93水鉄砲発売開始&愛し子誘拐事件(コレスはどこでも忍び込んでいたらしい)
まあ、そっちの方が安全だしね。
話し合いも済み、後日また契約書を作成して持ってくるという王の言葉に最強格の男はこくりと静かに頷いた。
「では、また後日」
見送るとエレラは妖精達に水を入れた。
ようやく帰ったという空気の家の中は、静かである。
妖精たちについて、もはや何も口にしなくなったのが気になった。
彼に、そのことを聞くと、それは当然だと笑った。
妖精たちは、過去類を見ない数になっていると伝えられる。
「何も言えないだろ。ここまで増えると」
「その、愛し子たちの妖精の数が減ってるってことはあるの?」
「あってもごく僅かだ。今までなついてない野良妖精がこっちに来てるだけだ」
愛し子協会が、エレラやコレスに愛し子としての登録をしてもらえまいかと、てぐすね引いてやきもきしていることなどエレラは知らぬまま。
コレスは説明し終わるとトカゲドリの卵を箱に詰める。
「一番古いのを詰める」
「そこはせめて、真ん中か新しいのにした方がいいと思うけど」
コレスの抜け目ない行動に苦笑いして、椅子に座った。
*
水鉄砲を宣伝してくれる子供とギルドで落ち合い、説明をしておけの中に水をザァザァ入れるとそこに入る様に伝えて水鉄砲を使ってもらう。
実務的なサクラだ。
宣伝要員を準備し終えたエレラは、水鉄砲をテーブルに並べてひたすら待つ。
あれはなんだ、という客の質問に答えていく。
コレスも隣にいる。
今は皿の絵付けをして、それをテーブルに並べて値段を書いた紙を置く。
ちょっといい値段だけど買えないわけではない。
これもすでに特許登録しており、絵付けという技術を誰かに独占されることもなくなった。
お皿の売れ行きもなかなかすごい。
毎日、せっせとやっていたから結構な数になっている。
「水鉄砲ください」
「はい」
子供のお小遣いでも買えるように値段は安めにしてある。
買わせたいというより、使わせたいので普及させたい。
エレラはもっと値段を下げてもいいかと思っている。
数もセット売りにしたい。
魔導販売機器に入れたら、値段を下げる。
セット売りにすることで値段を低くすれば、みんなで買って分け合うという方法が取れるはず。
子供達ならば分け合って遊ぶ。
水鉄砲の遊び方を実演しているのでわかりやすいためか、売れ行きは早い。
売り終えるとギルドで雇った子供たちにお礼を述べた。
「今日はありがとう」
そう告げながら、水鉄砲をたくさんあげる。
「他の子と分け合ってね」
「ありがとうございます!」
とても嬉しそうにする。
「わあ!嬉しい!」
「早く帰ろう!」
「うん!さようならっ」
子供達はニコニコとお礼を言いながら、去って行く。
それを見送ると、二人は帰路につく。
今日も売るのが楽しかったと話し合っていると、夫が険しい顔をして後ろを向く。
どうしたのだろうかと聞こうとしたが、その前に黒い服をまとった、いかにもな雰囲気の男たちが夫婦を囲む。
「なに!?」
「愛し子誘拐の集団だ」
「ええ!?なんでそんなこと知ってるの?見ただけでわかるとか!」
コレスの言葉に驚いたのはエレラだけではなく、誘拐集団もだ。
動揺が集団に走ってる。
なぜそんな的確に当てられるのかと。
「お前たちがいるという情報は既につかんでいたから、お前たちのいる建物に既に忍び込んでいたからだ」
相手の疑問に音もなく答える。
「な、なぜ……」
何の意味があってそんなことをするのかと言う相手の目が、恐怖に怯えている。
「趣味だ。あと、エレラが妖精に好かれすぎて溢れているほど近くにいることは愛し子協会としてもかなり話題に上がっている。登録してない愛し子なんて犯罪集団には格好の的。だから、以前からいる犯罪集団のいる場所には、一通り忍び込んで動向を確認している」
「ひっ!」
最強の言葉は嘘ではないと、相手は緩む。
「本当に知っているかという証拠は示せるぞ?お前、この集団のボス。名前はデザ。酒を飲むと笑う」
「嘘じゃない」
周りにいる男たちはボスを見ながら後ろに後ずさっていく。
集団が現れたことよりも、コレスがすぐに把握して相手をどういったものかと、当てることに驚きすぎて襲われている衝撃の出来事が吹き飛んだ。
いつも犯罪集団や組織に忍び込んでいるのか。




