳の誕生日になった日に、限界が来た。


 いつもは一年のこの日になれば、お父さんとお母さんがボクの誕生日を祝ってくれる。

 だけど、お父さんとお母さんはこの世には…いない。


 一人ぼっちの誕生日に、とうとうボクは悲しくて、泣き出した。

 どんなに泣いても、お父さんとお母さんがボクを祝ってくれることは無かった。


 トマトスープも、とうとう尽きた。


 ボクは……三つ目の決まり事を破った。


 地下室から外に繋がる扉に手を掛けたのだ。


 ボクは外に出たんだ。

 ボクはとうとう、生まれて初めて外に出たのだ。


 ボクは確かめたかった。

 ずっと前から。

 本当に怪物がいて、本当に人類は滅んだのかと。


 怪物はいる、それは間違いない。

 だけど、人類は本当にボクだけなのか。

 まだ生きているのでは、と思った。


 地下室から出てみると、外には黒ずんだ壁の部屋…………いや、焼け焦げた小屋の中だった。


 地下室に繋がる扉は、藁で隠されていた。

 どうやら、ボクが今までいた地下室は、その焼け焦げた小屋の床下から入れるようになっていたのだ。


 小屋の外は、木がたくさんあった。

 小屋の周囲は、森になっていたのだ。


 絵本で読んだ通りだ。

 地下室の外は、こんな風景だったのか。


 今は夜であり、月明かりがボクを照らしていた。


 これが月か。

 絵本で読んだ通り、綺麗。


 怪物は夜には、余り行動しない。

 今が行動する時だ。


 けど、ボクはどっちに進むべきか分からなかった。

 だから、取り敢えず適当な方向に進む。


 森に入り、森の中を進む。

 森の中はシーンと静まり返っていた。


 夜の森はとても暗いけど、何でか目が良く見えた。


 暫く進んで行くと、森が途切れた。


 森の外には…………街とお城があった。


 見上げるほどに大きいお城。


 でも、お城の壁に至るところに蔓や苔が生えていた。

 壁の瓦礫もかなり崩れていた。


 お城の周りに、たくさんの家があったけど、遠目から見て、そのどれもが壊されていたり、焼き焦げていた。

 数十年間、誰も住んでいないような状態だった。


 怪物達に壊されたのだろうか。

 ボクは走って、お城がある街の方まで行った。


 街は耳がキーンと鳴るほど、静かだった。

 お城の周りある家を一通り回ったけど、誰もいなかった。


 本当に人類は怪物に殺され、滅んだのかな。


 数時間、街の中を歩いていた。

 興味本位でお城の中に入ろうとしたけど、お城の中に続く扉は石が崩れ落ちていて、入ることは出来なかった。


 ぐうう~。

 腹の虫が鳴る。


 何か食べ物は無いか。


 倒壊した家々の中を探し回っていると、ある家の下に地下に繋がる扉を見つける。


 ボクは扉を開け、そこに繋がる地下室に入った。


 地下室の大きさは、ボクが住んでいた地下室と同じほどの大きさだった。

 作り自体も似ている。


 地下室を見渡していると、部屋の隅に、缶詰めされたトマトスープを見つける。


 ここにもある。

 この家の元の人もトマトスープが好きだった?

 ボクはやむ負えず、その一つを噛んで開け、中身を飲んだ。


 うん、美味しい。

 お父さんとお母さんから飲まないように言われていたけど、やっぱり…これ、美味しい。


 ボクはすっかり、このトマトスープの味を気に入ってしまい、すぐに三つを飲み干す。


 空腹は満たされ、体から力が湧き出てくる。

 気分も良くなってくる。




 気づけば、辺りは日が昇り、朝になっていた。

 不味い、日が昇ると怪物が現れる。


 急いで、ボクの地下室に戻らないと。


 ボクはさっきまでいた地下室を抜け、街を出よう走る。


 そこで、街の外の森へ行く途中で、ボクは気づいた。

 いくつかの家の中には、ボクのいた地下室や今さっきいた地下室に繋がる入り口同様に、同じような地下への扉があることに。


 この街には、家の下に地下室を作る風習でもあったのかな。


 ガサ………。


 そう思って走っていた…その時、何かが動く音が聞こえてきた。

 同時に動くいくつかの影を目にする。


 ボクは咄嗟に近くにある家に身を隠した。


 怪物かも知れない。

 チラッと見たけど、怪物と思われるソイツは、ボクより大きく、銀色の体を持っていた。


 怪物が近くにいると思ったら、ボクは途端に怖くなって、冷や汗が止まらない。


 怪物は、ゆっくりボクが隠れている家に近づいてくるのが、音で分かった。

 音からして怪物は複数いる。


 来ないで!

 お願いだから、ボクに気づかないでください!

