94雷お披露目と野良愛し子は狙われやすい
よくよく考えなくてもありえる。
用事がなくても、王宮や貴族の家に忍び込みに行く人だ。
そこに犯罪者かそうではない区別など、あるわけもなかった。
「おれがSランクと知っているはずなのに、襲ってくるとは予想外だが」
「それもそうだよね。なんで?」
この世界で高ランクとは手を出すなという、常識の話になる。
「まあ、別にいい。これを人に向けてやりたかったからな」
集団に向けて滑るように前に出た男は、手を下に振ると空からびかりと光が落ちる。
お披露目できたと彼は満足そうにしていた。
「眩しい……」
目を周りに向けると倒れていた。
雷が使い物になっている。
これを人に向けて使う機会がなかったのだろう。
消化できたからか、コレスは男たちを蹴り飛ばしながらひとまとめにする。
げしげしと足で転がして警備のいる場所までころりころりと転がして行く。
なぜ、呼びに行くなどということをしないのか。
それについては、わからないけど置いて行くのも嫌だし逃したくないという気持ちは、こちらにもある。
狙われたし、狙ってきた人達のことは一生前に出てこられないようにしてほしい。
怖すぎる。
エレラは普通の主婦なのに。
新婚なのに。
普段なら言わない言葉を、これでもかと前面に出す。
「な、お、おい!なにをしている!」
街の中で男たちを蹴り転がしている不審な漢を見つけた兵士達。
町の人達もギョッとした顔でこちらを見ている。
彼らがコレスを見ると彼はギルドカードを出す。
Sランクカードだ。
「え、えす!?こ、コレスさん!すみません!知らないとはいえ!それで、これは一体」
びっくりする人たちに彼は愛し子を目的とした誘拐犯だと突き出す。
厳格な罰を与えなかった場合、後日彼が私的に制裁しにいくかもしれない。
兵士達に引き渡す。
そんな些細なことは頭の隅にやり、被害届を出して、あらためて帰宅。
ため息を吐いて、首をテーブルにやる。
「疲れたか?寝るか?」
「ううん。大丈夫。流石に今回は危機感を感じたかも。助けてくれてありがとう」
男は隣に座ると背中を撫でて慰めてくれる。
誘拐されかけるなんて経験ないわけで、ぐったりだ。
モンスターよりも人間の方が怖い。
「大丈夫だ。どんなやつがきても」
「誰の言葉よりも安心する。本当に、はぁ、コレスがいなかったら一瞬でさらわれてた」
「そうか?別に平気だ。お前には常にいろんな守護がある。例え、何かされようとしても守り切れる」
「そういえばそんなことも言われてたね。すっかり忘れてた。襲う人なんていないしさぁ」
ちょっと精神的に疲労が溜まる。
彼は温かい飲み物をくれて、飲む。
温まると共に落ち着く。
「今日は隣で寝てくれない?」
「いいぞ」
回答が瞬足過ぎて笑った。
「寝られるかもわからないし、襲われるってキツイね。コレスはいつもどうやって対処してる?」
「ボコボコにその分する」
「だよねー」
相手へ襲われた怒りよりも上回る罰を与えることにより、こちらの方が強いと上書き。
それで、襲われても平気という気持ちが整う。
などとユーモア混じりに解説していく。
「その分、お前が怯える度にあいつらをボコボコにしてくる」
「うん」
エレラは取り敢えず頷く。
今複雑なことは、なにも考えられないから。
飲み終えると隣にいて、ずっと隣で色々話をする。
してもらうよりも、エレラの方が話題提供の量は多いので。
「桃太郎の話するね」
「こういう日があるなら、毎日襲われたくなるな」
「襲われたくないっての」
やはり、ツッコミをしてしまった。
うっかりうっかり。
「桃はね川から流れるの」
「人間に拾える速度なのか」
「気になるところそこ?」
桃とはなにか、ということも伝えながら異世界昔話を伝える。
「メモする」
「メモ。出た。異世界言葉覚えるの好きだねぇ」
話をまとめてコレスはふんふん、と理解していくように読み込む。
「モモタローは犬、きじ、猿を手元において、鬼退治したと」
モモタローは言い慣れないらしく、したったらずに発音される。
顔がいいから、なんだかそこだけ可愛く思える不思議。
勘違いと己に言い聞かせておき、就寝した。




