ルームメイトがいたあの日
会社からの帰り道、私は家までの暗い道を一人で歩いていた。
足取りは、昨日と比べて幾分軽やかだ。
今日は金曜日、花金だ。今日は一週間分の疲れを、お酒を流し込んで癒そうと決めていた。一人晩酌も慣れたもんだ。
この時間帯はスーパーは、惣菜やおつまみが安く手に入るので、寄り道することにした。
それにしても、この道は街灯がないのだろうか。
女性一人が歩くには、とても危険な道だ。といっても、私は高校時代に部活で短距離を、外部では柔道連盟に所属していたので、まともにやりあうにも、逃亡するにもちょっと自信がある。
しかし、このシンと静まりかえった夜道は、身の危険よりも精神的にダメージがある。
怖い。
明るい道に出よう、そう思った時、後ろから得体の知れない気配を感じた。
気配、というよりも、何か私を包みこんでいってしまうような、大きい存在感だ。
虚無感、というのだろうか、気を抜くと後ろに吸い込まれいく――――そんな気がした。
歩くペースが自然と速くなる。
人の雰囲気はない。また、殺気や狂気的な雰囲気も感じ取れない。そこは安心こそできるが、それよりもあの無機的な雰囲気に恐怖を覚えた。
しかし、同時に不思議と既視感を抱いていた。
そうだ。これは家のソファを眺める時と一緒だ。冷蔵庫を開ける時と一緒だ。
無意識に買った、二本分のビールが音をたてた。
明るい道に出た。
12月、クリスマスが近づき、街の人々は手に取るように分かるほど、幸福の気配を纏っている。
安堵から、足の筋肉が弛緩していく。
その一方で、私は言いようもない空白を抱えているのだと痛感した。
あの人はもう戻ってこない。