 そう願った。


 ボクの願いが通じたのか、音は段々と離れていった。


 ホッとしたのも束の間、ボクはうっかり足下にあった石を蹴り上げてしまった。

 カン…と音が鳴る。


 さっき遠ざかったはずの音が、こっちに向かってきた。


 ボクは大慌てで、逃げた。

 逃げて…逃げて…足を必死に動かした。


 恐ろしくて、後ろを振り返ることは出来なかった。


 「~~~~!!!」


 逃げる際中に、後ろから人の声みたいなのが聞こえた。


 けど、何を言っているか聞き取れなった。

 ボクは気のせいだと思い、逃げ続ける。


 必死に逃げたけど、行き止まりに差し掛かった。

 しまった!


 ボクは振り返って、息を整えながら、息を飲む。


 ボクを追っていた音が直ぐに近づいてくる。


 ああ……ボク、怪物達に殺されるんだ。


 そう思ったら、音がすぐそばまで近づいてきて、とうとう怪物の姿が見えた。


 「いたぞ!!」


 ボクは目を大きく開かせる。

 目の前には怪物はいなかった。


 いたのは………………人だった。


 それも鎧を着た人達だった。

 銀色だと思ったのは、鎧だったんだ。


 ボクは思った。

 やっぱり人類が滅んだなんて、嘘だったんだ。


 そう思って、ボクは鎧を着た人達に近づこうとする。


 けれど、鎧を着た人達はボクを見て、こう言う。


 「見つけたぞ!」

 「もう逃げられねぇぞ!」

 「観念しろ!」


 鎧を着た人達は口々に、そう言ってきた。


 そして、持っている剣を僕に向け、こう叫ぶ。


 「ヴァンパイア!!」

 「吸血鬼め!!」

 「闇人が!!」


 ボクは、この人達の言っている言葉の意味が分からなかった。


 ばん…ぱ……いあ?

 きゅう……けつ…き?

 あん…じん?


 何のこと?


 「色白の肌に、赤い目、そして鋭い牙…………間違いない。こいつ、ヴァンパイアだ!!」


 色白の肌?

 赤い目?

 鋭い牙…………歯のこと?


 確かに、ボクの歯は上の二本だけ尖っている。

 お父さんのように。


 ボクは本当に何のこと分からなく、困惑する。


 そんなボクに、鎧を着た人達の一人が近づいて、剣を振り落とそうとする。

 その人の目は獲物の狙う獣のようで恐ろしい物だった。


 ボクは何か言おうとしたが、怖くて何も言えない

 ボクは恐怖と絶望で目を閉じた。


 今度こそ、死ぬ。


 そう思った時、


 「ぐ……があ…………」


 苦しげな声を聞こえる。


 目を開くと、僕に剣を振り下ろそうとした人は………首を噛み付かれていた。


 首に噛み付いている人は、お父さんのように目が赤く、口に鋭い二本の牙を生やしていた。


 そのまま首に噛み付いていた人は、一気にその人の首を噛み付ぎる。


 首から溢れる赤い水。

 その一部がボクの口に入る。


 ボクはビックリした。

 この味知っている。


 トマトスープの味だ。


 ボクは気づいたのだ。


 トマトスープだと思っていた物は、人の血だったのだ。

 ボクは人の血で、お腹を満たしていたんだ。


 それに気が付き、血の気が引く。

 同時に、手が震える。

 人の血を美味しいと思っていたボク自身に。


 首を噛まれた人は小さく悲鳴を上げながら、倒れる。


 「お、おい!お前!」


 仲間が突然現れた男の人に首を噛まれたことに、残りの仲間がようやく動きだす。


 すると、首に噛み付いた人は血だらけの口を開いて、鎧を着た人達の方を向く。

 その口には、


 「なっ?!お、お前…その牙!お前もヴァンパイアなのか?!」

 「…………そうだ」


 口が血だらけの状態で、その人は答えた。


 男の人が一瞬ブレたように見える。


 「うあ!!」

 「があっ!!」

 「ぎぐあ!」


 次の瞬間には、その人は鎧を着た三人の人を持っていた剣で殺した。


 剣に付いた血を口で舐め取って、ぐるりとボクの方に向く。


 ボクもその人の事が怖くて、後退りする。

 だけど、行き止まりだというのを思い出す。


 「俺はヴァラキア公国の騎士団だった者だ。俺と同じ生き残りがまさか、まだ生き残っていたとはな」


 その人はボクを殺そうとしなかった。

 それどころか、懐かしいような、寂しそうな表情を作る。


 だけど、分からない言葉を言ってきたのだ。


 ヴァラ…キア……公国?


