97水洗トイレ
うまいこと話を繋げてくるので、やりおるコヤツ……と思う。
「……ちょっとね、ちょっと」
「できれば切り替わらずに」
「わかってるってば」
ギクシャクしながら、彼の腰へ手を寄せていけばコレスはクイッとこちらの腰を引き寄せる。
「むっ」
そして、肩に顔を寄せて抱きしめさせておく。
これはお礼、これはお礼と唱える。
「ねぇ、何秒くらい?」
「一億秒」
「長いな。普通にお腹空く時間になっちゃうし」
話しながらモゴモゴと小さく口を動かす。
彼は満足そうにギューッとする。
「気に入ったよな?」
「うん。それは凄く」
こくりと頷き。
そこだけは、ありがたいなときちんと思ったので。
「他にもある。見てくれ」
「えっ?」
くるりと抱きしめられている状態から、肩を手で包まれている状態になり、前を歩くように誘導される。
「え、え、なになに?」
「トイレ」
「トイレ?うん」
凄く上機嫌になった男に連れられて、トイレのある方向へ連れて行かれる。
「ここだ」
「なんか、ほんとに現代っぽい家だね」
ドアも壁も額縁も。
額縁が空なのだが、なにか描くつもりなのかもしれない。
トイレの扉を片手で開けると、ピカピカなつるりとした水栓トイレが。
「すい、せ、ん?な、なんで」
まさか、と彼を見る。
「夢でじっくり見た。かなりの頻度で見ているから、夢にしょっちゅう出てきている」
「トイレが。でも、そのおかげでこれができたってんなら構わない。でも、どうやってこれ作ったの?」
「設計図はなかったが中身の構造は見れた。見たことがあるということだな」
「んー、見たことあるのかわからないけど、あるかも」
展示場とかに行ってたら、見ただろうね。
ニコニコした顔に、何度も座った。
もちろんフタを閉めた状態ね。
「やー、トイレが一番嬉しい」
「水回りは全て源泉だから使いたい放題だ。好きなだけ使え。あとは、本命の風呂」
「きたきた!待ってました待ってました!」
何度も述べる。
諸手を挙げた。
顔を緩めると夫はさらに嬉しいらしく、肩にある手がさらに強くなる。
ドアを開けるとそこにはピカピカな新品の浴槽。
「すごい。なんていう現代の浴槽!」
「ああ。大工に木工店や他の店に頼んでやらせた」
「うう、イセカイで浴槽に入れるなんて」
涙ぐむ。
「入るか?」
涙を拭いていると男がどうだ、と話しかけてくる。
「え?」
女は驚いて彼の方を向く。
浴槽と彼を交互に見遣る。
(入っていいの?)
はくはくと口を開ける。
入りたい。
こくりこくりと頷き、彼は入り終えたらまた案内すると付け加えると、お風呂の使い方を一通りこちらに教えてから廊下に消える。
「やった、入れる」
見送ってすぐに、お風呂へ入るために用意をしてルンルン気分で、浴槽に湯を溜めていく。
にこにことなる顔をそのままに湯が中に入っていくのを見る。
「天然の温泉がお風呂で入れるなんて……過去何かいいことやったのかも」
中にハマっていく様は、見ていて飽きない。
いそいそと中へ入り、満足な声が浴槽を波紋させる。
くう、となった。
「最高」
ぐっと手を上へ挙げて反響するバスルームに目を閉じた。




