98一番風呂とトカゲドリを見に来る人
たっぷり堪能して上がると彼へ声をかけた。
「一番に入らせてくれてありがとう」
「女湯は一人用だから先も後もないだろ」
「優先させてくれたから、お礼。次はどこ見るの?」
他にも案内したかったろうに、先駆けて温泉に入らせてくれたし。
「庭だ。外にある」
内側から外に出るらしく、玄関と逆方向にあるドアが開く。
「庭!」
そこにはトカゲドリもいる。
トカゲドリを見ていると寛いでいた。
だいぶこちらの環境に慣れたらしい。
良いことだ。
エレラはコレスを見遣る。
「この庭は好きに使え。広めに使えるから好きなように変えられる」
「ありがとう。色々試してみるね」
そして、お風呂場の隣には大きな露天風呂。
お風呂場にある扉を開けばそこと繋がっている。
「露天風呂おっきい」
「そのために家を建てたようなもんだ」
「本当にお疲れ様。住むかわかんなかったのに」
「どちらでもいい」
「ふうん。私も豪邸でもなんでも住めればよかったし、いい家に住めて幸運かも」
「そうだろ?」
自慢げに口元をあげる夫に、ふっと笑みが浮かぶ。
他のところも案内してくれる。
屋根裏とか、床下の収納など異世界のやり方の家を作り終えていた。
すごいすごいと、ずっと言いっぱなし。
彼も満足そうに頷く。
何度もすごいと、さすがと勝手に口に上がる。
さらに胸を張る仕草をする男に、気にならずただただ、家の中に感動したのでコレスの顔はペカっとしていた。
「そういえばさ、愛し子の誘拐犯どうなったの」
「まだ事情聴取中だ」
家の中身を見終わり落ち着くと、家具の配置は終わっているのであとは自分好みのものを、置いていく。
こういうのは、時間をかけてしていくものだ。
少しずつ変化していくことで、ここに住んでいると実感していくのだろう。
愛し子誘拐犯についても気になったのでたずねると、リアルタイムでコレスが見ているらしい。
結構まめに見ているので、それならば映像の魔法をやってみればいいと言うと、すでに今作っている最中らしいから、さすがにわかるかと笑う。
映像化の魔法ができれば、色々やれることができるとわくわくする。
「私を攫って、なにか得でもあるのかな?」
「あるだろ。妖精がいると攻撃力があがる」
「愛し子だけじゃないの」
「愛し子が好意的に思えばいいみたいだ。それでも愛し子よりは弱い効き目になるが、ないよりましだ」
「誘拐犯に好意は抱かないよ」
「監禁してればいずれ、無理矢理好意を抱かせられるって戦法になる」
「異世界でもそんな心理的なやり方あったなぁ。かなり時間がかかるみたいだけど。割に合う?」
エレラは息を吐き、愛し子という立場を急激にやめたくなった。
妖精は見えないので己が愛し子だという実感は、さっぱりない。
返上したいんだけど。
それか、皆が妖精を見えなくなって欲しい。
そうすれば、誰が愛し子かなんてわからなくなるしね。
「他にもいるの?愛し子の誘拐計画立ててる人」
「いるぞ。貴族に」
「いるんだ?そして知ってるとは……察知したら即座に潰せる利点はあるね」
「お前に手を出しかけたり計画をしたら潰す」
ふんふん、とこくりと頷く。
「なら、潜在的計画は大丈夫だね。襲われた日は予見できそうだった?」
「他にもさらう候補がいるから難しいな」
「他にも協会に属してない愛し子っているんだ?」
「いるぞ」
得るものがある会話。
もう直ぐ武闘大会が開催されるのだが、結局彼はどうするのだろう。
「話変えるけど、武闘大会どうするの?」
「参加する。もう参加するとエントリーしている」
男はさらりと結構重大なことを言う。
今は花火を作るために、手元で色々捏ねくり回している。
「そうなの?止められなかった?」
「止められなかった。寧ろ話題になると言われた」
それは、確かに目玉有名人になる。
大物が出るとなれば客も集まりやすい。
Sランクの男が出るとなれば、一目見れればいいなという心理が働く。
「それでいいの?私も見に行くけど」
「エレラが観に来ないのなら出ない」
「観にいくから好きに出て」
苦笑して、見に行くからと強めに言う。
コレスがなにかに気付いた様子でそういえば、と言葉を発する。
なにかあれば話すのが最近は普通になっているので、こうして話すのはもう苦ではない。
「最近、トカゲドリを見に来てるやつがいる」
「そうなの?トカゲドリってわかるもんなのかな」
「図鑑で見なきゃわからない。別に知られても構わないが」
「普通はそんなところに最恐生物が檻にいるなんて夢にも思わないもん」
そうだそうだと納得する。
多分、どちらか判断できずに悩みながら見に来ているのかも。
王達が一瞬でわかったのは、一人が断定して皆でさらに見に行きアレはそうだと言い合ったに違いない。
「その人騒ぐ?」
「騒がない。目の前にいて本物かもしれないと思っているから、声一つあげない」
「それもそうだね。私だったら二度とこないけど、その人毎日来てるのか」
「この間は知人を連れてきて、図鑑を片手にしていた」
「私たちの土地の中に入ってきてる?」
「来てない。ギリギリ外側だ。遠目だからまだ確信に至ってないらし」
などと、不安なことを言われる。
バレることではなく、土地や敷居を跨がれることだ。
「知らない人が近くにいるのやだね」
大丈夫だ。
と、彼は言う。
土地に入ってきたらセキュリティ的にわかるらしいし、ここへきた人はどこの家にもある呼び鈴があるのでそれを鳴らせばいいと言われる。
そして、入れないように結界みたいなものをやってくれているとか。
前の家の時や、前の街の時にもしてくれたもの。
それならばホッとする。
「男の人?女の人?」
問いを増やす。
「男二人だ。そういうことだから絶対に中には入らせない。なにに変えてもな」
武闘大会よりも俄然気になる。
「少しずつ増えるかもね?別にいいけど、ついでにそこで何か売る?」
「それはいい。売りつけてやれ」
恐怖を感じたら喉を潤わせたいので水だ。
ということは、水筒も共に買ってもらえればいいや。