 「お前……何処から来たんだ?親はどうした?何故、こんな所にいる?」


 その人の矢継ぎ早な質問に、ボクは困り果てる。


 だけど、ボクは何とか、その人に伝える。


 生まれてから十三年間、地下室で暮らしていたこと。

 外では人類が滅んでいて、怪物達がいるから危険なこと。

 一年前に、お父さんとお母さんが死んだこと。

 一人になり、食料も無くなったことで、外に出たこと。


 それらを話した。

 その人はボクの話を聞いて、苦笑いする。


 「怪物達によって人類は滅んだ……か。お前の父親と母親は”上手い嘘”を考え付いたもんだな」


 …………嘘?

 ボクは何を言っているか分からなかった。


 「だが、ある意味…真実か」


 そこから男の人はボクに話してくれた。

 真実を。


 ここは、「ヴァラキア公国」という国。


 かつて…ヴァンパイアと人間が共存していた国だった。


 ヴァラキア公国は、「ヨーロアル諸国」という様々な国が集合した国家群の南東にある小さい国であり、お城がある…この場所は首都の公都。


 ヴァンパイアとは、吸血鬼……または「闇人」と呼ばれる種族の一つ。


 「いや………種族の一つと言ってるが、実際には公国がまだ存在していた時の話。今だと…周辺国は昔のように俺達、ヴァンパイアを魔物扱い」


 ヴァンパイアは見た目は人間だが、色白の肌に赤い目、鋭い二本の前歯が特徴である。


 そして、人間よりも力が強く、人の血を吸うと、さらに力が増す。

 おまけに、日の光を長い時間、浴びると体が焼ける。


 故にヴァンパイアは基本、夜にしか活動できない。


 これが…ヴァンパイアが闇人と言われ、魔物扱いされる所以だそうだ。


 ここで思い出す。

 以前に、絵本で読んだ…よく分からない種族の事。


 人間に似ているんだけど、目が赤く口から二本の線………牙が入った種族。

 あれはヴァンパイアの事だったのか。


 「そう言えば、お前は日の光を浴びても何とも無いのか。…………ああ、そうか。お前は”混血”か。俺もそうだ」


 ヴァラキア公国は、今は無きヴァラ公王によって、百年ほど前に建国された小国であった。


 ヴァラ公王はヴァンパイア…それも、「串刺し公」とも呼ばれ、周辺国で恐れられるヴァンパイアだった。


 彼は力強いヴァンパイアだったが、同時に人間と友好的な関係を築きたいと願う心優しいヴァンパイアだった。


 それにより、出来たのが……ヴァラキア公国。


 ヴァンパイア達は昼に家の下にある地下室で過ごし、夜に行動する。


 ヴァンパイアは人の血を飲まなくても、生きていけるが、中には人の血を好物とする者もいる。


 だから、地下室には人の血を缶詰め状(ボクがトマトスープと思っていた物)にしたものが保存食として保管されていた。


 勿論、それらの血はヴァラキア公国にいる人間の善意によるもの。

 血を取る代わりに食料と交換など、ヴァラ公王は、そういったシステムを考えたようだ。


 ヴァンパイアの中には、人間と結婚する者も多くいた。

 人間と結婚したヴァンパイアは、人間と子を為し、その子は「半闇人」と呼ばれた。


 半闇人はヴァンパイアよりも力が少し弱い半面、日の光を浴びても大丈夫な体を持っていた。


 「それが周辺国には、脅威と思ったんだろうな。日の光に弱くないヴァンパイアは、他国からしたら恐ろしい存在だったんだろう」


 十三年前…つまり、ボクが生まれた年に、ヴァラキア公国外から人間が攻めてきて、ヴァラキア公国にいる人間とヴァンパイア、そしてヴァンパイアとの混血を殺していったそうだ。


 まるで、それは…お父さんとお母さんがボクに話してくれた怪物達が人類を滅ぼす話に似ている。


 「怪物達は他国の人間どもだ!ヴァラキア公国は建国以来、一度も他国を侵略しようとしなかった。俺達を化け物呼ばわりするアイツらこそ、怪物だ!!」


 男の人は叫び、怒った。


 ボクは尋ねた。

 この国にいる人はボク達以外、いないのか。


 「さぁな……公国にいた人間もヴァンパイアも、俺達…混血も殆どが殺された。生き残った者達も、十三年間ずっと他国からの残党狩りで数を減らしている。本当に生き残りは…俺とお前だけかもな」


 男の人は悲し気な顔で言う。


 そんな…………ボクはこれから、どうすればいいの?


 皆んながボク達を嫌ってる。

 どこに逃げても追われるんだ。

 ボクがヴァンパイアと人間の混血だから。


 ボクがどうするべきか迷っていると、


 「お前たちは何者だ?!」

 「仲間が死んでる!」

 「ヴァンパイアか?!」


 男の人の後ろには、鎧を着た人達がいた。


 「不味い!こいつらの仲間が駆け付けてきた!」


 どうやら男の人が殺した人達の仲間が来たようだ。

 だけど、逃げようにも、ここは行き止まりだ。


 すると、男の人はボクを持ち上げて、行き止まりの塀の向こう側へ放り投げる。


 塀の向こう側まで投げられたボクは、何とか立ち上がる。


 「お前は逃げろ!ここは俺が食い止める!」


 すぐに硬い物が、ぶつかり合う音が聞こえる。

 塀の向こう側で男の人が戦ってるんだ。


 ボクは足を動かし、逃げる。

 お城のある街を出た。


 「いたぞ!追え!」


 けれど、鎧を着た人達が後ろからボクを追ってきた。


 ボクは街の外にある森の中をひたすら走る。


 かなり森の中を走ったけど、それも限界だった。


 目の前に、大きな滝があったのだ。

 またしても行き止まり。


 後ろを振り返る。


 すぐ後ろには、鎧を着た人達がいた。


 「やっと追いついたぞ、もう逃がさねぇ!」


 兎を狙う獣のように、その人たちの目はギラついていた。


 どうして僕はこんな目に逢わないといけないのだろうか。


 好きで、ヴァンパイアとの混血として生まれたかった訳じゃない。


 普通の人生を送りたかっただけだ。

 お父さんとお母さんと一緒に暮らしたかった。

 それなのに…………。


 鎧を着た人達は剣を持ちながら、ゆっくりと近づいていく。


 ボクは決意した。


 滝の方を向き直り…………一気に飛び込んだ。


 数瞬後に、ボクの体に凄い衝撃が来る。

 滝に飛び降りたボクは水の中に溺れ、上か下かも分からず、必死に藻掻く。


 ボクの意識は水の中で途切れた。









 次に目を覚ました時、ボクは見知らぬ部屋のベットの上で寝かされていた。


 起き上がると、体に包帯が巻かれていた。


 誰かが水の流れたボクを救って、治療してくれたのだろう。


 ボクは部屋の中を見渡す。

 すると、ベットの脇に頭を置いて、寝ている女の子がいた。


 女の子はボクと同い年ぐらい。

 スヤスヤと眠っている。


 この子がボクをここまで運んで、包帯を巻いてくれたのだろうか。


 「う……んん」


 女の子が起きた。

 そして、ボクに顔を向ける。


 ボクは息を飲む。


 女の子があんまりにも綺麗だったからだ。


 淡い褐色の肌に、透き通った銀色の髪。

 エメラルドのような緑の瞳。


 ボクは息を忘れて、女の子を見ていた。


 そんなボクに、女の子は慌てた様子になる。


 「だ、大丈夫?!か、川に流されてたから!」


 ボクは女の子に、包帯を巻いたのは、君?…と聞いた。


 「う、うん!怪我してたから!」


 ボクは女の子に、深くお礼を言った。

 女の子は大した事はしてないと言ったけど、ボクにとっては命の恩人だ。


 しばらくすると、女の子は部屋の隅にある二つの石に花を供えた。


 何の石かと女の子に聞くと、


 「これ…………私のお父さんとお母さんのお墓」


 お父さんとお母さんのお墓?


 「お父さんは私がもっと小さい頃に死んじゃったんだけど、お母さんは少し前に病気で死んじゃったの」


 そう言った女の子は突然、泣き出し始めた。


 「私のお母さん………異国の人で……肌が私と同じ色なの。それで………村の人からは、私とお母さんは気味悪がられて。病気になっても薬を分けて貰えなくて」


 それを聞いて、ボクは怒りを覚える。


 肌の色程度で、女の子と母親を嫌う村人に。

 女の子はこんなに優しく、こんなに綺麗なのに。


 だから、ボクは言った。

 女の子に。


 君の肌はとても綺麗だよ……と。


 女の子は涙で潤んだ目でボクを見つめる。


 「そんな事、言われたの…初めて。…………嬉しい!」


 ボクは決心した。

 今日から、女の子と一緒に暮らしていこうと。


 「ボクの名前は………ジミー」


 ボクの名前を聞いた女の子も名前を言う。


 「私………マリン。よろしく、ジミー」

 「ジミー………良い名前」


 ボクとマリンはお互いに手を伸ばし、握った。


 差別された者同士、ボクらは手を取り合ったのだ。


 願わくは、ずっと彼女と一緒に居たい。

 そう思いながら、彼女の手を優しく握りしめた。




この話の後日談は『私の好きな人は吸血鬼』となります。

https://ncode.syosetu.com/n8464kg/



これは『水人  〜無能の水魔法使いは歴代当主に修行をつけられ、最強へと成る~』と同じ世界線での出来事です。

https://ncode.syosetu.com/n6976is/


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